けいざい解読 「成長で税収増」は安定財源か 歳出改革、怠れば停滞 2016/06/12 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「」です。





 参院選に向けた与野党の公約が出始めた。消費増税の延期で4兆円の増収がお預けになっても「社会保障の充実」は各党の合言葉だ。

 安倍晋三首相は1日の記者会見で「アベノミクスを一段と加速して税収を増やしていきたい。この果実を使って可能な限り社会保障を充実させていく」と語った。

 2016年度予算の国・地方の税収は99.5兆円。民主党から自民党に政権交代した12年度より21兆円多い。14年に消費税率を3%上げて8%にした増収が約8兆円で、個人と法人の所得課税の税収は13兆円増えた。円安・株高で企業収益や資産運用が改善し、給与も増えたことによる「自然増収」の表れだ。

 成長による税収増は子育てや介護離職の対策など「一億総活躍」実現の安定財源になりうるのではないか。経済財政諮問会議はそう問題提起した。麻生太郎副総理・財務相は「中長期的に安定した底上げなのか」と反論し、「果実」とは何かの結論は出ていない。

 予想を上回った増収なら、使って構わない。そう考えがちだが、見落としがちな点がある。

 「二重計上はやめてほしい」。土居丈朗慶大教授は指摘する。

 政府の財政健全化目標は20年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字、つまり政策経費を税収などで賄える状態を目指す。内閣府の試算では名目3%程度の成長と強気の前提でもなお6兆円分の収支改善が必要だ。「税収底上げは楽観的な財政試算に織り込みずみ。別の歳出に充てるなら財政健全化の目標は一段と遠のく」と土居氏は警告している。

 高い増収が続くのか、という疑問も消えない。

 内閣府試算は15、16年度に名目2.9%の成長が続く想定だが、15年度の実績は2.2%増と0.7ポイントも低い。16年度も厳しい状況にある。「『世界経済に危機が来るかもしれない』という前提のもとで税の自然増収を望むのは非論理的だ」と第一生命経済研究所の熊野英生氏は首をひねる。

 「所得課税の収入増ペースは13年度をピークに落ちている」(SMBC日興証券の宮前耕也氏)との指摘もある。名目経済成長率に比べてどの程度、税収が伸びるかを示す「税収弾性値」は13年度の5.6から16年度は1程度に下がった。円高再燃や企業収益の悪化で「20年度にかけて税収が伸びない可能性もある」と厳しい見方だ。

 経済が成長し、税収がきちんと増える環境を整えるのは正しい路線だ。だが楽観的なシナリオに頼り切りで不人気な歳出改革を怠っていては、財政の将来はもたない。

 本当の試練は20年度以降だ。25年度にはいわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上となり医療や介護の支出が膨らむ。

 19年10月に消費税率を上げ、東京五輪前の特需の助けも借りて20年度の財政目標をギリギリで達成しても、その先は「五輪景気と消費増税駆け込みという二重の反動減がくる」(熊野氏)恐れがある。安倍氏が口癖にする「成長と分配の好循環」が「停滞と負担の悪循環」に化けないよう、今から手を打つべきだ。

(編集委員 菅野幹雄)



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