アジアひと未来 呪縛を超える(1) 正義か無法か 「仕置き人」ドゥテルテ氏 2017/4/3 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「アジアひと未来 呪縛を超える(1) 正義か無法か 「仕置き人」ドゥテルテ氏」です。





 「責任を取るべきだ」。3月16日、フィリピンの下院議員が大統領のロドリゴ・ドゥテルテ(72)の弾劾を請求した。薬物犯罪捜査における「超法規的殺人」が理由だ。

フィリピンのドゥテルテ大統領(マニラのマラカニアン宮殿)

 しかし就任から9カ月たっても支持率が7割を超す大統領人気の前に賛同は広がらない。「これが民主主義だ」。ドゥテルテは余裕たっぷりだ。

 前任のベニグノ・アキノ(57)は在任6年間に年6%超の経済成長を実現。「アジアの病人」と呼ばれた低成長を一変させた。ところが昨年5月の大統領選で国民はアキノの承継候補ではなく、犯罪や汚職の一掃を叫ぶ新指導者を選んだ。

 「なぜ私か。正しいメッセージを送ったからだ」。3月19日、ドゥテルテは訪問先のミャンマーで在留比人に語った。

 南部ミンダナオ島のダバオ市で育った。素行不良で高校卒業に7年かかり、大学では銃や女の子の話題に明け暮れた。問題児はしかし法科大学院に進み、1977年に地元の検察に奉職した。

 当時のマルコス政権は戒厳令を敷き、弾圧や不正が横行した。報復を恐れ目をそらす同僚が多いなかで、法を犯した軍人や警察官を次々に起訴した。「『俺以外に誰がやる?』が口癖だった」。友人のサミュエル・ウィ(63)は振り返る。

 88年に市長に就くと麻薬犯罪を徹底的に取り締まった。「処刑団」を組織したと噂される。悪名高いダバオ市の犯罪は急減し、比政府は2008年に「最も住みやすい都市」に認定した。経済も急拡大し、14年の成長率は9.4%を記録した。

 国民はダバオ市をうらやんだ。経済成長の恩恵は国全体までは行き渡らず、治安や汚職の問題も残ったまま。そんな不満が「仕置き人」と呼ばれる強権大統領を生んだ。

 「薬物犯罪者に人権はない」と断じ、同犯罪に絡む死者8千人のうち2千人超は抵抗したことを理由に警察が殺害した。3月2日、マニラでの追悼ミサは失った家族の写真を抱く老人や子供の姿が痛々しかった。司祭のアマド・ピカーダル(62)は「マルコス時代より状況は悪い」と嘆く。

 そんな声は信奉者にかき消される。「我々の目を大統領が覚ましてくれた」と支持団体を率いるロナルド・カルデマ(31)。だが超法規的殺人について尋ねると「実際に何が起きているのか知らない」と言葉を濁した。

 1986年の民衆革命で独裁政権を倒し、アジア民主化の口火を切って30年。ドゥテルテを望んだのは確かに民意だ。だが民主主義は人権や法の支配を守ってこそ機能する。世の中が良くならないと不満を抱く人々が、かつて拒んだ強権政治になびく姿は、軍事政権が復活したタイでも見られる。国家のあり方を一部の強いエリートに委ねるか、時間がかかっても国民の合意を積み上げていくか。アジアは岐路に立っている。(敬称略)

 過去の呪縛と向き合う「ひと」を通して、アジアの未来を見据える。



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