ゲノム革命(下)高齢化社会の処方箋漏洩・遺伝差別防げるか 2017/8/18 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「ゲノム革命(下)高齢化社会の処方箋漏洩・遺伝差別防げるか」です。





 政府が今月にも閣議決定する第3期がん対策推進基本計画の柱に「ゲノム医療」が盛り込まれた。患者のゲノム(全遺伝情報)を網羅的に調べ、最適な治療を選ぶことが可能になる。

 ゲノムを網羅的に調べて治療法を探る(東京都中央区の国立がん研究センター)

 「がんが小さくなって希望の光が見えてきた」。都内に住む50代の女性は2年前、肺がんと診断されて手術した。その後、脳と副腎に転移が見つかったが、今は大きな支障なく日常生活を送っている。国立がん研究センター中央病院(東京・中央)が進めるゲノム医療のプロジェクトに参加、その治療が功を奏した。

がんに最適治療

 次世代シーケンサーと呼ぶ装置で病巣の組織を調べたところ、特殊な遺伝子の異常が見つかった。異常を標的にがん細胞を攻撃するタイプの抗がん剤を使った結果、がんはほぼ消えた。

 がんは遺伝子の異常で起こる。肺がんでも異常が生じた遺伝子は複数あり、患者によって様々だ。しかし、従来は同じ抗がん剤を使っていた。遺伝子の異常に合わせれば効果が高く副作用も小さい薬を選べる。「究極のオーダーメード医療」といわれ、がん治療を根本から変えると期待が高い。藤原康弘副院長は「誰もが保険で受診できるようにしたい」と意気込む。

 厚生労働省はゲノム医療普及のため、2017年度中に中核病院を7施設ほど指定する。数年後には、都道府県ごとに増やす。

 ゲノムのデータはがん以外の病気の予防にも生かせる。「日本が高齢化社会を乗り切るために欠かせない」と、米シカゴ大学個別化医療センターの中村祐輔・副センター長は訴える。ゲノムを調べると、糖尿病や脳卒中、心疾患のリスクもわかり、生活指導や投薬など様々な形で対処できる。「国の医療費の増加も抑えられる」と強調する。

 ゲノム医療を普及させるには、解析結果や治療法の効果などを集めたデータベースをつくり、病院や製薬会社が活用できる仕組みが欠かせない。薬の開発が進めば、多くの患者が恩恵を受けられる。ただ、病気のリスクなどがわかるゲノムデータは究極の個人情報だ。外部に漏れたり、差別を招いたりしないように体制を整える必要がある。

日本の対応鈍く

 日本では5月、改正個人情報保護法が施行され、新たにゲノムが対象に加わった。漏洩や個人情報の特定が厳しく規制される。東京大学の武藤香織教授は「遺伝的な特徴による差別を禁止する法整備も検討すべきだ」と指摘する。

 武藤教授が代表を務める厚労省の研究班は6月、約1万人を対象に意識調査を発表した。自分や家族の病気に関する遺伝情報で「差別的な扱いを受けた経験がある」と答えた人は3.2%いた。保険の加入や就職、昇進、結婚などで不利な扱いを受けたという。

 欧州連合(EU)は2000年、基本権憲章に遺伝的特徴による差別の禁止を盛り込み、米国では08年に法律が成立した。日本の取り組みは始まったばかり。差別を禁じることで、人々がゲノム解析を安心して受けるようになり、医療の劇的な進歩を後押しする。こうした視点も欠かせない。

 西山彰彦、越川智瑛、遠藤智之が担当しました。



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