グローバルオピニオン 南ア与党、権力失う瀬戸際 イアン ・ブレマー氏米ユーラシア・グループ社長 2017/10/13 本日の日本経済新 聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 南ア与党、権力失う瀬戸際 イアン・ブレマー氏米ユーラシア・グループ社長」です。





 南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)政策が1991年、平和的に廃止されて民主主義へ移行したことは、20世紀の偉業のひとつだった。廃止から四半世紀以上がたち、南アフリカと、政権を担ってきた与党・アフリカ民族会議(ANC)は転換点を迎えようとしている。

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 ANCは12月、党大会を開き、現在の議長(党首)で大統領のジェイコブ・ズマ氏の後継者となる新党首を選出する予定だ。南アフリカの大統領は議会下院の過半数の賛成で選ばれ、任期は5年間だ。ズマ氏は2009年に大統領に就任し、14年に再選されたが、3選は禁止されている。

 ANCは修復不可能な分裂の瀬戸際にあり、次の19年の大統領選では、ANCの候補が当選しない可能性も高まっている。南アフリカはANCから野党へ、再び平和的な政権移行を実現するのか。それとも深刻な状況に向かっているのだろうか。見通しはあまり明るくはない。

 10年ほど前は、南アフリカの経済は堅調だった。04~08年の5年間は、新興国が全般的に成長率が高い時期だったといえる。南アフリカが大量に産出している金やプラチナ、ダイヤモンド、石炭の価格が上昇基調となった。商品ブームで可能になった財政支出の急増などにより、年平均約4.8%の高い成長率が実現した。

 南アフリカの成長率は09~13年、豊かな国から貧しい国までが金融危機後の世界経済の減速から回復しようともがく中、わずか約1.9%に低下した。経済状況はその後、さらに悪化した。14~16年の成長率は約1.1%にまで低下した。

 暴力的な抗議行動の件数は、04~08年の年平均21件から、14~16年には同164件に増えたという。南アフリカの人口約5500万人のうち、15~35歳は2千万人程度だが、仕事に就いているのは600万人程度にすぎないとみられる。若者の失業率は成人の2倍に上り、黒人の若者の失業率は白人の約11%の4倍近い約40%の高さという。

 政府は事態の改善を約束しているが、あまり信頼性がない。ズマ大統領は詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)、汚職の容疑にさらされてきた。(公金流用など)憲法に違反したとする裁判所の判決や、複数の不信任投票などからも政治的に生き延びてきた。最近は、ズマ政権と南アフリカ在住のインド系富豪であるグプタ家の親密な関係が暴露された。グプタ家は国営企業との間で有利な契約を次々と結ぶ一方、ズマ氏のために豪邸を購入したという疑惑が浮上した。

 ズマ氏と仲間たちは支持者を奮い立たせるため、こぶしを振り上げて経済悪化の責任を国内のライバルや外国になすりつけるような、ポピュリズムに依存するようになった。健全なマクロ経済の政策を放棄しようとしている。

 政府は高い関税や補助金により、国営企業や国家が支配する産業を競争から守ろうとしている。労働組合員が保護され、失業者が仕事を見つけるのが難しくなる。国は失業と戦うため、財源がないというのに支出により政府の雇用を増やしている。汚職も暴力の引き金になっている。ズマ氏の地元である東南部クワズール・ナタール州では最近数カ月間で、政治的な理由による殺人事件が数十件発生しているという。

 ANC内部には、より持続可能な軌道に戻りたいと考える派閥があり、12月の党大会での対決に備えている。一方、ズマ氏は元夫人で、アフリカ連合(AU)の執行機関である「委員会」のトップだったドラミニ・ズマ氏を新党首にしようとしているようだ。元夫人であれば、19年の選挙が終わりズマ大統領が退任した後も、訴追から守ってくれると考えているらしい。

 ズマ氏のもくろみに挑戦する手ごわい対立候補になりそうなのが、ラマポーザ副大統領だ。ラマポーザ氏はANCの金権体質を指摘し、暗にズマ氏を非難する。ラマポーザ氏が12月の党首選で敗北した場合、ANCの派閥を率いて離脱する可能性がある。主要野党の民主同盟(DA)が率いる連合や、ズマ政権の汚職を終わらせたいと考える左翼政党などへの参加が考えられる。

 緊張が高まっているのは明らかだろう。ANCが今月初旬、東部の東ケープ州で開いた地域会合は、椅子などが飛び交う騒ぎになったという。事態が落ち着いた後、ラマポーザ氏は「ANCは困難な局面にある。12月の党大会はANCを一新し、結束させる場になるだろう」などと出席者に語りかけたという。

 ANCの幹部は、ANCをアパルトヘイトからの解放の党ではなく、権力の党としてしか知らない若い世代の存在を忘れてはならない。ANCは12月の党首選の結果がどうなるにせよ、大統領選で権力を失う可能性が高まっている。善くも悪くも、これから起きることが南アフリカの将来の進路を決めることになるだろう。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



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