グローバルオピニオン 成長至上主義と決別を チェコの経済学者 トーマス・セドラチェク氏 2016/04/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 成長至上主義と決別を チェコの経済学者 トーマス・セドラチェク氏」です。





 世界経済は今、深刻な不況だと診断する人は多い。経済学者たちは常に不況に目を向けて治療を促してきた。金融緩和政策や財政支出など経済を覚醒させる即効薬を投入すれば、一時的には経済成長のスピードを速められるかもしれない。しかし、もはや限界だ。

 日本でも、安倍政権は財政・金融政策を通じて需要を人工的に作り出そうとしている。需要創出を目指す政策を否定はしないが、仮に経済が不況から脱出して好況になったとき、ブレーキをかける手段がない。そんな危うい財政・金融政策に頼り続けるべきではない。

 安倍政権に限った話ではない。日本経済は過去30年にわたって政府や中央銀行から薬を飲まされてきた。その結果が、国内総生産(GDP)の200%を超える政府債務である。マイナス金利政策はこうした政策が底をついたことを象徴している。

 経済は良くなるときも悪くなるときもあり、長い目でみれば不況と好況が繰り返されるのだから、不況にだけ注目するのをやめよう。薬の投入を控えれば、経済は全体として安定するだろう。

 仮に日本の金利水準が2%で、国の財政が安定していたら、国民はどれだけ安心するか、想像してほしい。国の財政を安定させる上で日本の消費税率は本来あるべき水準よりもかなり低い。日本の哲学史を勉強すると、「安定」「平等」という言葉がよく出てくる。にもかかわらず、日本経済はなぜ安定しないのか不思議に思う。

 日本の社会は、私たちの地球の中で最も豊かに見える。さらに経済成長しなければならない理由は見当たらない。黄金の天井に頭が届いてしまったのだ、資本主義は私たちにすべてを与えきった、もらえるものはもうないと考えたらどうか。これからは安定した社会の富を分け合えばよい。日本で問題となっている少子高齢化はおそらくこれから他の国でも進む。日本は先駆的に多くの対策を打ち出しており、よい前例になるのではないか。悲観的になる必要はない。

 現在の主流派経済学は、成長至上主義が前提だ。人類が国民総生産(GNP)やGDPの測定を始めたのはごく最近で、それまでGDPの概念は存在しなかった。資本主義と民主主義の価値は「自由」であり、「成長」ではない。成長は私たちを喜ばせる特典だが、必然ではない。

 政治のパフォーマンスを経済成長率で評価するのではなく、国の予算をどう使ったかを測定し、財政を安定させたかどうかを評価の対象とすべきだ。天気が毎日良ければと願い、成長に魅入られている経済学者たちのポケットの中は空っぽだ。そこから処方箋は出てこない。

(談)

Tomas Sedlacek 24歳でハベル・チェコ共和国初代大統領の経済アドバイザーを務める。著書「善と悪の経済学」は15カ国語に翻訳。39歳。



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