グローバルオピニオン トランプ氏米の地位脅かす フラン シス・フクヤマ氏 米スタンフォード大シニアフェロー 2017/12/1 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン トランプ氏米の地位脅かす フランシス・フクヤマ氏 米スタンフォード大シニアフェロー」です。





 トランプ米大統領が当選した時は、米国の民主的な制度の弱体化や誤った政策の相次ぐ実現を心配する声が多かった。だが、今のところ、それは杞憂(きゆう)にとどまっている。

 捜査当局は大統領選挙に絡むロシア疑惑解明を粛々と進めているし、メディアも大統領の誤った言動を厳しく追及している。米民主主義の根幹であるチェック・アンド・バランスは機能している。メキシコ国境との壁づくりは進まず、医療保険制度改革法(オバマケア)も廃止されていない。

Francis Fukuyama ハーバード大博士。世界秩序のあり方や米国の政治思想、外交政策について幅広く分析、発言している。著書に『歴史の終わり』など。65歳。

 大きなダメージを受けているのは米国の政治文化である。保守対リベラルという政治・社会の2極分化は政権誕生前から起きていたが、トランプ氏は人びとの怒りをあおる発言をすることで、これをさらに深めようとしている。

 一例は人種差別に抗議するため、国歌斉唱の際に起立しなかったアメリカンフットボールの黒人選手を非難したことだ。国をまとめるどころか、むしろ意図的に自身の支持層が抱く不満の矛先を選手に向けた。主流メディアを連日のようにたたくのも、支持層受けするのがわかっているからだ。

 政党にも大きな影響を与えている。まず古い共和党を崩しつつある。自由貿易を擁護し、国際的な秩序形成に積極的にかかわるのが党の伝統的な基本路線だった。それがトランプ氏が支配者になったことにより、ポピュリズムの方向に転換させられようとしている。民主党の左旋回も促している。(クリントン氏と民主党大統領候補の指名を争った)サンダース氏のように大企業を攻撃する左派が、党を支える活動家の間で勢いを増している。これも危険なことだ。

 反政権派の間では「問題だらけの大統領だから、弾劾はないにせよ1期で終わり」との声が多いが楽観的すぎる。トランプ氏を嫌う住民はニューヨーク州など沿岸部に集中するが、決め手になるのは、昨年の選挙でトランプ氏を支持した内陸部の白人労働者層だ。失業率低下など経済の改善傾向は追い風になる。2020年の大統領選で再選の公算は十分ある。

 政策面で最も心配なのは外交だ。トランプ氏は指導者としての信頼や尊敬を勝ち得ておらず、そのことだけですでに米国の立場を弱めている。目の前の問題では、北朝鮮との軍事衝突の可能性が過小評価されていると感じる。株式市場の動向を見てもこのままですむとみているようだが、危うい。

 北朝鮮の核開発には強い対抗措置が必要ではあるが、トランプ氏は過激な物言いを繰り返すだけだ。その発言が自身を追い込むことになる恐れがある。北朝鮮が(核実験の継続など)挑発的な行為を止めなければトランプ氏は愚か者に見える。これを嫌がって行動に出るかもしれない。逆に何もしなければ、トランプ氏の脅しは口先だけと侮られるリスクもある。

 国際的に強い指導力を発揮するより自国第一を掲げる政権の姿勢は、米国から中国への影響力のシフトを促す要因にもなろう。大統領候補としては中国に厳しいことを言っていたが、実際のところは何もしていない。国際社会に向けて人権や民主主義について語らないどころか、むしろロシアのプーチン大統領をはじめ専制的な指導者を好んでいるように見える。

 米国第一主義はトランプ氏だけでうまれたわけではない。世界同時テロ後のアフガニスタンやイラクでの戦争が失敗と受け止められ、グローバル化による敗者が不満の声をあげるなかで醸成されてきた。その意味ではベトナム戦争後の1970年代の米国と似ている。ただ、その後レーガン大統領が登場し、米国は世界と再び関わりを深めるようになる。外交はトップの指導力次第で人びとを納得させることができる分野であり、米国第一主義の流れが不可逆的というわけではない。

 米国再生には社会の分断を止めねばならないが、それをあおるトランプ氏のままでは難しい。まず民主党がトランプ氏を支持した白人労働者層の気持ちに訴えられる候補を立て、18年の中間選挙に勝つ努力をするのが重要だ。

(談)

修正力は働くか

 民主主義ほど混乱が見えやすい制度はない。特に経済や社会に矛盾が生じたとき、選挙や言論を通じた人びとの異議申し立ては激しさを増し、対立も先鋭化する。既得権益層やそれが後押しする政策への不満が政治の正面に出てきた米国の姿は、民主主義が機能した結果であり、美点ともいえる。だがその先に分岐点がある。

 冷静な問題分析と対話を通じて解決策を見つけ出すのか。それとも政敵への中傷や極論が幅をきかせる社会になるのか。後者なら、フクヤマ氏が『歴史の終わり』で優位性を説いた、自由民主主義の世界での磁力は失われかねない。

 米国は建国以来、革命や専制に陥ることなく、民衆の意をくみ態勢を立て直す自己修正能力を見せてきた。その底力が再び試されている。

(編集委員 実哲也)



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