「一帯一路」対抗、ソフトパワーで 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「「一帯一路」対抗、ソフトパワーで」です。





中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」は世界を席巻する勢いだ。巨額のインフラ投資と並行し、南シナ海やインド洋などでも軍事的なプレゼンスを高めており、経済面だけでなく、政治・軍事的な勢力拡大への野心に世界が複雑な視線を投げ掛けている。

こうした事態をさらに複雑にしているのが「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領の外交姿勢だ。4月の電撃的な中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とインドのモディ首相との非公式会談は、トランプ氏が仕掛けた米中貿易紛争を色濃く投影している。

「中印対立」を軸に描かれてきたアジアの地政学的な勢力図は大きく変貌しつつあるようだ。約3500キロもの国境線を抱える中印両国は潜在的に敵対する宿命を背負う。だが両国は、悪化した関係を平衡状態に戻すための新たな道筋を探り始めたようにも見える。

背景にあるのは孤立主義を強める米国の国際的な影響力低下だ。中印の人口はともに13億人以上で世界人口の3分の1超を占める。今後10年前後で中国は米国の経済規模を抜き、2050年ごろにはさらにインドが米国を抜いて世界2位になると予測されている。

そんな両国は国境線を巡る軍事的対立を棚上げし、経済交流に取り組むことが双方にメリットが大きいと判断したわけだ。第2次大戦後の世界秩序は転換期を迎えている。各国は激変するパワーバランスの行方を慎重に見極めながら、是々非々で対応するしかない。

とはいえ、中国が推し進める一帯一路の構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)への警戒感はインドでも根強い。中国が開発するパキスタンやスリランカ、バングラデシュ、ミャンマーなどの港湾をつなげると、まさにインドを包囲し、海洋覇権を握ろうという野心が浮かび上がる。こうした脅威は世界各地で広がっている。

中国の圧倒的な物量攻勢を必要とする途上国は多いし、民主化の度合いを考慮しない支援を歓迎する国も少なくない。だが巨額融資を足がかりに港湾運営権を取得したり、大量の労働力を本国から供給したりする強引な手法には批判が集まる。入札の透明性、事業の持続可能性などにも不安が残る。

このままでは中国の影響力の拡大に歯止めをかけにくい状況が続くだろう。だからこそ中国の暴走をけん制し、多国間の協力メカニズムを機能させる必要がある。注目したいのはインフラ整備だけでなく、人材育成やライフスタイル、まちづくりなどのソフト面も大胆に取り込んだ開発援助だ。

たとえば日本の新幹線輸出が良い手本になる。新幹線の建設は経済発展を支える基幹交通インフラの整備だけではない。沿線の工業団地や宅地開発、人材供給なども含めた莫大な経済的恩恵を地元にもたらす。軍事的な野心を伴わず、純粋なソフトパワーを生かした経済支援にほかならない。

日本はすでに台湾への新幹線輸出の実績があり、インドでは23年完成予定でムンバイ―アーメダバード間の約500キロに新幹線方式を採用することが決まった。事業費は9800億ルピー(約1兆6千億円)だ。新幹線の運行手法のほか、サービス産業の誘致やソフト開発、大きな雇用も生み出す。

早くもインド工科大学(IIT)や私の大学などでは、こうした日本方式のソフトパワーを学ぼうという機運が高まっている。安倍晋三首相が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」を後押しする有効な手段にもなるはずだ。

国際関係の変化はめまぐるしい。「米国1強」のバランスは大きく揺らぎ、世界は米中やロシア、欧州、インドなどを軸とする「多極化」の様相を一段と強めつつある。さらに、米国の中東外交や対北朝鮮制裁の転換など世界情勢を動かす変数は増えるばかりだ。

ただ保護主義が各地に台頭しているとはいえ、日米欧豪にインドを加えた民主主義国が多国間主義を守っていくことの重要性は、基本的に変わらないと考える。特にアジアでインドと歴史的に文化や価値観を共有してきた日本の果たすべき役割は大きい。

(談)

 Nagesh Bhandari マハトマ・ガンジー記念医大卒。「私立のインド工科大(IIT)」を目指して2012年に同大学を創設。日本、ドイツなどと産学連携にも取り組む。61歳。

Nagesh Bhandari

存在感示す処方箋

存在感示す処方箋

経済、軍事面で急速に存在感を高める中国とどう向き合うかは難しい問題だ。一帯一路の沿線国は約70。AIIBに加盟する国・地域は86に増え、先進7カ国(G7)で加盟していないのは米国と日本だけだ。

半面、一帯一路には深刻な課題も山積している。工事が予定通りに進まず、膨大な債務に苦しんでいる事案も予想以上に目立つ。コスト競争はあるにせよ、「相手国に本当に寄与するのはソフトパワーを生かした支援」と実感する国は決して少なくないだろう。

インドは民主主義など価値観を共有する戦略パートナーであり、教育の現場からの声は示唆に富む。遠回りなようでも無理に手を広げず、地道に実績を積み上げることが日本の存在感を示し、世界を安定させるための一つの処方箋になる。

(編集委員 小林明)



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