グローバルオピニオン 米・イラン、当面は目的一致 米ユーラシアグループ社長 イアン・ブレマー氏 2015/08/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 米・イラン、当面は目的一致 米ユーラシアグループ社長 イアン・ブレマー氏」です。





 米議会で攻防が激化するとしても、最終的にはイラン核合意は承認されるだろう。

 イランは、少なくとも当面は合意条件を守るだろう。見返りがあまりに大きいからだ。経済制裁によって、イランは2010年以降、国内総生産(GDP)の20%近くを失ってきたとみられる。制裁が解除されれば、原油輸出量は来春までに日量60万バレル、16年末までには同100万バレル増やせる見通しだ。これでイランの収入は大幅に増える。

 イラン経済が復活すれば、中東の力関係は根本的に変わる。イランは新たに獲得した資金を、シリアのアサド大統領と、イスラム教シーア派武装組織ヒズボラに注ぎ込むだろう。となれば、長年のライバルであるサウジアラビアは、イランの影響力拡大に対抗するため、さらにオイルマネーを投じるにちがいない。

 他の湾岸諸国は、この2つの国の出方をにらみながら、復活したイラン経済からできるだけ多くを得ようとするだろう。イランのグローバル経済への復帰でとりわけ潤うのはアラブ首長国連邦(UAE)だ。ドバイの企業群はこれまでも長らくイランと取引してきた。UAEにはイラン出身者の大規模なコミュニティーも存在する。トルコも似たような状況だ。

 イランが過激派やテロリストを支援していることは、米国にとって頭痛の種にちがいない。だが米政府は優先順位を決定すべき時だ。

 イランはアサド大統領とヒズボラを支援するだけでなく、過激派組織「イスラム国」(IS)と戦闘中のイラクのシーア派民兵組織にも資金援助するだろう。米政府は、IS打倒が中東における最優先目標だと繰り返し発言してきた。米国民が終わりの見えない中東紛争への派兵を拒否する限り、持ち駒で何とかせざるを得ない。この場合、持ち駒とはイランである。

 米国とイランの目的は、目下のところは打倒ISという点で一致している。だが、米国とイランの本格的なデタント(緊張緩和)を近い将来に期待することはできまい。核合意に駆け引きの余地があれば、それをイランが突いてくることはまず確実である。

 そうした余地はまさに米政府が望まないところにあり、しかもいざというとき、合意に参加した他の大国がイランに対して強気で臨むとは考えにくい。とくにロシアと中国は、復活したイランがもたらす貿易やエネルギー面の恩恵に目を奪われ、イランの核開発の野望をあまり気にしていない。米国は現実を認識し、自国にできる最大限のことでよしとしなければなるまい。

 09~10年にはイランの核開発計画がサイバー攻撃の標的になり、この攻撃でイランの計画は遅れたものの、結果的にイランが自前のサイバー攻撃能力の開発投資を決意することになった。以来イランはこの方面で大幅な進歩を遂げ、10カ国以上の主要航空会社、エネルギー企業、防衛関連企業のシステムに不正侵入したと豪語している。中国やロシアの水準にはまだ達していないものの、イランの能力が着実に強化されていることはまちがいない。

 とはいえサイバー攻撃能力へのイランの執着は、核合意とは別の問題である。今回の合意を客観的に見れば、米国にとっても、合意に参加した大国にとっても、そしてイランにとっても好ましいといってよい。中東の他国にとっても好ましいかどうかは、時が答えを出すことになろう。

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に主導国のない時代を論じた「『Gゼロ』後の世界」など。45歳。



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