オピニオン 中国、まず国内の強さ磨け米エール大シニアフェロー スティーブン・ローチ氏 2017/4/7 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「オピニオン 中国、まず国内の強さ磨け米エール大シニアフェロースティーブン・ローチ氏」です。





 中国の李克強首相は3月、中国発展ハイレベルフォーラムの場で、中国経済は基本的に強く「ハードランディングはない」と宣言した。李首相の発言は、1~2月の小売売上高や鉱工業生産といった堅調な統計に沿ったものだった。

 中国人民銀行(中央銀行)は3月、同月の米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げを受け、公開市場操作(オペ)で金融機関に資金を供給する際の金利を0.1%引き上げた。経済基調に過度の懸念があれば、踏み切らなかったはずだ。

 輸出の強さも予想外で、2017年に入り16年の減少傾向から増加傾向に転じている。これは中国の成長を巡る以前と最近の不安の対照を示す。米国で1月に政権が発足した「トランプ効果」と言ってもいい。世界経済の「アニマルスピリット(野心)」の復活が、輸出に引き続き頼る中国経済にとって救いとなった。

 中国経済の短期的な回復の見込みは大半の予想よりはるかに明るいが、おごりに近い不気味な意識が中国の戦略的な集団思考に忍び込んでいるようだ。米国が内向きになる中、中国の意思決定者はグローバルなリーダーシップの劇的な変化から生じる可能性に思いを巡らしているとみられる。

 私は、米国が入らない枠組みである東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や中国と欧州を結ぶ一帯一路構想、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった、中国を中心としたグローバル化の可能性について繰り返したずねられた。まるで中国がトランプ米大統領の「米国第一主義」によって生じる空白を埋めようとしているかのようだ。

 中国は歴史を熱心に学んでおり、グローバルなリーダーシップと経済力のシフトは突然起こるものでなく、非常にゆっくりと進むことを知っている。それでも私は、中国が現状をまったく異なった視点からとらえているという感触を得ている。偉大な破壊者であるトランプ大統領は、グローバル化のルールを変えてしまった。中国の多くの人々は、今がグローバルな大国として手綱を握る機会なのだろうかと考えている。

 しかし中国が念頭に置かなければならないもう一つの歴史の教訓がある。歴史学者のポール・ケネディ米エール大学教授が長年主張しているように、興隆した大国の衰退は、国家による勢力圏の拡張が国内のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の弱さによって損なわれてしまう「地政戦略学的に手を広げすぎた」状況の下で起こる。

 グローバルなリーダーシップは国内の強さから始まる。中国の場合、指導部が「新常態(ニューノーマル)」と呼ぶ約束の地に到達する前に、リバランスとリストラの道のりが待っている。

 中国国内の見解と欧米の認識には重要な相違点がある。海外ではリバランスの手段である中国の改革が、習近平国家主席の下で5年程度滞ってきたとみている。10年に及ぶ胡錦濤前国家主席の時代にも同じような見解だった。だが、本当に中国の現状についての正しい評価なのだろうか。

 大々的な発表より、結果の方が重要だ。中国の温家宝前首相が「不安定化し、バランスが崩れ、調整不足で、持続不可能」になった中国経済をリバランスすると宣言した07年以降、中国の経済構造は劇的に変化した。

 国内総生産(GDP)に占めるいわゆる第2次産業の比率は07年の約47%から16年には約40%に低下する一方、第3次産業の比率は約43%から52%近くに上昇した。中国の改革を否定する人々が見逃している主要な点は、中国が実際にはリバランスの道をまい進しているということだ。

 短期的な中国の強靱(きょうじん)さと内向きの米国の組み合わせは、中国に行動をとらずにいられないような機会を提供するだろう。しかし中国はグローバルな大国としての力を誇示したいとの誘惑にあらがい、国内戦略の実施に引き続き焦点を合わせるべきだ。

((C)Project Syndicate)

 Stephen Roach 香港駐在のモルガン・スタンレー・アジア会長などを経て現職。著書に「アメリカと中国 もたれ合う大国」。71歳。

力の誘惑排せるか

 内向きになった米国とどう向き合い、世界の平和と発展をうながしていくか――。米トランプ政権が突きつける難題の一つである。米国に次ぐ世界第2の経済大国・中国が直面する問いでもある。

 これに対するローチ氏のアドバイスは、いささか意外かもしれない。中国もまた内向きであるべきだ、というのだから。二大経済大国がそろって内向きになって世界経済は大丈夫なのか、といった懸念が浮かんでくる。

 ローチ氏の真意は、中国が「力を誇示したい」との誘惑に抵抗すべきだ、というところにあろう。たしかに中国経済はリバランスと構造改革をなお必要としている。習近平国家主席ら指導部が「力の誘惑」に屈してしまえば、世界は安全保障の面でも経済の面でも危うい。

(編集委員 飯野克彦)



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