グローバルオピニオン EUの未来 楽観許さず 米ユ ーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏 2017/8/18 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバルオピニオン EUの未来 楽観許さず 米ユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏」です。





 エマニュエル・マクロン氏が5月、フランスの大統領選で反欧州連合(EU)を掲げるポピュリストのマリーヌ・ルペン氏を退けた。ドイツのメルケル首相が(今秋の総選挙を経て)再選する可能性も高まり、欧州がまたも課題を克服したという楽観的な見方が復活している。だが、結論を出すのは時期尚早だ。これから数カ月間、多くの問題が生じると予想され、いまの信頼感は長続きしそうにない。

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 まずフランスは、若々しく精力的なマクロン大統領の誕生により、新世代の指導者への待望論が強いほかの欧州諸国の垂ぜんの的になった。しかし大統領選挙で最も注目すべきは、(既成の二大政党として)同国の政治を長年支配してきた社会党(中道左派)グループと、共和党(中道右派)グループの敗北だ。

 親EU・反EUを問わず、フランスの有権者は変革を求めている。(中道新政党「共和国前進」を率いた)マクロン大統領は、70%が新人議員とされる議会とともに改革に取り組まねばならない。経験不足のために経済と労働市場を活性化できなければ、大統領や議会の支持率は今より低下するだろう。

 マクロン氏は、EU改革に対し懐疑的でもあるドイツと協力する前に、フランスの財政を立て直す必要がある。(調査会社によっては)新大統領の支持率は、就任当初の水準からすぐに10ポイント程度低下した。ほほ笑みや自信にあふれた演説の先にあるのは、社会保障費の削減だと国民が見抜いたからだ。マクロン氏はオランド前大統領と同じく、労働市場の改革をどんなに巧みに示しても、(9月に有力な労働組合が予定するような)デモを引き起こすと思い知った。

 イタリアの場合は、政治的な膠着状態が続く。次の総選挙は(遅くとも)2018年前半までに実施されそうだ。(親EUだが)必要な政治・経済改革を実行に移せない(中道左派・民主党が率いる)連立与党の政権か、反EUを標榜するポピュリスト政党「五つ星運動」が主導する政権かのいずれかが選ばれる可能性が高くなっている。

 移民問題が引き続き、イタリア政治のかたちを変えようとしている。EUと(近接する)トルコの合意により、エーゲ海を渡って(対岸の)ギリシャに向かう移民は大幅に制限された。だが主にリビアからイタリアへボートで到着する人の流れは16年、前年に比べて20%増えたようだ。今年上半期にギリシャに到着した移民は約9千人、スペインは約4千人だったが、イタリアは9万人以上を受け入れているという。

 フランスとオーストリアがごくわずかでも負担するどころか、(両国が)イタリアとの国境管理の強化に関心があるようにみえることで、イタリアでは怒りが高まっている。一部の国の過度な負担を和らげるため、EU加盟国に難民の受け入れを義務付ける割り当ての制度は機能していない。

 ハンガリーとチェコ、スロバキア、ポーランドの東欧4カ国は割り当て上、約1万1千人の難民を受け入れる予定だった。しかし確認できる範囲では、スロバキアとチェコが受け入れたのは30人程度にすぎず、ポーランドとハンガリーに至っては1人も受け入れていないようだ。

 東欧の抵抗はこれだけではない。(難民の受け入れに反発してきた)ハンガリーのオルバン首相は政治支配を固めようと、「反自由主義」を受け入れる。ポーランドの右派政権は、裁判官の人事権を掌握するための法案を可決した。EUは今後、両国への予算配分を減らすと警告しているものの、EUのルールを順守させるような行動は起こしていない。

 気がかりな点はまだある。(EUへの加盟交渉を進めてきた)トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領のような強大な権力者になろうとしており、EUとの間に(国内の人権状況などを巡って)問題を引き起こしている。エルドアン氏は、19年の予定だが、来年前倒しとなる可能性が高い大統領選で再選を目指す。同氏は欧州への国民の反感をあおることで、国内での人気が高まることを認識している。(トルコからの移民も多い)ドイツなどとの摩擦が深刻化するのは間違いない。

 欧州からの経済的利益などと引き換えに、トルコに大勢の難民をとどめるというエルドアン氏とEUの合意を危険にさらす可能性もある。ただ、この合意はお互いにメリットがあるため、維持されるだろう。維持されなければ、欧州は再び移民危機に直面し、欧州全土でポピュリスト的な怒りが復活するとみられる。

 プーチン大統領の挑発や(19年3月を期限とする)複雑な英国のEU離脱(ブレグジット)の交渉など、問題はとどまるところを知らない。メルケル首相は安定をもたらす存在で、マクロン大統領は自国やEU全体の改革を勢いづけるかもしれないが、EUの首脳が今後も手いっぱいになるのは確実だ。

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。47歳。ツイッター@ianbremmer



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