資本主義の未来(4)「変革する力」取り戻せ 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「資本主義の未来(4)「変革する力」取り戻せ」です。





資本主義を機能させるには「市場の失敗」など、その欠陥を是正する仕組みの設計が重要だ。例えば利用者がサービスの質を判断できない場合(情報の非対称性)、事業者の参入やサービスの質を規制する必要がある。

しかしその規制が必要性を失っても、事業者は撤廃に強く反対するように、一度つくられた制度を変えるのは簡単ではない。制度の改革が遅れると、産業の活力低下などの市場のゆがみを生み、今度は「政府の失敗」が生じる。

いま資本主義の姿は、デジタル化を核として変容しつつある。デジタル化がビッグデータ、人工知能(AI)、あらゆるモノがネットにつながるIoTなど、第4次産業革命と呼ばれる新たな段階に入った。それらが日常生活に浸透するとともに、イノベーション(技術革新)のスピードが極めて速くなり、市場の構造も不連続に変わっている。

この変化をいかに迅速に受けとめ、さらには変化を起こす側になれるかが、企業の将来を左右する。それと同様に資本主義の欠陥を是正するはずの制度もまた「変革する力」を内包していなければならない。制度改革の遅れがもたらす弊害は、ここへきて格段に大きくなっている。

本稿ではデジタル化による市場の構造変化と、そのスピードに追いつけない規制や制度の問題点、およびその背景にある要因を考えたい。

最近のデジタル化がもたらす市場の構造変化は、第1に技術やビジネスモデルの転換が短期間に起きることだ。画期的な技術が生まれるスピードも速いが、それが普及するスピードも速い(図参照)。

第2に事業の担い手が大きく変化しつつあることだ。他の事業分野からの参入だけでなく、個人が事業の担い手になることもある。例えば民泊では仲介事業者が大きな役割を果たし、個人が宿泊サービスの担い手になる。魅力的なデジタルプラットフォームを構築した事業者は、自らの企業規模に関係なく膨大な数の利用者を集め、そこで蓄積した情報を糧に新たなビジネスモデルを生み出し、既存の産業分野の垣根を崩していく。

第3にこの動きが一気にグローバル展開されることだ。世界中の人がインターネットにつながる状況下で、最初から国内と国外を意識せず、グローバルにビジネス展開をする企業が多数登場する。

こうした市場の変化に対して、現在の制度改革がいかなる問題を抱えているか、筆者が担当する規制改革を例にとって考えてみよう。

いま起きている市場の変化に対し、日本の規制を巡る構造は極めて不適合にできている。第1に日本では「まずやってみよう」ということができない。規制緩和後に問題が起きると、その対処策を議論するよりも前に、規制改革全体への批判が広がりがちだ。イノベーションにつきものの試行錯誤が許容されない。

第2に日本の規制は業種ごとに細かく分類された「業法」を根拠とするため、産業や業態をまたいで複合的に起きる技術革新や業種を横断するニーズの登場に対応できない。

第3に業と官の結びつきが変革を遅らせる。規制当局は、業法が対象とする既存事業者とは常に意思疎通を図っているが、新規参入しようとするイノベーターはこの結びつきに入れない。政治も含めて供給側の現状維持を図る力が強いがゆえに、規制の変革には膨大なエネルギーと時間を要する。

そしてこの裏返しとして、利用者・消費者の利益を反映する機能が弱い。最近の技術革新は消費者利便を原動力とし、供給者と消費者が相互作用しながら進化するものが多いから、この点は致命的だ。

不要な規制がいつまでも残ると、価格高止まりや産業の活力低下などの弊害を招く。さらに今後は当該産業にとどまらず、広く社会の様々な場での技術革新や、新産業の創造が阻まれることになろう。最近の技術革新は、個別の産業を越えて流通やファイナンスなどの横断的分野で起きたり、シェアリングエコノミーのように全く新しいビジネスモデルをもたらしたりするからだ。しかもそのスピードは極めて速い。

現在の規制体系のままでは将来の成長機会が損なわれる可能性が高い。市場や産業の構造変化が大きいだけに、個々の規制のみならず、法体系そのものを見直す努力が必要だ。これは相当に大掛かりなことではあるが、試みがなされた事例はある。

通信・放送の分野では、両者の融合が急速に進むにもかかわらず、全体で9本の縦割りの法律が存在し、新たなビジネスモデルを持つ事業者が多様なサービスを提供する形態になっていなかった。

そこで法改正の過程では、事業ごとの縦割り型法体系を伝送、プラットフォーム、コンテンツといった横断的機能のレイヤー(階層)に応じた横割り型法体系に大胆に組み替えることが検討された。結果的には放送法制の一本化、電気通信事業法制の一本化にとどまったが、これは産業構造の変化に法体系を対応させようと試みた貴重な事例だ。

さてここでは規制改革を例にとったが、(1)現状を維持しようとする力の強さ(2)多様な主体の意見が反映されにくい仕組み(3)省庁ごとの縦割りの政策体系――という要素は、税制や社会保障など他の制度の議論にも共通しており、その改革を遅らせている。「変革する力」の弱さは規制政策にとどまらない。

これらの問題は、第4次産業革命が日本経済にもたらす新たな可能性を狭めるだけにとどまらない。AIが将来の雇用や所得分配にどのような影響を及ぼすのか現時点ではまだみえないが、どんな影響を受けるにせよ、税制や社会保障制度、雇用制度などを変えていく力を持たなければ適切な対応はとれない。

政策は幅広いステークホルダー(利害関係者)との調整の中でしか実現しない。そうではあってもスピード感を持って意思決定し、途中で問題点を修正しながら良い制度にしていく仕組みが必要だ。一度決めたらなかなか変えられないというのでは、技術・人材・資金など、日本が持てる資源を最大限に生かすことは決してできない。

日本の政策決定プロセスは2001年の省庁再編を機に大きく変わった。経済財政諮問会議など首相主導の政策決定プロセスがつくられたことで、難しい政策課題や複数の省庁にまたがる問題について透明性とスピード感を持って議論する仕組みができた。これが経済構造改革の推進力となったことは間違いない。

この仕組みをベースとしてさらに歩を進め、個々の制度改革をより柔軟に、かつ戦略的に進めるための政策決定プロセスをつくり出す必要がある。それは(1)産業構造の変化に対応した横割りの視点(2)利用者・消費者の視点(3)多様性を包含する視点――が重視され、データや理論に基づく議論がなされるプロセスでなくてはならない。

戦後、資本主義は様々な課題を突きつけ、日本はその都度解決の努力をしてきた。第4次産業革命も日本経済に新たな可能性と課題をもたらしつつある。ただし今回は変化のスピードが非常に速いことが特徴であり、日本の経済政策にとっては大きな挑戦だ。危機感を共有しながら、旧来の政策決定プロセスを根本から見直し、次世代により良い成長の姿を引き継ぎたい。

〈ポイント〉○制度の改革が遅れると「政府の失敗」招く○第4次産業革命で技術革新は格段に速く○規制改革の問題、税制・社会保障にも共通

〈ポイント〉

おおた・ひろこ 54年生まれ。一橋大卒。規制改革推進会議議長。元経済財政担当相

おおた・ひろこ



黒田緩和修正 私の診断 金利政策に徹するべき 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「黒田緩和修正 私の診断 金利政策に徹するべき」です。





今回の政策変更は全体として「引き締め」でも「緩和強化」でもない、ニュートラルなものだった。長期金利の上限を0.2%に引き上げた一方で、引き締め効果を伴わないよう強めのフォワードガイダンス(将来の指針)を導入し、金利上昇圧力を相殺した。日銀は忍び足で、量を減らし金利を引き上げることで、出口へのプロセスを一歩進めた。

フォワードガイダンスでは2019年10月に予定される消費増税の影響を見極めるため、少なくとも20年までは現在の長短金利水準を動かさない方針を明確に示した。長期金利の変動幅をプラスマイナス0.2%程度にまで広げたが、さらに拡大するとは考えにくい。

長期金利が「上限」の0.2%に張り付いて、再び値動きが硬直化するのは時間の問題だ。国債市場の需給に合わせて金利が動くようにしないと市場機能は改善しない。

金融システムの問題では、政策金利そのものの水準を変えない限り改善効果は期待できない。

日銀は量と質、マイナス金利と長期金利誘導という4つもの政策手段を導入し、関係性や効果が非常に分かりづらい。「80兆円」といった量の目標は全てやめ、金利政策に徹することが必要。政策委員が5年くらい先までの金利見通しと望ましい中立金利水準(ドット・チャート)を示すことを通じて、長期金利をコントロールしていく仕組みを導入すべきだ。

日銀は引き締め方向に当面動けず、景気後退があるとすれば、次の一手はマイナス金利の深掘りとなる可能性がある。ただ利回り曲線の傾きに配慮する必要がある。短期金利が低くても長期金利との差が十分あれば、金融機関は利ざやを稼ぐことができる。



スタートアップ大競争 変わるかニッポン(4) 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「スタートアップ大競争 変わるかニッポン(4)」です。





「僕の人生は69歳からスタートした」。リチウムイオン電池開発・製造のエリーパワーの吉田博一社長(80)は振り返る。

(画像:自宅で子供の世話をしながら働くシナモンの平野社長(東京都内))

旧住友銀行(現三井住友銀行)で副頭取まで務めた。65歳を迎え、「自分はまだやりきっていない」という思いが頭をもたげた。

69歳で立ち上げ

そんな時に出合ったのが母校・慶応義塾大学で進んでいた電気自動車開発プロジェクト。ネックが安全で安いリチウムイオン電池の開発と知った。大手電池メーカーは及び腰だったなか、69歳で家族の猛反対を押し切り仲間4人で起業した。

「過去のつてに頼れば本物になれない」。古巣に頼らず、飛び込み同然で資金集めに奔走。大和ハウス工業の出資を機に大企業の出資が決まり軌道に乗った。攻めの姿勢は崩さず、生産能力を3倍にする約200億円の投資も決めた。

定年後は社会の片隅で悠々自適の年金暮らし。昭和の時代に当たり前だった風景が急速に色あせようとしている。

起業実態を国際比較するグローバル・アントレプレナーシップ・モニターによると、日本の55~64歳の起業家率は16年に6%と14年の3%から2倍に増えた。武蔵大学の高橋徳行副学長は「シニアの起業が広がれば経済が活性化する」と説く。

とかく画一的といわれる日本の組織。米民生技術協会(CTA)が1月にまとめたイノベーションが起きやすい国のランキングでは、日本は38カ国中25位。多様性や新規事業のやりやすさの評価の低さが響いた。経験のあるシニアが突破口になれば、人生の選択は広がり新規事業に冷たい風土も変わりやすくなる。

もう一つの焦点は女性だ。人工知能(AI)開発のシナモン(東京・港)の平野未来社長(34)は12年、東南アジア向けの写真共有アプリで創業した。事業が行き詰まっていたときの第1子出産が転機だった。

母となり変化

「この子が大人になり働き始める20年後までに日本人の働き方を変えることができたら」。母になり見えてくる世界が変化。学生時代にAI企業を率いた経験を生かそうと、事業を見直した。

現在は面倒な事務作業を全てAIが肩代わりするソフトを開発。人間はAIに業務の一部を委ねる分、より創造的な事業に傾倒できる社会を描く。6月にソニー系ファンドなどから総額9億円の調達に成功した。

起業の聖地・米シリコンバレーで女性軽視がいまだにはびこっているのと同様、日本の投資家の間でも「女性は成功しない」との俗説が根強い。これは必ずしも正しくない。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は7月、「女性起業家は資金を調達しにくいが、男性起業家より収益を上げる」とのリポートを発表した。女性の平均調達額は男性の5割以下の93万5千ドル(約1億円)。だが収益は73万ドルと1割上回るという。

BCGは「様々なバックグラウンドを持つ多様な人材が経営陣にいることで、問題解決に様々な角度からの答えを用意でき、どれかが顧客に『当たる』可能性が高くなる」と指摘する。多様性が強みを生むとの見方だ。

人手不足を背景に、シニアや女性の活躍の場は広がる。もう一歩進み、起業家が増えれば日本の風景も変わる。

加藤貴行、榊原健、京塚環、佐藤史佳、鈴木健二朗、駿河翼、矢野摂士が担当しました。



副作用への対応不十分 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「副作用への対応不十分」です。





今回の決定は現状維持を続けるための微調整にすぎない。新しく導入されたフォワードガイダンス(将来の指針)は「当分の間、極めて低い金利水準を維持することを『想定している』」との弱い表現で、将来の政策を縛るものではない。今後の金融政策の方向性は、経済や物価情勢、市場の反応にもとづく政策委員会の判断で変わってくる。

大事なのは、物価見通しを大幅に引き下げたにもかかわらず追加緩和をうまく回避できたことだ。「緩和の強化」か「正常化の一歩」かどちらにもとれる曖昧な文言にあえてし、市場の混乱や批判を避けられた。

大規模緩和の副作用への対応は不十分。いま政策を修正しても、金融機関の収益改善には時間がかかる。金融システムに停滞の懸念が強まるなかで、国債市場の機能度合いへの配慮にとどまったのは、政策委員会が副作用と本気で向き合っていないからだ。政策委員が議案を出すことで、日銀内で本格的な議論がなされることを期待する。

金融政策の出口論は、出口が遠い時期にこそ進めた方がよい。金融・経済情勢を総合的に判断して適切な水準に利回り曲線を引き上げることは、金融引き締めとは別物だと発信すべきだ。出口に関する議論を日銀が一切封印しているために混同を招いている。

日銀は市場ときちんと対話する必要がある。まず経済・物価見通しは現実的なシナリオを出すべきだ。物価上昇の「モメンタム」や株式市場の「リスクプレミアム」は、どういった指標・基準で判断するのか明らかにすべきだ。現状では日銀がどう動くか手掛かりとなる材料が少なすぎて、市場では政策を深く議論することができない。



日本の最低生活保障を考える(2)生活保護に負荷かかる構造 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「日本の最低生活保障を考える(2)生活保護に負荷かかる構造」です。





私たちは、現役期にはフルタイム就労によって、就労できない期間や引退期には適切な社会保障制度によって、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができることを社会の暗黙の前提としています。

OECD(経済協力開発機構)加盟国に共通する、最低生活を保障する主要制度として3つ挙げられます。現役期は「最低賃金」、引退期は「基礎年金または最低保証年金」、さらにこの2制度では最低生活に達しない全ての人々に対する「公的扶助」です。

これら3制度について他国と比較すると、日本には3つの特徴があります。第一にフルタイム労働者の平均賃金と比べると、最低賃金は4割弱であり、日本はOECD諸国の下位5分の1に入る低水準です(2015年)。第二に、公的扶助が基礎年金または最低保証年金より高いのは日本を含む3カ国のみです。第三に、公的扶助と住宅手当の合計額と、最低賃金額が最も近くなっています。

日本の公的扶助すなわち生活扶助(1級地1基準・単身世帯)は、フルタイム労働者の平均賃金の2割の水準で、OECD諸国の平均とほぼ同じです。ただし、日本は一般低所得世帯向けの住宅手当(公的家賃補助)が存在しない、数少ない国の一つです。最低賃金で働く労働者には住宅手当がない一方、生活保護受給者には住宅扶助があるため、両者の水準は近づきます。

このように日本は最低賃金や基礎年金が相対的に低く、住宅手当もないため、生活保護制度に負荷がかかる構造となっています。

改正最低賃金法が08年に施行され、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、最低賃金決定の際、生活保護制度との整合性にも配慮することになりました。

最低賃金は順調に引き上げられ、生活保護よりも低い「逆転現象」はなくなったとされます。ただし、これを示す中央最低賃金審議会の資料では、住宅扶助は特別基準額(給付上限額)ではなく、給付実績額を用いていることに注意が必要です。特別基準額が給付実績額よりも高いことを考慮すると、生活保護に負荷がかかる構造はいまだに存在すると言えるでしょう。



米中貿易戦争、譲れぬ両首脳 2018/08/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「米中貿易戦争、譲れぬ両首脳」です。





トランプ米政権は7日、中国の知的財産侵害に対する制裁関税の第2弾を23日に発動すると発表した。中国政府も8日、同規模の対抗措置を米国と同時に発動すると表明、高関税の応酬は止まらない。歩み寄りの兆しは見えず、双方とも自国への打撃を顧みずに貿易戦争に突き進んでいる。経済合理的な判断ができない背景を探ると、それぞれの首脳を取り巻く内政事情がある。

(画像:米中による高関税の応酬が続く(昨年11月の首脳会談)=ロイター)

トランプ大統領が意識するのは接戦が伝えられている秋の中間選挙だ。2年後に控えた米大統領選に向けた第一歩とするためには、自身の支持基盤を固め直すことが欠かせない。そのよりどころとなるのは予想を覆して勝利した2016年の大統領選での成功体験にほかならない。

バノン主義加速

カギを握るのはすでにホワイトハウスを去ったトランプ氏の理論的支柱だったスティーブン・バノン元首席戦略官・上級顧問。英フィナンシャル・タイムズ紙のジャナン・ガネシュ氏は7月の同紙面で、米政治ではバノン氏の主張である「バノン主義」が同氏がホワイトハウスにいた時より強くなっていると指摘した。

具体的には移民排斥や孤立主義的な外交政策だけでなく、保護主義的な経済ナショナリズムを中心に据えた「米国第一」の主張だ。既存の秩序の破壊をいとわない「反エスタブリッシュメント」も掲げてポピュリズムをあおり、16年大統領選で当選の原動力となった白人労働者層の利益に訴える効果があった。

そのバノン氏は独特の個性でホワイトハウス内にケリー首席補佐官ら多くの敵をつくり、追われるように17年8月に政権を去った。しかし選挙を前に、トランプ氏にはかつての勝利の方程式が一段と輝きを取り戻す。バノン氏と対立したケリー氏らの影が薄くなった今、バノン主義は一段と先鋭化し、核となる貿易政策で強硬路線へと突き進んでいる。

「1強」に批判も

一方の中国は8月に入り、対米批判を強めている。トランプ氏への直接的な批判を控えてきた共産党機関紙が攻撃的な記事を載せ、王毅国務委員兼外相も「米国が攻撃してくるなら中国は反撃する」と訴えた。背景には習近平(シー・ジンピン)国家主席の「1強」体制に不満を持つ党長老による重要会議での圧力があるもようだ。

中国は毎年8月上旬、現役指導部と引退した党長老らが河北省北戴河の保養地に集まり、重要案件を非公式に協議する。党関係者によると今年の最大の焦点は対米貿易摩擦だ。習指導部は17年4月に習氏がトランプ氏と会談し、対米関係を安定させたと喧伝(けんでん)してきた。このため従来は批判を抑制して共存を呼びかけてきたが、ここにきて貿易摩擦は泥沼化。北戴河の会議で習氏の協調路線に批判が噴出した可能性が指摘されている。

習氏は強固な党内基盤を持つものの、個人崇拝をほうふつとさせる宣伝手法や側近を重用する人事への不満はくすぶり続けている。対米関係の緊張で批判が出やすい環境となり、清華大の教授が国家主席の任期撤廃や個人崇拝を批判する論文を発表するなどの動きが表面化している。

今年3月の全国人民代表大会では国家主席の任期制限を撤廃し、2期10年を超える長期政権も視野に入れていた習氏。権力基盤を強めたかのように見えた中での、最近の国内での不穏な動きは想定外でもある。不満を封じ込めて内政重視を取る以上、対米関係での譲歩はしにくくなっている。(ワシントン=永沢毅、北京=永井央紀)



自然分解プラ増産・再参入 2018/08/08 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「自然分解プラ増産・再参入」です。





米スターバックスのストロー廃止など脱プラスチックの動きが化学メーカーに新たな商機をもたらしている。カネカは7日、土や海の中で分解する新素材の生産能力を5倍にすると発表した。コストに課題がありこれまでは用途が限られていた。プラスチックによる海洋汚染対策が世界的な課題となるなか、影響が素材産業に波及してきた。

(画像:米スターバックスはプラスチック製ストローの使用を段階的に廃止する=ロイター)

微生物を活用

カネカは7日、「海外での規制強化などで需要増が期待できる」と増産理由を説明した。高砂工業所(兵庫県高砂市)に約25億円を投資して「生分解性プラスチック」と呼ぶ新素材の年産能力を1000トンから5000トンに引き上げる。2019年12月に稼働させる。

通常のプラスチックは自然環境では分解されない。新素材は微生物を活用し、土の中なら2年以内、海水中なら6カ月以内に90%以上が分解される。ストローやフォークといった食器類のほか港湾で使う資材などの用途も開拓する。年2万トン規模へのさらなる増設も視野に入れている。

三菱ケミカルはタイで生分解性プラスチックを年2万トン作っているが、18年度中に新たに開発した別の素材も量産を始める。世界大手の独BASFは自然分解する素材をそろえ、カプセル式コーヒーマシンの包装材料などに供給。東洋紡も米デュポンから受託して再参入する。9月から山口県内の工場で生産する。

海洋プラスチック問題は2015年に投稿された1本の動画をきっかけに注目されるようになった。ウミガメの鼻にストローが突き刺さった痛々しい光景が世界中に拡散。脱プラスチックのうねりを引き起こした。

ストローに限らず、プラスチックの細かい粒子も魚が飲み込むと消化できず死ぬことで生態系が乱れる恐れがある。微小なプラスチックには有害物質が付着しやすく、魚を食べた人間などに悪影響が及ぶ可能性もある。

スタバが廃止

飲食店などは対応を始めている。米コーヒーチェーン大手スターバックスは使い捨てのプラスチック製ストロー使用を20年までに全世界の店舗で段階的に廃止する。米マクドナルドは英国とアイルランドで9月からプラスチック製ストローを紙製に切り替える。

ストローだけではない。欧米ではレジ袋を廃止する小売店が相次ぐ。目に見えないマイクロプラスチックの海洋流出を防ぐため、花王やコーセーは歯磨き粉など洗浄料に混ぜるスクラブ剤を天然由来成分に切り替えた。

生分解性プラスチックの生産量は17年の世界合計で88万トン。プラスチック全体に占める割合は1%未満で存在感はまだ小さい。もともと22年には17年比で23%増の108万トンに増えるとみられていたが、脱プラスチックの動きが広がれば需要はさらに拡大しそうだ。

化学メーカーが新素材に注力するのは単なる環境対応ではない。生分解性プラスチックは先端技術が必要な高付加価値製品だ。中国などの汎用品メーカーが手掛けにくい分野だけに収益を確保しやすい面もある。

自動車業界では欧州や中国などで環境規制が強まった結果、エンジン車から電気自動車(EV)へと競争領域が急激に変わりつつある。素材業界でも新たなルールが業界構造を揺さぶる可能性もある。

(香月夏子、新田祐司)



がん疑い、主治医に届かず 画像診断見落とし 2018/08/08 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「がん疑い、主治医に届かず 画像診断見落とし」です。





病院の画像診断でがんの疑いを指摘する報告書を主治医が見落とし、治療が遅れて患者が死亡するミスが相次いで発覚している。画像全体を診断する放射線科医の指摘が、専門の部位しか診ていない主治医に伝わっていないためだ。遡って調べて判明した事例もあり、「見落とし」を見落としている恐れもある。

1年間も放置

6月にがんの見落としが判明したのは千葉大病院(千葉市)、横浜市立大病院(横浜市金沢区)、兵庫県立がんセンター(明石市)の3病院。

2017年1月には東京慈恵会医大病院(東京・港)で肺がんの疑いを1年間放置していたことが判明。同年10月には横浜市立大市民総合医療センター(横浜市南区)が見落としを発表した。

こうしたミスは以前から指摘されている。

日本医療機能評価機構(東京・千代田)は12年2月、「確認不足による見落としが3件あった」として全国の病院に注意喚起。17年の見落とし事例を受け、15年1月から18年3月まで集計したところ37件の確認不足が判明。同年5月に2度目の注意喚起をした。

なぜ防げないのか。背景に医療機器の進歩と、病院内の情報共有が十分でないことがある。

最新のコンピューター断層撮影装置(CT)は広範囲な部位で詳細な断層画像を大量に得られる。放射線科医が画像全体を読影すると、主治医が撮影を目的とした部位以外でがんの疑いを発見することが増えている。

想定外の部位でがんが早期に見つかれば患者のメリットは大きい。だが日本医療機能評価機構が17年9月までの約3年間で見落としが報告された32件のうち、5件は引き継ぎミスなどで画像を見ておらず、27件は主治医が撮影目的の部位の画像しか見ていなかった。

報告書読まず

電子カルテの普及も影響している。

通常、放射線科医は検査翌日以降に画像診断報告書を作成するが、電子カルテでは検査当日に主治医は画像を見られる。ある大学病院の医療安全担当者は「先に自分の専門部位の画像で診断した主治医は後日追加された報告書を読まないことが多い」と明かす。

放射線科医も大量の画像診断に追われ、がんの疑いがどうなったのかを確認する余裕がない。

「見落とし」を見落としている恐れもある。

千葉大病院では17年7月に受診した患者で最初の見落としが発覚後、同年10月に新たに2人判明。全診療科で調査したところ、さらに6人の見落としが判明した。

横浜市立大病院でも今年6月に公表した見落とし死亡事例は、昨年10月に付属の市民総合医療センターで見落としによって患者が死亡したため遡って調べて判明した。

CT検査は「とりあえず撮影しておく」という医師も多く、年間推計で約3千万件実施されている。ある病院幹部は「検査件数が多すぎる。広い領域の知識を持ち、横断的な視点で画像診断できる放射線診断専門医が読影できていないケースも多い」と打ち明ける。

7月17日には東京都内のクリニックが見落としで40代女性が肺がんで死亡したと発表。1万人弱の診断を見直すと44人が精密検査が必要だった。

日本医学放射線学会は同19日、「増加する情報量に放射線診断専門医の増加が追いついていない」など複合的な要因で発生していると指摘した。

人工知能(AI)が発達すれば読影の負担は減る可能性はあるものの、最終的に医師が責任を持って判断する状況は変わらない。同学会は「無駄な画像診断をコントロールしつつ質を高める取り組みが重要」と訴えた。

「見落とし」は主治医だけでなく、病院全体の過失責任が問われる。このため遡って調べることに及び腰の病院もある。

「海外では見落としを含む診断エラーがある前提で対策が進んでいる」という東大病院の中島勧・医療安全対策センター長は「日本では気づかないまま診断エラーが増え続ける危険性がある」と警鐘を鳴らしている。

(前村聡、石原潤)



スタートアップ大競争 変わるかニッポン(3) 2018/08/08 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「スタートアップ大競争 変わるかニッポン(3)」です。





小説「下町ロケット」を地で行くスーパー町工場集団がある。世界の名だたるメーカーが顧客の由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)。大坪正人社長(43)が描く夢は壮大だ。

(画像:技術力のある中小企業をグループ化する由紀HDの大坪社長)

技術力を融和

家業の金属加工会社の3代目社長に就いたのが2013年。すぐに薄利多売の自動車向けから競合が少ない航空・宇宙産業へ参入した。18年9月期の売上高は前期比2割増の約5億円、10年前の3倍強の見込みだ。

家業を立て直した大坪氏は17年、由紀ホールディングス(東京・中央)を設立した。とがった技術を持つが後継者不足などで廃業の危機にある中小に出資し、互いの技術力を融和し再生する。このほど東京・大田の金型工場を取り込み、グループは全12社、売上高は約66億円となった。

ベトナム、香港、中国・深?、フランス――。グループ会社の拠点は世界のものづくりの主要地域を網羅する。大坪氏がモデルにするのが高級ブランドを多数抱えるLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンだ。同社は傘下に入れたブランドの個性を残しながら成長を続ける。「強みを持つグループ会社が世界で戦う」姿を描く。

ものづくり大国を支えてきた中小企業は「大廃業時代」に入った。中小企業庁の調査では、25年までの10年間で70歳を超える中小経営者は約245万人に上る。その半数で後継者が未定。政府は中小企業の廃業で25年までに国内総生産(GDP)が22兆円損失する恐れがあると試算する。

だが、ピンチはチャンスに変わりうる。先代が築いた技術力や人材を生かせるのは若いスタートアップとは違う強みだ。

家業を継いだ若手経営者が祖業を転換する「アトツギ創業」。新しいリーダーのもとで企業を再び成長軌道に乗せるさまは日本式スタートアップといえる。

愛知県東部の山あいに本社を置くプラスチック成型加工の本多プラス(愛知県新城市)は、東京・南青山におしゃれなデザイン拠点を置く一風変わった中小企業だ。

事業モデルを転換した本多孝充社長(49)は大坪氏と同じ3代目。修正液ボトルの国内シェアトップを誇り文具の容器に強かったが、「ペーパーレス化が進むなか、文具頼みを続けるのはリスク」と判断した。

デザインに目をつけたのは、大企業からの請負を脱するため。「最終顧客は発注先の先にいる消費者。使い勝手を考えて提案すれば、私たちの技術はまだ磨ける」。今や化粧品や食品の容器まで手がけ、独自性が評価され受注単価も上昇した。従業員数は約200人と社長就任の11年から5割増え、9人のデザイナーも抱える。

危機感を共有

大廃業時代の危機感を共有した企業が組み、「アトツギ」をネットワークとして全国に根付かせる動きも本格化している。

6月末、アトツギ創業の中小経営者らが中心に一般社団法人ベンチャー型事業承継(東京・千代田)を設立した。事業創出や資金調達などを支援するのが狙いだ。山野千枝代表理事(49)は「地域に根を張り永続的な成長を目指すベンチャー的な中小企業を育てたい」と意気込む。

日本は産業の新陳代謝が進まないと指摘されて久しい。だが身近なところに高度成長の黒子だった中小企業という宝が眠る。彼らが息を吹き返せば、日本らしい多様なスタートアップが増え競争力は高まる。



大統領の「嘘」と中間選挙 2018/08/08 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「大統領の「嘘」と中間選挙」です。





オレンジ色の作業着をまとう労働者の歓声がトランプ米大統領を包みこむ。生産ラインを増設し、工員の再雇用が始まったイリノイ州グラニット・シティのUSスチール製鉄所。巨大な星条旗と圧延コイルを背にした大統領は「米国の鉄鋼は世界最高だ!」と、鉄鋼の輸入に25%の関税をかけた政策の成果を誇らしげに語った。

米議会の上院議席の3分の1、下院の全議席を改選する11月の中間選挙まで3カ月を切った。「米国第一」を旗印に強引なディール(取引)外交を連発したトランプ氏は、これまでに重ねた実績の刈り取りに精力的に動いている。

「人々と様々な店が戻り地域が活気づいてきた」

「輸入関税は正しい。2020年も大統領に再選してほしい」

演説会場で取材した労働者は口々に雇用の復活を喜んでいた。首都ワシントンでは見えない「トランプ人気」の根強さを実感する。

春以降のほんの数カ月の間に、米政権は通商や安全保障の政策で急速に攻勢を強めた。中国との制裁関税の応酬が激化し、日欧も対象とする鉄鋼とアルミニウムの輸入制限など不均衡改善への脅しを次々と繰り出した。トランプ氏は世界貿易機関(WTO)、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)と、米国が不利益を被る多国間の枠組みを徹底的に批判した。

強硬な圧力に交渉相手も動きはじめた。正面衝突を避けようとEUのユンケル欧州委員長は関税や補助金の撤廃を目指す協議を米国と始めることに合意した。トランプ氏の懐に入り、自動車関税の棚上げなどで実をとる戦術だ。

トランプ氏の独善的な振る舞いに世界各国が手を焼く半面、米国内では政策で結果を残す政権への評価が芽生えている。好況下での大型減税の効果で、4~6月期の米国内総生産(GDP)は4.1%増と「絶好調」の領域だ。

共和党支持層による大統領の支持率は90%に迫る。米調査機関ピュー・リサーチセンターは昨年1月の政権発足時から全体で40%近くの水準をぴたりと保つトランプ大統領の支持率を「異例の安定ぶり」と評する。

世界秩序をかき回しながらも、まさに猪突(ちょとつ)猛進で強引に実績を作り出したトランプ政権は、この勢いを今後も維持できるのか。私は攻めの展開を生む好材料はそろそろ尽き、徐々に守勢に回らざるを得ないのではないかとみている。

ひとつは景気の天井感だ。トランプ大統領は年率4%を超す成長率の発表を受けた7月27日の記者会見で「見事な数字だ。年平均の成長ペースも過去13年で最良の道筋にある。一対一の貿易協議が進めば、さらに成長率は高くなる」と豪語した。

だが、これほどの経済成長が今後も持続すると考えるのは少々、無理がある。4%成長は潜在力を大きく上回り、むしろ経済の過熱によるインフレ懸念も浮上する。

中国との貿易戦争の激化はこれから消費者に直結する輸入品の値上げを招き、ブーメランのように米景気のブレーキとなる。米EUの通商協議も農産品の扱いなどで両者の立場が食い違う。

トランプ氏の新たな外交カードも乏しい。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と6月に史上初の首脳会談を実現したことは、外交上の前進だった。だが北朝鮮の完全非核化を巡る協議は遅れが目立ち、ミサイルの開発が継続している実態も明らかになった。

大統領はロシアのプーチン大統領との再会談を探るが、米議会には慎重論も強く、外交上の得点にはなりにくい。

それに加えて、16年の大統領選挙を巡る自陣営とロシアとの共謀疑惑がネックになる。トランプ氏は「魔女狩りだ」と再三、ツイートでつぶやき、モラー特別検察官ら捜査陣へのいら立ちを強める。だがトランプ氏周辺のロシア側との接触を示唆する材料は日増しに増えている。

守勢に回れば、トランプ大統領は新たな攻撃相手を仕立てて、不利なテーマから関心をそらそうとするだろう。「メディアは国民の敵だ」というトランプ氏のツイートは長女のイバンカ氏に「私はそうは思わない」と反論を受けた。

中間選挙を前に、共和党内ではトランプ氏の型破りな政策や行動に対する批判は鳴りを潜めている。だがロシア疑惑の進展などで、党内のトランプ支持の機運が崩れる可能性も残る。米下院外交委員会元上級スタッフのダニエル・ボブ氏は「共和党議員の知人にオフレコで聞けば、ほぼ全員がトランプ氏に嫌悪感を抱いているのが実情だ」と話す。

米ワシントン・ポスト紙は大統領による事実に反したり誤解を招いたりする見解の件数が昨年1月の就任以来、7月末で4229件にのぼったと指摘した。最近2カ月で978件と急増している。

書評家のミチコ・カクタニ氏は米で刊行した「真実の死」(The Death of Truth)という近著で、「トランプ氏の多数の嘘が集まり、人々の恐怖に訴える虚説をさらに作り出す」と指摘した。移民による暴力犯罪率の高さ、米国での犯罪増加……。実際の統計とは逆の傾向を口にすることが日常化している。

見解をくるくると変え、根拠のない数字や事実関係を発信するトランプ氏。大統領が重ねる「嘘」を有権者は許容するのか、しないのか。中間選挙が示すのは、民主主義の根幹の将来でもある。



日本経済新聞の本日の記事から