アジアひと未来 呪縛を超える(3) 成長持続へ闇と向き 合う インド人権活動家・サトヤルティ氏 2017/4/5 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「アジアひと未来 呪縛を超える(3) 成長持続へ闇と向き合う インド人権活動家・サトヤルティ氏」です。





 秘密裏の救出作戦は筒抜けだった。「子供なんかいない。何しに来た」

 2004年夏、インド北部のサーカス会場。奪還を狙った少女12人の姿が見当たらない。興行主の用心棒が振りかざす鉄パイプが人権活動家カイラシュ・サトヤルティ(63)と仲間を襲った。

 左足と右肩に重傷を負い搬送された病院から翌日抜け出し、市中でハンストに転じた。メディアが騒ぐと地元警察も重い腰を上げ2倍の24人が救い出された。サトヤルティがノーベル平和賞を受賞し、闇に光が当たる10年前の出来事だ。

 1980年代に大学教員の仕事を捨て、小さな非政府組織を立ち上げた。採石場やじゅうたん工場、農場、サーカス……。奴隷同然に働かされる子供の支援に身を投じ、約8万5千人を助けてリハビリを施した。

 自分の子供はマフィアの脅迫に備え国外にかくまい、暗殺された同志もいる。それでも今の生き方を貫く、原体験は6歳までさかのぼる。

 印中部の裕福な「上級カースト」の家庭で育ったサトヤルティは毎朝、靴磨きの父子を校門近くで見かけた。この子はなぜ学校に来ないの。素朴な疑問に子の父は短く答えた。「息子は働くために生まれてきた」

 それは今のインドでも珍しい光景ではない。職業を代々引き継いだ古い身分制度「カースト」は社会に深く根付く。教育の機会や職を制限し、貧困の再生産を招く。国連によると世界の児童労働はインドを筆頭に推計1億6800万人。サトヤルティが助けた8万5千人は氷山の一角だ。

 「働きながら学べる、と聞いて貧しい父母は僕を送り出したのに」。ある中学校から2年前にサトヤルティに保護されたアジャイ・クマール(17)は言う。9歳のときからクマールはその学校の調理場で働かされてきたが、勉強の機会を与えられることはなかった。

 ノーベル賞は国際的な発言力や影響力をもたらし、いまサトヤルティは各国政府に教育の大切さを訴える。同時に「旧敵」との共闘の道も探る。

 07年にはカジュアル衣料の米ギャップを糾弾するなど、安い労働力を求めて新興国でサプライチェーンを築く外資系企業と対峙した。だが「子供を使う4次、5次下請けほど利幅が大きいのが実態」。下請けの監視で企業と協力すれば問題の解決につながると考える。

 1980年代に約20%だった世界全体に占めるアジアの国内総生産(GDP)シェアはいま3割に到達した。先進国企業の進出はアジアの奇跡的な成長の原動力となった。半面、所得格差を表すジニ係数は最近約10年間で31カ国中11カ国で悪化し、他の多くの国でも改善はわずかにとどまる。

 教育や所得の格差が固定化すれば中産階級が育たない。アジアの消費は伸び悩み高成長も壁にぶつかる。アジアが抱える潜在力を発揮し続けるには、分厚い氷山を溶かす、総動員の闘いが欠かせない。(敬称略)



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