グローバルオピニオン 時代遅れの米関税政策 リチャード ・ボールドウィン氏 ジュネーブ国際高等問題研究所教授 2017/2/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 時代遅れの米関税政策 リチャード・ボールドウィン氏 ジュネーブ国際高等問題研究所教授」です。





 トランプ米大統領の通商政策は米国の評判とグローバル経済に大きなダメージを与えそうだ。

 米労働者の多くはこの20年のあいだ所得が停滞しているのは自由貿易協定のせいと考えている。トランプ氏はグローバル化を批判し、主要経済閣僚に保護貿易主義者を起用することでこうした労働者を「保護」しようとしている。

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リチャード・ボールドウィン氏

 しかし、この判断は間違いだ。21世紀の問題を20世紀の方法で解決しようとしている。残念ながら時代錯誤の保護主義は、衰退する産業で数千人の雇用を救ったとしても、米国の競争力向上にはつながらない。貿易協定を破棄し関税を引き上げても、工場における高賃金の雇用創出には役立たない。関税は労働者にさらに害を及ぼすだけだ。

 トランプ氏は、21世紀のグローバル化は知識主導であって、貿易主導ではないという単純な点を見逃している。通信コストが劇的に低下したため、米企業は生産拠点を低賃金の国へ移すとともに、技術、マーケティング、経営管理のノウハウも海外に移転した。この「知識のオフショア化」が米労働者の状況を根本から変えてしまった。

 2017年の米労働者は、1970年代のように外国の低賃金の労働や資本、技術と競争しているわけではなく、低賃金の外国人労働者と米国のノウハウという、ほとんど勝ち目のない組み合わせと競争しているのだ。

 トランプ政権が関税をかけた場合、米国は製造業にとってコスト高になる。米消費者だけを考えれば、企業が生産の一部を米国に戻すきっかけになるかもしれない。しかし、企業は日本やドイツ、中国の製造業と米国以外で競争できるように輸出を狙った海外生産の意欲を高めるだろう。

 アイデアや知的財産の流れを止めずに、輸入品に関税を課すのは、こぶしを握って指の間から水が流れ落ちるのを防ごうとするようなものだ。21世紀の現実を受け入れる方がより合理的なアプローチだろう。情報革命は、関税が変えることができないような方法で世界を変えてしまった。米労働者は国内ではすでにロボットと競争し、海外では低賃金の労働者と競争しており、輸入を阻止しても、ロボットの仕事が増えるだけだ。

 トランプ氏は個々の雇用ではなく、個々の労働者を守るべきだ。グローバルな市場開放などから得た利益を共有できる機会を労働者に与えることが重要だ。グローバル化や技術革新は痛みを伴うため、労働者の再訓練や生涯教育、所得支援プログラムなどを行う必要がある。トランプ政権が労働者のために、こうした政策をとることこそが、米国を「再び偉大にする」機会を拡大することになる。((C)Project Syndicate)

 Richard Baldwin MIT博士。専門は国際経済。1991年から現職。90~91年、米ブッシュ政権下で大統領経済諮問委員会エコノミスト。

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■産業復活に効果薄く

 トランプ政権の保護主義がどこまで本気かまだ分からないが、懸念材料はある。商務長官や通商代表部代表に米鉄鋼産業とつながりの深い人たちが起用されるが、その鉄鋼産業こそ戦後早くから日本に輸出自主規制を求めるなど保護主義に頼りがちな業界だった。その結果はどうか。米国の鋼材市況は「世界で一番高い」といわれ、ユーザーの負担は重い。米鉄鋼産業が大々的に復活したわけでもない。保護主義は衰退を一時的に止めることはできても、事態の抜本的解決にはならない。(編集委員 西條都夫)



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