がん治療新時代(下)一人ひとりに合わせて遺伝子を解析「適剤適処」 2 017/2/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「がん治療新時代(下)一人ひとりに合わせて遺伝子を解析「適剤適処」」です。





患者の遺伝子を解析するためのチップ(静岡県長泉町の静岡がんセンター)

 富士山麓にある静岡県立静岡がんセンターの一室。パソコンのモニター画面に「A」「G」「C」「T」の文字が色分けされて表示された。「がん患者の遺伝情報を解析した結果だ」と診断技術開発研究部の浦上研一部長は説明する。

効き目に違い

 患者の協力を得て、正常な組織とがん組織を解析、発症や進行に関わる遺伝子の変化を探す。2014年に始め、約3000人分を調べた。狙いは患者一人ひとりに最適な治療法を選ぶ「個別化医療」の実現だ。

 がんは遺伝子の異常が引き金といわれる。ストレスや喫煙などをきっかけに細胞の遺伝子が傷ついて変化、制御できなくなって悪さをする。関連する遺伝子は数多く、患者によって遺伝子の変わり方は様々だ。現在は大腸や肺など臓器ごとに治療法が決まっているが、原因遺伝子が同じなら別の臓器に使う抗がん剤が効く可能性がある。

 「体調がよくなった」。京都府に住む50歳代の女性は16年5月から、京都大学病院で個別化医療を受けている。十二指腸がんを患い、手術や抗がん剤を受けたが、効果は出なかった。15年末に京大病院で遺伝子を調べ、肺がん薬の効果が高そうだとわかった。投薬によって進行はとまり、「4月には会社に復帰したい」と意欲を燃やす。

 この個別化医療は通常の抗がん剤では効果がない患者が対象だ。これまでに約140人を解析、8割の患者で効く可能性がある薬を見つけた。

 安価で高速に解析できる装置が普及し、がんの研究は飛躍的に進んだ。一方でがんという病気の複雑さも見えてきた。病巣を調べると、変化している遺伝子は細胞によって違う。欧米とアジアの患者では変化しやすい遺伝子も異なる。複雑ながんに立ち向かうには、膨大なデータを駆使して治療法を選ぶ必要がある。

 個別化医療は海外でも盛んだ。米国は100万人以上、英国は10万人を対象に解析する。

 日本でも大規模なプロジェクトが進む。国立がん研究センターが15年に始めた「スクラム・ジャパン」だ。全国約240を超す医療機関と製薬企業15社などが協力する。肺や大腸、胃、食道などのがんについて、遺伝子解析の結果から効果が期待できる抗がん剤を選んで投与する。5000人以上の患者が参加した。

 企業や医師が実施する臨床試験(治験)を通じて患者は新たな薬を試すことができ、新薬の申請への道筋もつけられる。4月からは新たに2年間で5000人を募る。同センター東病院の後藤功一呼吸器内科長は「個別化医療が日本に根づいてきた」と話す。

一生つき合う

 しかし解析は保険適用されていないうえ、その結果が常に治療に結びつくわけではない。治療薬が国内では未承認で治験も実施されていない場合は、高額な自費診療になる。がんの原因となる遺伝子の変化は数多く見つかっているが、適した薬は少ない。順天堂大学の加藤俊介教授は「過剰な期待を抱く患者がいる。説明が必要だ」と話す。

 「がんは人のような多細胞生物にとって宿命のようなものだ。長生きする以上、避けられない」と東京大学の黒木登志夫名誉教授は指摘する。がんとの共存を考え、その苦しみをどう克服するか。どんな治療や生き方を選び、費用をどう工面するか。誰しも、心づもりが求められる。

 西山彰彦、松田省吾、草塩拓郎が担当しました。



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