もがく中進国(上) 産業高度化、産みの苦しみ 2016/12/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際面にある「もがく中進国(上) 産業高度化、産みの苦しみ」です。





 「アジアの工場」として発展してきたタイが低成長にもがいている。技術開発力に勝る先進国と、人件費の安い後発新興国の間で経済成長率が鈍る「中進国の罠(わな)」が影を落とす。軍事クーデターを招いた政治対立がくすぶるなか、産業高度化の殻を突き破り、輝きを取り戻せるか。

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タイは「アジアのデトロイト」の地位を確立したが…(東部ラヨーン県の自動車工場)

 バンコク北郊外のパトゥムタニ県。米グッドイヤーの工場で今月、航空機タイヤの新生産ライン建設が始まった。最先端のラジアルタイヤを2018年に製造開始する。耐久性が高いが構造は複雑。高い生産技術が必要で現在は米で生産する。幹部は「拡大するアジアの航空機市場が近い」とタイの優位性を語る。

 独ボッシュはアジアでは日本、中国に次ぐ自動車用の燃料噴射装置の研究開発施設を着工した。タイ法人のジョセフ・ホン社長は「汎用部品ではもはや低賃金の国にかなわない」と話す。

 こうした動きはタイ政府の新たな産業振興策に沿う。昨年、航空機やロボットなど10分野の高度産業誘致へ税制優遇を導入した。中国の華為技術(ファーウェイ)なども開発拠点を立ち上げる。

経済成長に陰り

 タイには1985年のプラザ合意後の円高対応で日系企業が進出。道路や港湾などのインフラ、素材・部品の裾野産業が整い、日本勢以外の参入にも拍車がかかった。

 その象徴が自動車と電機だ。2012年の車生産は245万台とフランスを抜いて世界10位に入り、ハードディスク駆動装置(HDD)の生産は世界全体の3割を担う。

 ただしかつての勢いはない。過去5年の平均成長率は2.7%。東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国中9位だ。11年の大洪水、14年のクーデターが響いたが、不振は一過性とは言えない。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査ではバンコクの工場労働者の賃金は月344ドル(約4万1千円)とベトナムやミャンマーの約2倍。世界経済フォーラムによると技術の「革新力」で16年のタイは54位。10年前の33位から後退し、中国やインドネシアに抜かれた。

 人件費上昇に見合う産業高度化が遅れ、1人当たり国内総生産(GDP)は2千ドル超えから22年が過ぎても継続的に6千ドルを超えられない。

 いかに先端的な投資を呼び込むか。税制優遇と並ぶカギは人材開発だ。

所得税を免除

 タイ石油公社(PTT)は昨年、東部に大学院大学を開校した。生分解性樹脂や再生可能エネルギーなどの実用研究に取り組む。チュムラット学長は「目標はノーベル賞候補の輩出」と話す。

 政府も約5兆円を投じて整備する東部臨海地域経済特区で、高度技術を持つ外国人の個人所得税を15年間免除する方針。投資と同様に「足りない人材は海外から呼び寄せる」(同特区推進委員会のカニット委員)。

 産業高度化の試みは今始まったわけではない。01~06年のタクシン政権は「アジアのデトロイト」「世界の台所」を合言葉に、低燃費車や食品加工の集積を図った。その後は政治対立が深刻化して猫の目のように政権が代わり、長期的な政策は置き去りにされてきた。

 軍主導のプラユット暫定政権は20年間の長期計画の策定に着手。来年に予定する総選挙と民政復帰後も計画実施を担保する法律を整備する。革新力は芽吹くか。タイは正念場を迎えている。

 (バンコク=京塚環)



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