インドネシア、中国警戒 南シナ海南端 漁船事件巡り対立 兵力倍増、空港も整備 2016/04/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「インドネシア、中国警戒 南シナ海南端 漁船事件巡り対立 兵力倍増、空港も整備」です。





 【ジャカルタ=渡辺禎央】東南アジアの大国インドネシアが中国への警戒を強めている。海洋進出を進める中国が、自国領への脅威となり始めたからだ。南シナ海の南端にあたり天然ガスの埋蔵が豊富なナトゥナ諸島の駐留兵力を2016年中に倍増し、軍用の空港や港湾の整備も進める。フィリピンやベトナムが中国と鋭く対立する南シナ海問題でインドネシアは「中立」の姿勢だった。その政策の見直しを進めれば、地域安全保障に影響を及ぼす。

 「国家最前線の島へようこそ」。ナトゥナで軍用も兼ねるラナイ空港に着くと、こんな看板が目に入る。民間航空機からも次々に降り立つ迷彩服の軍関係者の姿は、緊張感の高まりを示す。

 インドネシア政府は今年から4500億ルピア(約40億円)を投じ、ナトゥナの空港や港湾を整備する。戦闘機や軍艦を常時配備するためだ。年内には駐留兵力を2倍の2千人に増やす。治安担当の政府高官は「特殊部隊の専用施設用に200ヘクタール(東京ドーム約40個分)の土地を選定中」と話す。

 ナトゥナを巡り中国の軍事的脅威が高まっているとインドネシアは感じている。3月中旬に同国の排他的経済水域(EEZ)で違法操業の中国漁船を取り締まった際、武装した別の中国船に領海内で妨害され船を奪還された。外交ルートで強く抗議したが、中国側は「(現場は)伝統的な中国の漁場だ」と反論した。

 中国船による同様な妨害は13年にも起きた。ユドヨノ前政権の最終年度の14年度(1~12月)の国防予算は83兆ルピアだったが、14年10月に発足したジョコ政権はこれを引き上げ、15、16年度はいずれも約100兆ルピアとした。それでも国内総生産(GDP)に占める国防支出の割合は1%程度にすぎず、約2%のベトナムより低い。ジョコ氏は2月、国軍強化を巡る閣議で「250兆ルピアに相当する1.5%に引き上げる」との目標を示した。

 インドネシアで1998年まで30年以上も実権を握った国軍出身のスハルト元大統領は西側陣営の一員として反共を掲げ、中国と距離を置いてきた。スハルト政権崩壊後に民主化がすすむなかで中国との関係は急速に改善。対中警戒派のルフット調整相(政治・治安)も3月下旬、「中国とはインドネシアの主権を侵さない形で良好な関係を築きたい」と発言した。

 一方、中国外務省も「ナトゥナ諸島の主権はインドネシアに帰属する」と明言し、領有権は訴えていない。中国が管轄権を主張する「九段線」と重なるのはナトゥナのEEZで、南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島における比越との領有権争いとは異なるとの立場だ。

 中国がナトゥナ諸島に言及する際は必ず「インドネシアが南沙諸島の領有権を主張したことはない」とも強調する。中国は東南アジア各国が米国と共に対中包囲網を形成することを警戒する。

 それでも中国の大国意識は強まり、漁民保護など海洋権益で譲歩する可能性は低い。最高指導部の大幅な入れ替えがある共産党大会を1年半後に控え、習近平指導部も弱腰な姿勢は見せられない事情もある。経済力を背景に、強気の振る舞いを続ける公算が大きい。

東南アの大国、沈黙破る

 領有権をめぐる紛争で荒波が立つ南シナ海で、ナトゥナ諸島は「盲点」とも呼べる存在だった。中国が主張する「九段線」とインドネシアの排他的経済水域(EEZ)が重なるが、両国間に紛争は起きてこなかった。

 インドネシアは人口2億5千万人の大国で、東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかで最大の発言力を持つ。フィリピンやベトナムと異なり、中国も一目おく存在で、表だって事を構えたくないのが本音だ。

 双方とも外交上の配慮から腫れ物に触れずにいたが、3月中旬の違法漁船の事件で沈黙は破られた。どちらかが意図的に仕掛けたのではなく、衝突は偶発的に起きた可能性がある。

 だが中国の巡視船が体当たり攻撃をかけるなど、物理的な被害が生じた事態は重い。

 2つの焦点がある。インドネシアEEZを指し、中国側が「伝統的な中国の漁場」と公式に明言した事実。さらに中国公船が漁船を奪回した地点がEEZか領海かで両国の主張が食い違う点だ。

 仮に領海内なら主権侵害となり、国際法上の対応が迫られる。いずれにしても対立の表面化で、両国とも表舞台で対処せざるを得ない。中国とフィリピンの紛争で、5月中にも予定される国際条約に基づく仲裁裁判所判決にも影響が出そうだ。

 紛争に距離を置いてきたインドネシアが巻き込まれ、南シナ海の領有権問題は新たな局面に入る。

 中国は学術研究を目的に「南シナ海中国・東南アジア研究センター」を海南島に新設した。関係国との交流拠点とする計画だが南シナ海の秩序づくりの議論で主導権を握る思惑も見え隠れする。

 ASEANでは「インドネシアが1ミリ動けば東南アジア全体が100メートル前進する」(オン・ケンヨン元事務局長)。マレーシアやシンガポールなど中国の南進を警戒する各国では、内政重視のジョコ政権が今回の事件を機に対中外交に目覚めることに期待が高い。

(シンガポール=編集委員 太田泰彦)



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