「平和の海」残るリスク日中、衝突回避へ連絡体制 2018/05/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「「平和の海」残るリスク日中、衝突回避へ連絡体制(真相深層)」です。





日中両政府は9日、自衛隊と中国軍の衝突を避けるための措置「海空連絡メカニズム」を6月8日から運用すると合意した。10年を超える交渉の結実として日中首相会談の目玉となったが、実は現場での対応はほとんど変わらない。自衛隊の最前線からは「これで衝突リスクが減るかは疑問だ」との声すら漏れる。

中国への不信感

(画像:会談を前に栄誉礼に臨む安倍首相(右)と中国の李克強首相(9日午後、東京・元赤坂の迎賓館))

「緊張を緩和し相互の信頼を醸成することで、東シナ海を平和と協力友好の海とする。今まさに両国の防衛当局の代表者が覚書に署名した」。安倍晋三首相は9日、署名式に立ち会った後の記者会見で、こう語った。李克強首相も日本に着いた時に降っていた雨がやんだと指摘し「両国関係の雨風が過ぎ、より良い未来が待っている意味かもしれない」と応じた。

連絡メカニズムの内容は(1)自衛隊と中国軍が緊急時にやりとりする無線の周波数や言語を設定(2)防衛当局間のホットラインの開設(3)防衛当局間で定期会合を開き信頼醸成――の3本柱。衝突を避けるために重要となるのが、最前線での連絡手段を定める(1)だ。ところが防衛省の発表にはこんな文言がある。「両国の軍艦・航空機間の連絡については従来通りの連絡方法が用いられる」。現場での対応は連絡メカニズムの運用を始める前と後では、ほとんど変わらないことを意味している。

日中関係筋は「2007年に始まった連絡メカニズムの交渉は、14年に状況が大きく変わった」と明かす。日米中など21カ国がCUES(キューズ=海上衝突回避規範)と呼ばれる海上での衝突を避けるための行動規範をまとめ、自衛隊と中国軍の艦船に不測の事態が起こった場合、CUESで定めた通信ルールで連絡するようになったからだ。2国間の枠組みを作る意義は07年当初から比べてかなり薄まった。

連絡メカニズムにはCUESにはない防衛当局間の定期会合という取り決めもあり、合意に意味がないわけではない。ただ、自衛隊側には、「そもそも中国軍は海上の基本的なマナーを守ってこなかった」との不信感が強い。2国間で協定を結んだとしても、適切に運用されなければ衝突リスクを減らす効果はないと言う。

実効性に疑問符

実は両国間での協議で連絡メカニズムの概要は12年までにほぼまとまっていた。そこから交渉が長引いたのは、国有化をきっかけに尖閣諸島の問題が火種となり、連絡メカニズムを使う対象に周辺海域を含めるかどうかでもめたからだ。

日本は尖閣周辺の領空・領海は運用の対象にしないと主張。中国が連絡メカニズムを悪用して領海に入ってくる事態を懸念した。中国は衝突する可能性が高い尖閣諸島でこそ運用すべきだとし、適用範囲を制限すべきではないと反論。6年間も平行線をたどったあげく、適用範囲を線引きしないという中国の主張に寄ったあいまいな決着となった。外務省幹部は「信頼関係を深めて悪用を防ぐ」とするが、担保になるかは見通せない。

ホットラインの構築も「可能な限り早期に開設」との合意にとどまり、連絡を取り合う相手はあいまいだ。防衛省は「事案ごとに決める」としているが、緊急時にこそ必要なホットラインがこのままの状態で機能するとは思えない。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は昨年6月、日中関係の改善へ内々に舵(かじ)を切った。この時期から連絡メカニズムをめぐる交渉で中国側から前向きな提案が出るようになった。毎月3回のペースが続いていた尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵入は、17年8月以降は毎月2回以下に減った。

トランプ米政権が中国に対して強硬路線に傾くなか、中国は日本を含む近隣国との関係改善へと向かっている。中国側は最近、懸案として挙げるのは、安倍政権の歴史認識や台湾との接近で、尖閣諸島の問題に踏み込むのは避けている。ただ、防衛省幹部は「中国軍の現場がどれだけ統制が取れているかわからない」といぶかる。不測の事態は両国の関係が安定していても起こりうる。現場での衝突の不安は消えていない。

(永井央紀、加藤晶也)



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