グローバルオピニオン 「インフレ目標」を捨てよ スイスUBS会長 アクセル・ウェーバー氏 2015/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 「インフレ目標」を捨てよ スイスUBS会長 アクセル・ウェーバー氏」です。





 「インフレ目標」は金融政策の主流になってきた。米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)といった主要な中銀が基本的にこれを採用してきた。だが、2008年のグローバル金融危機で、この政策が有効なのかどうか疑わしくなってきた。

 国際決済銀行(BIS)によると、純粋なインフレ目標政策は金融の安定と両立しない。景気循環を考慮しないため、経済を過度に刺激する一方的な政策になりかねないからだ。

 インフレ目標政策の支持派は1990年代前半からの物価引き下げに寄与したと主張する。ところが、世界で物価上昇圧力が低くなった主因は、中国の世界経済への参入をはじめとするグローバル化だったと考えられる。

 (いまは)多くの中銀が経済を再び膨張させること(物価の引き上げ)にてこずっている。インフレ率を上げられないのならば、(その前に)引き下げることもできていなかったと考えるのが自然だ。

 本来の中銀の目的は消費者物価の安定でなかった。戦争のための資金調達だった。通貨価値の安定という目標が認識(ある意味では再認識)されたのは、70年代に大幅なインフレが起きてからだ。

 通貨価値を測る方法の一つとして物価が注目を集め、消費者物価指数(CPI)が最も明確な指標とされた。問題なのは、通貨価値を最終的に決定する通貨供給量と物価の関係が一定でないことだ。

 通貨供給量を調節してから物価が変動するまでの時間差は長いうえに不安定で予測不能だ。2~3年先の消費者物価の誘導目標を設けたとしても、長期的な通貨価値の安定が保証されるわけではない。

 中銀側は消費者物価のほかの物価には責任を持たないと言明してきた。それは通貨価値があらゆる価格に映され、商品、不動産、株、債券のほか為替相場も例外でないという事実を無視している。

 消費者物価を偏重する中銀の姿勢は不適切だ。これを明示したのが08年危機前の住宅価格の高騰、リーマン・ショック後の資産・商品価格の急落、続いて起きた資産インフレの再燃、最近の大幅な為替変動である。どれもが通貨価値の安定に反する現象だ。

 CPIを過度に重視する金融政策は、資本の効率的な配分を妨げ、偏った投資につながる。必要なのは多元的で柔軟な政策だ。リスク管理を重視し、単純な公式でなく政策担当者の判断に任せるのだ。

 中銀は包括的で長期の金融政策を採用すべきだ。すると短期では、「価格の安定」とされている水準から消費者物価が乖離(かいり)する事態があるかもしれない。しかし、それは長期の通貨安定のための小さな代償にすぎない。

((C)Project Syndicate)

Axel A.Weber 2004~11年にドイツ連銀(中銀)総裁。並行してECB理事会とBIS理事会のメンバー。UBSは世界最大級の金融機関。58歳。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です