「Gゼロ」の世界、見えぬ突破口米ユーラシア・グループ社長イアン・ブ レマー氏 2017/6/16 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「「Gゼロ」の世界、見えぬ突破口米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏」です。





 トランプ米大統領は今月、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱すると発表した。離脱発表は、いまの世界が安定した指導力を発揮する国の存在しない「Gゼロ」であることを明確に示した。自由世界のリーダーは一体どこにいるのだろう。

 トランプ氏は1930年代以降の米大統領としては初めて、世界のリーダーになることが米国の国益ではないと考えている。彼でないことは確かだ。彼は協力することも、対立することもあるコミュニティーとして世界をとらえるのではなく、強い指導者たちが支配的な地位を巡って戦う場とみなしている。トランプ氏自身がこうした考え方に引きつけられ、彼の忠実な支持者も同じ考えだと我々は知っている。

 いまの自由世界の指導者は欧州だろうか。それも違う。大西洋を隔てた米欧の同盟は長年にわたって徐々に空洞化してきたが、トランプ氏が米大統領に選ばれたことで、ドイツのメルケル首相のようなベテランの指導者もフランスのマクロン大統領のような新しい指導者も、新しい戦略を探して右往左往している。

 米国は北大西洋条約機構(NATO)に懐疑的で、英国は欧州連合(EU)を離脱し、反EU政党が支持を伸ばし続けている。メルケル氏とマクロン氏は欧州の進むべき最善の道について合意できないようにみえるが、欧州の指導者が変革を求める国民の要求に応えることができなければ、近年欧州の政治を変貌させてきたポピュリスト(大衆迎合)勢力が今後も台頭を続けるだろう。

 中東でも形勢が変わりつつある。トランプ氏はオバマ前米大統領よりロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相との関係は良好かもしれないが、不安定な状況が続く地域に新たな秩序をもたらすわけではない。シリアの戦闘地帯では米国やロシア、イラン、トルコ、サウジアラビア、イスラエルの利害は異なり、自らの意志を押し通すのに十分な強さを持つ国はない。

 過激派組織「イスラム国」(IS)はわずかしか残っていない領土もいずれ失うとみられるが、今後も新たなメディアのツールを使い、支持者や模倣者、情緒的に不安定な者を感化しようとするだろう。Gゼロの世界におけるテロの主な問題は、世界の情報機関の間で情報を共有する必要性が認識されるべきなのに、相互不信がサイバー空間の特徴になってしまっていることだ。Gゼロがこれほど鮮明な分野はほかにない。

 自由貿易の旗手はどの国だろうか。米国は長らく自由貿易を擁護してきたが、太平洋の両側の経済大国を結びつける歴史的規模の合意だった環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱を表明した。日本の安倍晋三首相の努力にもかかわらず、少なくともトランプ氏が大統領であり続ける限り米国の参加はなさそうだ。

 しかしTPPに反対しているのはトランプ氏だけではない。民主党の大統領候補だったクリントン元国務長官はしぶしぶ、(候補指名を争った)サンダース上院議員は断固としてTPPに反対していた。トランプ氏はカナダやメキシコとの間に結んでいる北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉を希望すると表明している。欧州との大規模な貿易協定、環大西洋貿易投資協定(TTIP)は複数の国の反対を受け交渉が停滞する。

 中国が貿易の新しいリーダーなのだろうか。それも違う。習近平国家主席は今年初め、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で国際貿易を強く擁護して注目を集めた。しかし中国のほか東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国とオーストラリア、インド、日本、韓国、ニュージーランドが参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)はTPPほど本格的な市場統合をもたらすものではない。例えばRCEPは投資や知的財産、競争政策についてほとんど言及していない。

 そして、中国の広域経済圏構想「一帯一路」だ。南アジアと中央アジアへ大規模に投資し、アジアと欧州の間の貿易ルートをつくるという極めて野心的なプロジェクトだ。賢明な方法で実施されれば、中国やEU、その間にある貧しい国の多くの経済をかつてなかったほど後押しするだろう。

 しかし残念ながら、政治的な理由ではなく経済的な理由で投資が実施される保証はない。汚職と能力不足が前進を遅らせ、野心をくじき、政治的な紛争につながる可能性がある。また中国は安全保障の問題に関し、信頼できる指導力を発揮する準備はできていない。米中が北朝鮮の問題解決に向けて有効な協力ができないことは、東アジアにおいてさえ紛争が貿易に勝利する可能性を示唆している。

 世界の火薬庫と「国境を越える問題」は今後も増加を続け、原因となった問題を解決するどころか、管理するための信頼できる協力計画もない。いまのところ、Gゼロの世界秩序が続くと考えてよさそうだ。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



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