アジア投資銀の行方(上) 拙速な参加見送りは妥当 伊藤隆敏 コロンビア大学教授 2015/04/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「アジア投資銀の行方(上) 拙速な参加見送りは妥当 伊藤隆敏 コロンビア大学教授」です。

AIIBへの参加判断には賛否の両論がありますが、この記事はその反対論です。麻生副総理と同じような見解で、より詳細に反対見解を論述しており、非常に参考になります。蛍光ペンでマークしている部分を踏まえると、AIIBに入って対抗軸を作るよりも、そもそもこのAIIBという枠組みを認めず、参加しないことの方が明らかに優っていることが理解できます。

このような明確な論理を元に判断、行動するのが政治のリーダーシップであり、現在のところ、安倍首相が下した決断は正しいと思われます。





 4月にワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季総会では、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡るメディアの関心が高かった。IMFも世銀も公式には、アジアにおけるインフラ投資の資金が増えるのは歓迎だが、既存の国際機関と連携することを期待すると答えている。

 今のところ表立った批判は聞かれない。18年前のIMF・世銀の秋季総会で、日本が提唱していた「アジア通貨基金」構想が米国や中国の反対で頓挫したのとは対照的だ。

 中国は、国際金融体制の中で世界第2の経済大国にふさわしい地位を確立したいという国家戦略からAIIBを提唱している。IMFや世銀など既存の国際金融機関では議決権配分や首脳人事で欧米が有利になっていることや、アジア開発銀行(ADB)では日本が出資比率トップでこれまで歴代総裁ポストを独占していることに対する不満の表明といってもよい。

 さらにAIIBの必要性について中国は、アジアのインフラ需要が大きいので世銀やADBだけでは対応しきれないことや、IMFの出資比率改定が、米議会の反対で頓挫していることを挙げている。特に後者の指摘は、米国の弱点を突いている。

 中国が設立を最初に提唱した当時(2013年10月)、本部は北京、総裁は中国人、規模は1千億ドルで、中国が出資比率50%まで出す用意があるという構想を示していた。これでは「中国による、中国のための、中国の銀行だ」として、先進国を中心に、国際金融機関とは認められないだろうという懐疑論が大勢であった。

 その後、中国は自国の出資比率を引き下げることも含めて、構想内容を改定しつつ、あの手この手で参加国を募ってきた。それでも今年2月までは参加国は発展途上国・新興国を中心に限定的だった。

 ところが創設メンバーの参加期限とされていた3月末まであと半月という時点で、急きょ英国が交渉参加を表明。その直後、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、韓国も交渉参加を表明した。主要国では日本、米国、カナダだけが取り残される形で、創設メンバーが固まった。結局、創設メンバーとして設立交渉に参加するのは50カ国を超え、6月末の定款調印、年内発足の計画に勢いがついた格好だ。表で示したように、ADBと比べても遜色ない。

 日米両政府にとって、英国や独仏伊の参加表明時期は驚きだった。米政府をもってしても中国のAIIB構想自体を止めたり、英国の参加を抑えたりできなかったことは、米国の経済外交力の低下を表している。国際金融システムは大きな転換点を迎えたといえるかもしれない。

 日米だけが取り残されたとか、日本の外交上の敗北だという意見すら聞かれる。しかし、AIIBの組織運営の制度設計に重大な疑問がある中で、参加すべきではない。3月時点の選択肢は、「参加のための改革条件」を中から働きかけるか、外から働きかけるか、という戦術の違いだった。結果は後者を選択したが、戦略は一貫している。

 参加しないとAIIB案件への入札で日本企業が不利になるのではないか、という意見もある。入札については、メンバー国以外の国の企業にもオープンであるべきだと主張することが望ましいが、そもそもADBでの入札でも日本企業の落札率は極めて低いというのが実情である。

 AIIBの組織制度設計を巡っては3つの問題がある。

 第1の問題は、出資比率で中国が断トツになることだ。出資比率については、域内国群、域外国群の出資比率をあらかじめ3対1に固定することで、域外国(欧米)の影響力を最初から薄めている。一方、域内国群の中の各国の出資比率は国内総生産(GDP)比例で決めるとしている。アジア域内ではGDPが最大である中国が最大出資(投票権)国になる。GDP規模では日本は中国の半分であり、日豪韓・インドの4カ国を合計しても中国に及ばない。

 GDP比だけならば、中国は、出資比率全体の25%近くを確保してもおかしくない。域内と域外の比率をあらかじめ固定することで、圧倒的な出資比率の1位を確保して、欧米の影響力を抑えている。

 また中国は、融資案件を最終決定する「理事会」を本部に常設しない方針である。理事に情報が届かなければ、総裁、幹部、スタッフの意向が強く反映する。理事会を本部に常設して運営のチェックを常に受けるというのは、当然のガバナンス(統治)体制である。こうした問題は、AIIBの影響を真剣に考える国としては譲れない点だ。

 第2の問題は、融資案件・条件に対する懸念である。まず、中国国内のプロジェクトにも融資するかどうかだ。最大の出資国が、自国の公共事業に国際金融機関の資金を動員するよう影響力を発揮するとなると、利益相反の問題が発生する。もう一つ懸念されるのは、中国が重要もしくは友好的と考える国に対して、融資条件を緩くするというような「政治的な利用」である。

 このため「投資ルール」の確立と、最初2~3年の実績が重要になってくる。その意味でも、第1の問題である制度設計が非常に重要になる。

 第3の問題は、既存の国際金融機関との関係である。中国は世銀やADBの借り入れ国である一方で、AIIBでは出資比率でトップになる。国内の資金需要は世銀やADBを通じて先進国から低利で借り入れながら、他方ではAIIBを使って中国がリーダーシップをとった融資をアジアのインフラ案件に貸し出すというのは、違和感がある。

 さらに、世銀やADBが既に活発に活動しているアジアでAIIBが案件を獲得しようとして、世銀やADBよりも魅力的(借り手に有利)な条件を提示する誘惑がある。あるいはリスクの高い案件に貸し込んで融資の焦げ付きを発生させるかもしれない。

 国際金融機関同士の融資条件の緩和競争というのは避けなくてはならない。世銀やADBは、開発金融には環境への影響の配慮、少数民族や低所得層への配慮など世界のスタンダード(ベストプラクティス)があるとしている。これに対して中国は「何が『ベスト』かは分からない。『グッド』があるだけだ」といっている。ノウハウ吸収に数年かかるとして、その後は次第に世銀やADBとは異なる独自路線をとる可能性もある。

 創設メンバー国にはならないことを選択した日本は、今後どう対処すればよいのか。基本的には、創立メンバーになるとした欧州諸国、豪州と緊密に情報交換して、組織の内部、外部から懸念事項の解消に努めることだろう。6月の協定署名までに納得できる改革案が示されれば、その時点で日本が参加する選択肢を持ち続けることが重要だ。

 日本政府はこれまで透明性やガバナンスに懸念があるので状況を見極めるといってきた。基本的に正しいが、いくつかの譲れない具体的条件を明示して改革を迫るべきだ。例えば(1)最大出資国の上限を20%に抑え、重要案件に関する可決要件は75%とする(2)本部に常設する理事会を置き、そこで融資案件の審査をする(3)運用開始前に「投資ルール」を明確化する(4)既存の国際金融機関と補完関係を保ち、融資条件の緩和競争をしないなど、ベストプラクティスの順守を明記する――などだ。

 日本がこれから6月までの間にどのようにAIIBに向き合うのかという問題は、対中戦略からも、国際金融体制における日本の役割を考えるうえでも重要な課題である。

<ポイント>○国際金融システムは大きな転換点迎えた○理事会の非常設や政治的な利用など懸念○改革案次第で参加の選択肢も持ち続けよ

 いとう・たかとし 50年生まれ。ハーバード大博士。専門は国際金融。兼政策研究大学院大教授

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