もがく農産物輸出(1) 非関税障壁を越えろ 2018/07/02 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「もがく農産物輸出(1) 非関税障壁を越えろ」です。





「スーツケースで日本米を持ち帰る中国人は多い。パックご飯を輸出してみないか」。中国のインターネット通販最大手、アリババ集団最高経営責任者(CEO)のダニエル・チャン(46)は6月上旬、コメ卸最大手、神明(神戸市)社長の藤尾益雄(53)と都内で向き合った。

(画像:輸出用の茶葉を確かめる外国人スタッフ(静岡県の丸山製茶))

神明は来春、グループ工場でパックご飯の生産能力を5割引き上げて年間1億3千万食にする。日本のコメ需要の約20倍の規模がある中国市場は渡りに船だが、藤尾は「進出は徐々に」と慎重姿勢を崩さない。

□   □

同社にとって中国市場は悲願である一方、日中間の政治情勢で貿易が左右されると身をもって体験したためだ。中国は「特定の害虫の入国を防ぐ」との名目で、コメ貿易に関わる施設を指定している。神明は7年前に工場の登録を申請したが、認可を受けたのは日中首脳会談のあった今年5月だ。同社の阪神工場(兵庫県西宮市)を含めた2つの精米工場が、日本産米の輸出拠点として認可を受けた。

米国がしかけた貿易摩擦では輸入関税を引き上げ、欧州連合(EU)などが対抗関税を打ち出す事態となった。ただ、関税を撤廃する環太平洋経済連携協定(TPP)のような貿易協定と別に、各国は病気や害虫の予防を目的に検疫条件も設けている。かつて、BSE(牛海綿状脳症)や口蹄疫(こうていえき)が発生したように、重大な事態になりかねないためだ。農産物では検疫が非関税障壁として機能し、2国間の外交ツールにもなり得るため、存在感は一段と高まっている。

農林水産省はコメと関連品の輸出を2019年には現在の4倍の10万トンに引き上げる方針を打ち出している。挑戦的な目標の達成には「民間だけでは限界がある」(大手卸幹部)との見方も多い。

「オーガニック(有機栽培)でないと抹茶の輸出は難しい」。丸山製茶(静岡県掛川市)社長の丸山勝久(58)は6月、茶畑を眺めながら語った。米スターバックスをはじめ世界展開するコーヒーチェーンや飲食大手は、MATCHAとしてラテや菓子類にも利用。日本からの抹茶を含む緑茶輸出は17年に過去最高の144億円と、10年で4.5倍になった。

それでも、ベトナムや中国からの抹茶輸入が大半を占める国もあるという。原因の一つは残留農薬規制への対応だ。

「禁止薬物が検出されたとの理由で入国拒否となる農産物はしょっちゅうある」(食品商社)。国によって農薬の上限値は異なり、化学合成の農薬を使わない有機農産物なら取引しやすくなる。丸山製茶は全国の農家と契約し、輸出の7割を有機の茶葉に切り替えた。

□   □

日本の農産物輸出で4位の台湾は特に残留農薬に厳しく、モモやリンゴが検疫に引っかかることもある。国内最大の大田市場で輸出に取り組む仲卸、松源社長の鹿間伸広(62)は「特別にエアスプレーで虫を飛ばす作業も必要」と語る。

台湾貿易センター本部マーケティング部長の陳英顕(60)は「消費者の安全のため」と強調する。対応するには輸出専用の産地を作ることも一手だ。JAおおいた日田梨部会(大分県日田市)は台湾の農薬基準に沿った梨を生産する。

輸出拡大を目指す方針の一方で、ちぐはぐな行政対応もある。17年12月、日本国内の残留農薬基準が大幅に緩和された。例えば、欧州で発がん性の有無を巡って議論が巻き起こっているグリホサートという農薬。ブドウなどの場合、国内基準の緩和で香港などと比べても日本の上限値は高くなった。

日本での許容値で生産した場合、一段と輸出しづらくなる。「国内の残留農薬規制は要望があれば科学的に調査して緩めることもできる仕組み」(関係者)だが、輸出の振興には逆行する。

(敬称略)

日本の食料輸出は世界60位程度と低迷が続いている。政府は19年に農産物輸出で1兆円の目標達成を掲げるが、17年の農林水産物・食品の輸出実績は前年比8%増の8071億円にとどまり、あと2年での達成には黄信号がともる。海外のニーズを捉え、輸出による成長を模索するには何が必要なのか。官民の動きを追った。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です