グローバル・オピニオン 途上国も慢性病対策が急務 イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長 2016/05/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「グローバル・オピニオン 途上国も慢性病対策が急務 イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長」です。





 糖尿病など慢性疾患の拡大は先進国、開発途上国を問わず、人々の生活ひいてはその国の経済全体の脅威となる。しかし、各国政府は迅速で有効な対策をとってはいない。

イアン・ブレマー氏

 米商工会議所が「保健と経済に関する世界イニシアチブ」の一環として発表した最近の報告書は、「非感染性疾患によって失われた生産性は調査対象国平均で国内総生産(GDP)の約6.5%と大きく、ほとんどの国でコストの増加要因となることが予想される」としている。これは、疾患による労働者の欠勤、勤務時間の短縮、早期退職で生産性がどのくらい低下したかを推定したものだ。

 政府や国際公衆衛生機関はジカ熱のような急性の感染症に注目し、資源を集中投入する傾向がある。こうした感染症は人々を不安にし、豊かな国の脅威になり始めればニュースになる。しかし実際には、糖尿病や冠動脈性疾患、高血圧、がんのような生活習慣に関連した慢性疾患の方が国民の健康やその国の経済に深く持続的な影響を及ぼす。しかも、危機にはなっていないうえメディアの関心が低いことから、これらの問題に取り組むことは難しくなっている。世界保健機関(WHO)も近年、大幅に予算を削減している。

 非感染症の増加による政治・経済的影響が最も深刻なのは発展途上国だろう。貧困削減で食事や生活習慣が変化し高齢化が進む中で、先進国のように慢性疾患が問題になるようになる。糖尿病のような疾患がマラリアにとって代わり主要な懸念事項になる。

 医療政策はコストやリスクを伴うことから、政策決定者にとってその変更は政治的に最も危険な分野の一つだ。発展途上国では、医療費の自己負担が食費に次いで高い。医療費によって毎年1億5000万人が貧困に逆戻りしていると推測されている。

 政府は直ちに行動を起こすべきだ。医療インフラの構築には時間がかかる。韓国は、国民皆保険制度の導入で史上最も迅速に成功を収めた国の一つと考えられているが、それでも構築に12年かかった。人々が貧困から脱出し、中間層が拡大し、よりよいサービスに対する国民の期待が高まる中で、医療の安全網構築が遅れた政府は向こう10年間、社会の不安定化のリスクに直面するだろう。

 トルコではエルドアン大統領と与党・公正発展党が、知的に設計され、資金も潤沢な医療制度を確立した。中国政府は長年、医療インフラの改善とより多数によりよい医療を提供することに資源を振り向けることが急務と認識してきた。習近平政権は医療改革に真剣に取り組んでいるが、その前進の大半は医療サービスの適用拡大や慢性疾患の増加への対応ではなく、医薬品へのアクセスと消費者のコスト引き下げにおけるものだ。

 医療の安全網構築の見通しに楽観的になれる理由もある。医師の教育や病院の建設、長期介護施設に十分な投資をしていない政府でさえ、大気や水、衛生の改善には投資をしている。こうした改善はたとえ間接的であっても、公衆衛生を向上させる。しかしこれだけでは、これまで確立してこなかった医療の安全網構築への需要の高まりに追いつくのには十分でない。

 政府が必要に迫られる前に大胆な行動をとることはまれだ。しかし、発展途上国における慢性的な健康問題の急増は、今からやってくることがわかりきっている嵐だ。

 Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。ユーラシア・グループは米調査会社。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。46歳。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です