かれんとスコープ 地下水使い過ぎ懸念、再び 震災機に用 途広がる 2016/12/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「かれんとスコープ 地下水使い過ぎ懸念、再び 震災機に用途広がる」です。





 地下水の利用が広がっている。防災用の井戸の設置やミネラルウオーター人気がけん引役だ。ただ、使い過ぎは地盤沈下など悪影響を招きかねない。行政は警戒感を強める。

 医療法人田中会の武蔵ケ丘病院(熊本市)は、昨年12月に敷地内に井戸を設置した。ろ過した地下水を飲料水や洗面所、浴室などで利用する。使用量は1日40~50トン。災害で周辺地域が断水した場合は住民に自由に使ってもらう。

■防災目的で井戸

 今年4月の熊本地震では熊本市だけで最大約33万戸が断水したが、「水がいつも通り使え、100人以上の入院患者の生活に支障はなかった」と田中英一理事長は話す。水をくみに来た人も多く、夜間は60~70人が避難に訪れるなど防災拠点の役割を担った。

 病院にとってはコスト削減効果も大きい。地下水利用とともに節水型トイレの導入なども進めた結果、水の費用は月70万~80万円と約半分に減った。

 東日本大震災以降、防災目的での地下水の利用が増えている。イオンはイオンモール31店舗で地下水を導入する。地下水関連の事業を手掛けるウェルシィ(東京・品川)は11月末で、納入実績が東京都や埼玉県など1185件と震災前から4割増えた。

 温暖化対策に使う企業も出てきた。三井金属は12月、地下水から熱を取り出し部材を冷やすシステムを埼玉県の工場で稼働させた。今後は空調にも利用し、電気代と温暖化ガスの排出を減らしていく。

 自治体はくみ上げを危ぶむ。高度成長期、工場などで地下水のくみ上げが急増し地盤沈下が深刻な問題となったからだ。東京都江東区などで海水面を下回る「海抜ゼロメートル地帯」になった地域も出た。

 政府の規制の結果、工業用水の使用量が1970年代の約半分となった。現在、地下水位は回復傾向にあり、大きな地盤沈下にも歯止めがかかっている。ただ昨年、JR横須賀線の東京―新橋間で線路が地下水につかるトラブルが起きるなど水位の回復は新たな課題を生んでいる。

 「もっと地下水を利用すべきだ」という声に対し、守田優・芝浦工業大教授は「地下の状況は地域で異なる。地盤は一度沈下したら元に戻らない。過去に問題になった地域はくみ上げを慎重に検討すべきだ」と警鐘を鳴らす。

■都は規制強化

 特に警戒感を強めるのが東京都だ。7月、中規模以上のポンプが対象だった設置の届け出を原則、全ての電動ポンプに広げた。近年、性能の向上で個人で設置する小規模なポンプでも大量のくみ上げが可能になったためだ。都は届け出の拡大について「地盤沈下の予防策」と説明する。

 震災への備えとして、ミネラルウオーターの需要が伸びたことも地下水のくみ上げが増える一因だ。生産量は10年前に比べ倍増している。

 県内の水道の9割以上を地下水に頼る鳥取県は13年に条例を施行し、水源維持のためにくみ上げ業者に地下水を蓄える森林の保全協力などを求める。鳥取県などで地下水をくむサントリーグループは森林育成のほか、生産工程で「省水化」も進める。

 地下水の所有権に関して民法は土地の所有者にあると定めている。だが、数年前、「中国など外国資本が水源地を買収し、水が奪われる」と懸念する声が上がった。地下水がたまる地層は地域を超えてつながっているとの指摘もあり、地下水を守ろうとの意識は行政の間で高まっている。保全を目的とする自治体の条例や規定は600件を超す。

 14年に施行された水循環基本法は、地下水を国民共有の財産と位置づける。法律に強制力はないが、国は地域の関係者に地下水の実態の把握と持続的な利用を求めている。

 地下水の利用には「震災要因」という差し迫った事情もある。環境保全と適切な利用の間で、「地下水大国」日本のバランス感覚が問われている。

■地盤沈下や湧水枯渇、問題に

 河川は国や自治体など行政が管理しており、簡単に川の水を利用することはできない。一方、地下水は民法で地権者に所有権があると定めているため、ともすると野放図な使い方に陥りがちだ。高度成長期に、工場が相次いでくみ上げを急増させたことが代表例だ。各地で地盤沈下を招いたため、政府は大量に地下水を使う工場やビルなど事業者に対し、1950年代以降、くみ上げを許可制にした。

 地下水の使い過ぎは、くみ上げ場所とは別の地域に悪影響を与える懸念も出ている。都内では多摩地域での地下水の使用が、善福寺池(杉並区)や三宝寺池(練馬区)の湧水を止めたといわれる。地下水がたまる地層がつながっている可能性がある。

■飲料メーカー、水源地を保全

 ミネラルウオーターなどを生産する飲料メーカーは、地下水を増やす取り組みを強化している。地下水は、海から水分が蒸発して雲となり、降雨によって土壌に染み込んで地中に蓄えられる。森林の根が網となって土を守り雨水が染み込んでいくため、地下水を多く蓄えるには森林の育成・保全が不可欠だ。

 地下水を蓄えて増やすことを「涵養(かんよう)」と呼ぶ。サントリーグループは2003年から涵養事業を始めた。同グループは現在、ミネラルウオーターの「天然水」シリーズを生産する鳥取県、山梨県、熊本県を含め、全国19カ所で実施する。

ミネラルウオーターは名水と呼ばれる各地の水源から生まれている(鳥取県内のサントリーグループの工場)

 森林所有者と原則30年以上の契約を結び、植樹や間伐などによる森づくりを進める。植樹には、地元で採取した種子から育てた苗を使い、土地の生態系を崩さないよう工夫している。「くみ上げる水を育む面積の2倍の森林を育成する」ことを目標に掲げる。20年時点の地下水の予想使用量に必要な森林面積は6000ヘクタールと試算し、1万2000ヘクタールの森林を育てる方針だ。03年に約270ヘクタールから始まった同事業は、現時点で全国で9000ヘクタールに達している。

 ミネラルウオーター「いろはす」を生産するコカ・コーラグループは、鳥取県や山梨県をはじめ計20カ所で水源地の保全活動を進める。「おいしい水 六甲」「おいしい水 富士山」で知られるアサヒグループは、14年から富士山麓の静岡県富士宮市が主催する植樹祭に参加するなど、活動の範囲を広げている。

 地下水の保全には、水の使用量を減らすことも大切だ。飲料各社は製造工程で使う地下水を再利用するなど節水に努め、製品1リットルあたりの水の使用量の削減に取り組んでいる。サントリーグループは、酒類なども含めた全飲料で15年時点で10年前と比べて約4割削減、コカ・コーラグループも過去10年で約3割削減した。

 地下水が枯渇すれば、それを利用する飲料メーカーのビジネス自体が成り立たなくなる。利用と保全の両立は、事業者自らが積極的に推進すべき重要な課題となっている。

(福士譲)



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