グローバルオピニオン ドルには代わらぬ人民元英王立国際問題研 究所シニアリサーチフェローパオラ・スバッキ氏 2017/11/3 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン ドルには代わらぬ人民元英王立国際問題研究所シニアリサーチフェローパオラ・スバッキ氏」です。





 SFサスペンス映画「ブレードランナー2049」が描く米ロサンゼルスは、現在の中国の巨大都市のようにみえた。大気汚染がひどく、けばけばしいネオンの看板と建造物が立ち並んでいた。映画の観客には、ネオンで宣伝している商品がどの通貨で取引されているかはわからない。49年には、米ドルが依然として支配的なのだろうか。中国の人民元が取って代わっただろうか。それとも、別の通貨が基軸通貨になっているだろうか。

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 トランプ米大統領は、米国が世界のリーダーの地位から、少なくとも一部退くことを固く決意しているようにみえる。だが第1次大戦と第2次大戦の間の英国のポンドのように、国が経済や金融、地政学的な覇権を失った後も基軸通貨の地位にとどまる場合はある。

 ドルは今後も長期にわたり、貿易の決済などに使われる主要な通貨であり続けるだろう。問題は、米カリフォルニア大バークレー校教授のバリー・アイケングリーン氏が予測するドル一極体制の終わりが、中国による元の台頭を意味するかどうかだ。中国の政策決定者は1990年代以降、地政学的な立場の強化を目指し、国際金融における元の役割を拡大しようとしてきた。

 しかし元建ての金融は、ドル金融のライバルになるどころか、競争のスタート地点にすら立っていない。元は、各国の通貨当局が対外債務の返済などに備えて持つ外貨準備の通貨としては引き続きドルやユーロ、円、ポンドにおくれをとる。今世紀半ばまでに元主導の国際通貨の体制が実現するのは、「ブレードランナー」のようなディストピア(反理想郷)が現実になってしまうのと同様、可能性が低いだろう。

 元が国際金融において弱い通貨なのは、10年以降かなり前進はみられたものの、国際通貨として中途半端であることが一因だ。元は流動性が低く、指定されたオフショア市場以外では通用しない。このため国際的な投資家のポートフォリオにおける元の比重は、極めて低い。

 中国自体、貿易で元を利用する比率は低く、国際金融ではドル建てが主流といえる。中国の優良企業であるネット大手のアリババ集団や百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)は米国か香港に上場している。株価は米ドルか香港ドル建てとなる。急拡大する中国の融資や海外投資の多くも米ドル建てのようだ。

 もっとも、元が支配的な国際金融の体制が近く実現すると予想されない最大の理由は、中国の指導部が元をドルに代わる通貨にするという持続的な決意を示していないからだ。むしろ、国際通貨の体制は一つの通貨に依存すべきでないと主張し、国際通貨の改革に協力的な姿勢をとっているようにみえる。中国は元の限られた流動性を克服する一つの方法として、主要な金融センターでのオフショア市場の開発に取り組んでいる。

 中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は09年、(国家とつながっていない基軸通貨の創設は、国際通貨の体制を改革する目標だとして)米国だけがドルを通じ国際通貨の体制を保証できるという考えに挑戦する論文を出した。中国は国際通貨の体制の将来について、複数の通貨が決済などにおける選択肢を提供することで、国内政治の影響をあまり受けないようにすべきだと考えているようだ。

 ただし、複数の基軸通貨が並立する体制を構築するためには、国際機関の幅広い改革が必要になる。基軸通貨としてのドルの地位は、第2次大戦後のブレトンウッズ体制に支えられている。国際通貨の体制の改革は、多国間の金融機関の改革を意味する。

 複数の通貨が並立するようになったとしても、元主導の体制にはならないだろう。中国の国際金融での本質的な弱さによるものか、真の国際通貨は市場原理に基づく通貨でなくてはならないという理解によるものかは別にして、中国でさえ元の時代が近く到来するとは予想していない。

((C)Project Syndicate)

 Paola Subacchi イタリア出身。英調査機関オックスフォード・エコノミック・フォーキャスティングを経て04年、王立国際問題研究所(チャタムハウス)入り。17年に現職。

リスク回避を優先

 中国の政策には見過ごせないパターンがある。必要と思えばいつでも豹変(ひょうへん)することだ。5月には人民元の基準値の決め方を、相場の流れと距離を置く方向に改めた。

 国際通貨基金(IMF)が人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えたときは、自由化が加速するとの予測が強まった。だが資本流出への懸念などから相場への監視を強化。元の存在感を高めたい政権のメンツ以外には成果を享受できていない。

 中国の成長率は今は6%台後半で安定しているが、いずれ下降局面に入る。そうなれば相場が不安定になるリスクが高まり、自由化にますます慎重になるだろう。経済規模では米国を猛追している中国だが、スバッキ氏の指摘のように元主導の通貨体制は見通しにくい。

(編集委員 吉田忠則)



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