けいざい解読 物価を巡る「様々なる意匠」 賃金増へ指標明確に 2016/01/03 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「けいざい解読 物価を巡る「様々なる意匠」 賃金増へ指標明確に」です。





 物価は失速しているのか、それとも底堅いのか。この議論を聞いていると、小林秀雄の評論の表題「様々なる意匠」をふと思い出してしまう。

 もともと日銀が掲げる物価目標は、消費者物価の総合指数が前年比で安定的に2%上昇すること。2013年1月に政府ともそう約束した。ただし生鮮食品の振れは大きいので、毎月の物価は生鮮食品を除く消費者物価で判断する。

 ところが14年の秋以来、この物価指数だと不都合が生じた。原油の急落である。生鮮食品を除く物価は前年同月比でゼロ%近辺となっている。目算違いである。

 そこで日銀はエネルギーを除く物価にスポットライトを当て、「物価の基調」は崩れていないと主張するようになった。

 米国で重視されている食料とエネルギーを除く消費者物価がひとつ。もうひとつは日銀が15年から独自に公表を始めた、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価である。

 ともに前年同月比でプラス圏にあるが、成績がよいのは独自開発した新指標の方。バターやチョコレートなど値上がり気味の加工食品を除いていないこともあり、1%超のプラスを保っている。

 黒田東彦日銀総裁が物価に強気の姿勢を崩さないのは、この新指標をよりどころにしている。ところが、新指標が世の中に浸透しているとは言いがたい。労働組合の賃上げ要求はそのひとつ。

 自動車、電機などで構成する金属労協は、16年春の賃上げ要求を月3千円以上と15年春の半分に抑えた。大きな理由は「物価が落ち着いている」ことである。組合は総合ないし生鮮食品を除くベースで物価をみている。

 片や経営者の方はどうか。日銀が四半期ごとに実施する企業短期経済観測調査(短観)では、物価見通しを聞いている。1年後の物価見通しは、15年6月短観の1.4%が、9月は1.2%、12月には1.0%と低下気味である。

 労使ともに物価の先行きに慎重となると、16年の賃上げに弾みがつかず、「物価の基調」が腰折れするリスクが出てくる。今の日本経済はそんな胸突き八丁に差しかかっている。どうすべきか。

 もちろん、2%物価などもともと無理なのだから旗を降ろした方がよい、という考えはある。日銀内でも木内登英審議委員はこの立場で、佐藤健裕審議委員も近い。

 だがデフレからの脱却の過程で目標を放棄したら、お店は販売価格の設定に弱気になるだろうし、賃上げの機運もしぼんでしまいかねまい。

 これに対し、一歩踏み込んで日銀が「賃金目標」を追求したらどうか、との考えがある。渡辺努東大教授の主張だ。賃金が上がれば、足元ではもたついているサービス価格に上昇圧力がかかり、賃金→物価→賃金の好循環が働くというわけだ。

 デフレに慣れ切った「ノルム(経済主体の慣行)の転換」が必要と、渡辺氏。甘利明経済財政・再生相や黒田総裁の認識も同様だ。賃金交渉に向けて、政府・日銀は決して手をこまぬいたりすまい。となれば、掲げ続ける物価の物差しも分かりやすい方がよい。

(編集委員 滝田洋一)



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