グローバルオピニオン 米中の衝突対話で避けよ米ハーバード大教 授グレアム・アリソン氏 2017/7/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン 米中の衝突対話で避けよ米ハーバード大教授グレアム・アリソン氏」です。





 米国の覇権に対する中国の挑戦が続き、衝突のリスクが高まっているように思える。米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席という強権的な指導者が、危険に拍車をかけているのは否めない。

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 新旧の大国の衝突が避けられなくなる事態を、古代ギリシャの歴史家の名前にちなんで「ツキジデスのわな」と呼ぶ。私の近著「Destined For War(運命づけられた戦争)」で論じたように、過去500年間にみられた世界の主要な覇権争い16事例のうち、実に12事例が戦争に発展した。米中もこのわなにはまりかねない。

 「偉大な米国の復活」を唱えるトランプ氏と「中華民族の偉大な復興」を訴える習氏には、多くの共通項がある。自身の指導力と自国の優位性に誇りを持ち、急進的な改革で偉大な国づくりにまい進するだけではない。自らの野心を満たすうえで、お互いの存在が障害になるとみなしている。

 そんなトランプ氏と習氏が特定の懸案を巡り、対立を深めるのが心配だ。両氏は8日、20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれたドイツのハンブルクで会談した。核開発を急ぐ北朝鮮への対応で足並みがそろわず、関係が幾分悪化したような印象を受ける。

 北朝鮮からの石炭輸入を停止した習氏に対し、トランプ氏はひとまず謝意を伝えたという。だが期待通りの結果は得られず、より厳しい制裁を求めて圧力をかけたようだ。北朝鮮と関係の深い中国の銀行や企業への「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」も強化する公算が大きい。

 北朝鮮の核開発にとどまらない。貿易の不均衡や台湾問題が衝突の引き金を引く可能性もある。米中はもはや「敵対的な競争者」だ。両国経済の相互依存の深まりが摩擦の緩衝材になるのは確かだが、だからといって決定的な対立を回避できる保証はない。

 20世紀初頭にぶつかった覇権国の英国と挑戦国のドイツも、経済的な結びつきは強かった。得るものより失うものが大きいから、戦争など起きないと思われていた。それが「大いなる幻想」だとわかったのは1914年だ。オーストリア皇太子の暗殺事件をきっかけに、双方も望んでいなかった第1次世界大戦に突入した。

 覇権国はほかの主要国との関係を強化し、既存の国際秩序に適応するよう挑戦国に迫るケースが多い。ところがトランプ氏は米国の影響力を高める連携の枠組みを基本的に軽視している。環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱が最たる例だろう。

 内向きの米国は中国につけいる隙を与えてしまった。習氏が自由貿易や温暖化防止の主導者として振る舞うのは、まさに皮肉としか言いようがない。これはトランプ氏の大きな過ちである。

 米中は「ツキジデスのわな」から逃れられるのか。その答えはイエスだ。私が研究した16事例の覇権争いのうち、4事例は戦争に至らずにすんだ。新旧の大国が譲歩して針路を修正したためで、20世紀初頭の英国と米国、冷戦期の米国とソ連などが該当する。私たちは世界の歴史から多くを学んできた。過去の覇権争いからも、一定の教訓を得ることができる。決断力の乏しさや近視眼的な発想のせいで、回避できる過ちを犯してはならない。

 トランプ氏と習氏は真摯な対話を続けるべきだ。米中の厳しい現実はもはや覆い隠せず、楽観論を前提とするのは危うい。「ツキジデスのわな」に陥るリスクを直視し、衝動的で常軌を逸した行動を抑え込む方法を探す必要がある。お互いに妥協して針路を修正しなければ、悲惨な結末が待っていることを忘れてはならない。

 米中は4月の首脳会談の合意に基づき、閣僚級の外交・安全保障対話や経済対話を立ち上げた。これらの枠組みも有益だろう。トランプ氏は極めて異例な大統領で、政策の方向性も定まらないが、マティス国防長官やティラーソン国務長官らはもっと現実的だ。2つの大国が衝突の確率を低下させるよう努力してほしい。

(談)

 Graham Allison 米ハーバード大博士。国際政治の権威で、キューバ危機時の米政権の意思決定を論じた著書「決定の本質」で知られる。クリントン政権で国防次官補。77歳。

共存の道探れ

 「ツキジデスのわな」の危険を説くアリソン氏は、悲観的な運命論者ではない。世界を破滅に追いやる米中の衝突を避けるため、両国首脳に自制を求めるところに真意がある。

 1979年の国交正常化から約40年を経て、米中のパワーバランスは大きく変わった。経済・軍事の両面で台頭する中国が攻勢に転じ、守勢に立つ米国のいら立ちは募るばかり。そこに登場したトランプ氏が「均衡点」を押し戻そうと力任せに動き、習氏との緊張が高まっているのは確かだ。

 「チャイメリカ」という造語ができるほど、相互依存を深める米中両国。共存の道を探ろうと、ブッシュ(子)元政権やオバマ前政権は中国との戦略対話を続けてきた。トランプ氏もその場で折り合いをつけざるを得まい。

(ワシントン支局長 小竹洋之)



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