サミット閉幕 成長底上げ、見えぬ実効 経済分野、危機感を共有 「財政出動」は玉虫色決着 2016/05/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合3面にある「サミット閉幕 成長底上げ、見えぬ実効 経済分野、危機感を共有 「財政出動」は玉虫色決着」です。





 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言は、世界経済が低成長に陥るリスクに主要7カ国(G7)が共同で対処する姿勢を明記した。議長の安倍晋三首相は自ら強く主張する財政出動に加えて金融緩和、構造改革の「3本の矢」を狙い通り宣言に盛り込んだ。ただ具体的な成長促進策は各国に任され、G7政策協調の実効はみえない。(

 8年ぶりの議長国となる日本はサミットの原点である世界経済を最重点の課題にした。G7の合意を示す首脳宣言には、日本の「ことば」へのこだわりがにじんだ。

 持続可能でバランスのとれた成長達成へ「3本の矢(英語はthree pronged=3方面)のアプローチの役割を再確認する」。首脳宣言はアベノミクスの代名詞を踏襲した。

 安倍首相が主張する財政出動は経済成長や雇用創出への「財政戦略の機動的な実施」という表現でまとめた。慎重なドイツや英国に配慮し、幅広い解釈が可能な「財政戦略」に表現を変えた。

 世界経済への危機感を訴えるのにも腐心した。首相はリーマン・ショック前夜との類似点を説き「対応を誤ると危機に陥りかねない」と説いた。「危機とまでいうのはどうか」という反論は欧州連合(EU)離脱の懸念でリスクを過剰に言いたくないキャメロン英首相から出た。調整の末、宣言には「新たな危機に陥るのを回避する」という一言がはいった。

 中国経済の減速に加え、ブラジルなど他の新興国にも勢いがない世界経済は、力強い支え役を見失いつつある。主要国の中間層にも低成長や雇用難で生活への不満が広がり、ポピュリズムの台頭を許している。

 伊勢志摩サミットに参加した首脳は口々にそうした問題を提起した。厳しい現実に向き合い、世界経済のけん引役として再び成長を高めようとするG7の意志をまとまった形で示したことに一定の意味はある。だが、実際に成長の底上げがもたらされるのかどうかは不明瞭だ。

 力強い言葉が並ぶものの、合意には「国別の状況を考慮する」というただし書きがつく。G7版の「3本の矢」をそれぞれの国がどう実行に移していくかは完全に各国の事情と判断に任される。

 「誰も痛みを感じない合意」。ドイツ紙ウェルトはG7首脳宣言をこう評した。ほとんど対立のなかった経済討議での議論が象徴するように、今回の宣言は総論賛成の項目が格調高く並ぶ政策協調の「決意表明」という性格が濃い。

 サミットに臨んだ各国首脳には消費増税の延期を模索する安倍政権の思惑もみえていた。景気や政策の認識で多少の違和感があっても、議長国の顔を立てる配慮も働いたとみるのが自然だろう。

 政策協調の旗振り役となった日本は、成長の底上げへ各国以上の努力が求められている。

 国際通貨基金(IMF)の4月時点の経済見通しによると、日本の2016年の実質経済成長率は0.5%。米国の2.4%、英国の1.9%、ユーロ圏の1.5%に比べて格段に低い。

 人口の高齢化などで潜在成長率が0%台前半にとどまる日本は、マイナス金利などの金融緩和や一時的な財政刺激だけでは持続的な成長を実現できない。

 アベノミクスの「第3の矢」である構造改革の成果が乏しいという批判は海外にもすっかり定着している。伊勢志摩サミットの合意は、何よりも日本自身が抱える宿題への警鐘ととらえられる。

(編集委員 菅野幹雄)

政治分野、対テロ・難民で合意 対中ロは温度差ぬぐえず

 政治問題は、世界が直面するテロや難民問題に、G7として足並みをそろえて対応していく道筋を敷いた。ウクライナや南シナ海問題では、力による秩序の変更を認めないことも確認した。採択された首脳宣言は、A4サイズで31ページにわたり、具体策を盛った複数の行動計画もまとめた。

 なかでも、詳しい対策を列挙したのが、テロ対策だ。テロの予兆をつかむため、国際刑事警察機構(ICPO)のデータベースを活用することなどを決めた。

 難民対策では、受け入れをふやせるよう、第三国定住制度を広めることを提案。北朝鮮には、核やミサイル実験を「最も強い表現で非難」し、日本人拉致問題への対処も迫った。

 こうした中、焦点になったのがロシアと中国への対応だ。ウクライナのクリミアを編入したロシアへ制裁の継続を確認。南シナ海問題も、名指しを避けつつ中国の行動を批判した。「ロシアが抜けてG8からG7になったことで、結束はさらに強まった」。日本政府関係者はこう語った。ただ舞台裏を探ると、対ロ、対中で溝ものぞいた。

 政治問題がテーマとなった26日の夕食会。安倍晋三首相を含め、多くの首脳がワインや日本酒を口にし、予定より30分遅い夜10時すぎまで語り合った。激論になったのがウクライナ情勢だ。

 停戦を定めたミンスク合意を、ロシアはどこまで順守しているとみるべきか。対ロ制裁を首脳宣言にどう書き込むか――。複数の関係者によると、対ロ強硬派の米国と、ロシアとの協調も探る欧州が、火花を散らした。さらに独仏伊でも、対ロ認識をめぐり厳しい応酬があったという。

 対ロ制裁の文言は夕食会で決着せず、首脳のシェルパ(個人代表)が夜通し調整することになった。「シェルパたちに議論させよう。私たちはベッドに寝られるが、彼らは寝られないだろう」。首脳の一人はこう言い残し、夕食会を後にした。

 一夜明けた27日。ようやくまとまった首脳宣言は、制裁の緩和と強化の双方に言及した足して二で割る玉虫色となった。対ロ制裁を強めるか緩めるかは「ロシアの出方次第」という趣旨だ。

 この溝は、簡単に埋まりそうにない。欧州はウクライナ停戦が進めば、対ロ制裁を緩め、シリア問題でロシアと協力したいのが本音。このままではシリア難民の流入が止まらないからだ。

 北方領土交渉を進めたい日本も、ロシアとの対話に前向きだ。だが、プーチン政権と敵対する米国は「対ロ制裁の緩和どころか、プーチン大統領との対話にも消極的だ」(G7の政府高官)。

 一方、中国への対応では、目立った応酬はみられなかった。安倍首相が「平和的な紛争解決」などの3原則を提起すると、首脳から支持する声が相次いだ。

 だからといって、対中外交で一枚岩というわけではない。中国の軍拡に直接さらされる日米ほどには、欧州の危機感は強くない。日米に引きずられて中国と対立し、対中ビジネスを損ないたくない心理も働く。

 フランスの政府当局者はこう言い切る。「南シナ海問題で『航行の自由』など原則を共同宣言に書くのはいいが、中国を名指しするのは困る」。日本は欧州の空気も踏まえ、首脳宣言で中国を名指ししなかった。テロや難民対策で協力を強めるG7。鬼門は、中ロへの対応にある。

(編集委員 秋田浩之)

一斉の財政出動 必要ない 立正大教授 吉川洋氏

 安倍晋三首相は伊勢志摩サミットで主要7カ国が足並みをそろえて政策対応すべきだと訴えた。だが足元の世界経済はリーマン・ショック前の状況とは異なる。ブラジルやロシアの経済は悪いが局所的な問題で中国経済の不透明感も常にいわれてきた話。世界経済の不確実性が直近で高まっているという証拠はない。

 従ってリーマン危機後に日米欧、中国がそろって実施したような財政出動は必要ない。各国の事情に合わせてというのは自然なことで、日本が実施すれば、財政規律が緩い国と思われるだけだ。

 サミットの間、消費増税の先送りを巡る報道も相次いだが、消費税は社会保障と絡んだ中長期的な課題。予定通り引き上げるべきだ。個人の財布という視点で見れば、増税でお金が出ていくように感じるが、実は消費税で社会保障のサービスを買っているということ。政権はこの仕組みをもっと説明する必要がある。

 消費増税するなら補正予算である程度、財政出動するのは賛成だ。だが増税は先延ばしで補正予算も、というのは理解しがたい。構造改革はサミットとは関係なく、スピード感を持って取り組まなくてはならない。リストアップするだけでなく、とにかく実行を、ということに尽きる。

中国に明確なメッセージ 熊本県立大理事長 五百旗頭真氏

 首脳宣言で特筆すべきは、海洋安全保障分野の合意だ。国際法に基づいて主張することや、力や威圧を用いないことの重要性を再確認できた。

 穏当な表現だが、中国に明確なメッセージを出せた。アジア太平洋の海洋覇権をめぐって中国が破壊的な方向に向かわないよう、日本一国ではやりにくいところでG7の理解を得られた。中国に戦略の再考を求めた形だ。

 中東の安定や復興を支援することで一致したのも大きい。戦禍を被った地域を放置すれば、テロの温床をつくりかねない。世界経済に関しては財政戦略を機動的に実施し、構造改革を強化する方針で一致した。今後、細目を詰めて実行できるかが問われる。

 G7の存在感は低下しているといわれてきたが、最近はG20に世界の秩序を積極的に支える志を多くは望めないことも分かってきた。G7こそが世界の秩序をケアできるという姿を安倍晋三首相が演じたのは、サミット自体の再評価につながる。

 これまでの日本開催と比べて非常によくやったと評価できる。首相が長期政権を担っている強みを発揮し、オバマ米大統領との関係を構築し、他のメンバーとも親しい関係をつくる努力をした。サミットに先立つ欧州歴訪など入念に準備したのも大きかった。

仏大統領 可能なら財政政策 独首相 政策総動員は重要

 伊勢志摩サミットに参加した英国やフランスなどの主要国首脳は27日までに、それぞれ記者会見した。発言からは、世界経済の現状認識や底上げに向けた取り組みなどを巡る各国の温度差が改めて浮かび上がった。

 27日のサミット閉幕後に記者会見したフランスのオランド大統領は世界経済について「(リーマン危機以降の一連の)危機の影響が残っている」との見方を示した。そのうえで「安倍晋三首相が言ったとおり、財政に一定の柔軟性が必要だ」と述べた。「世界経済を成長させるため、可能な場合は財政政策に頼る」とも言及。ドイツなどを念頭に、余裕のある国には積極的に財政支出を増やしてほしいとの期待をにじませた。

 これに対しドイツのメルケル首相はサミット初日の26日夜、記者団に「世界経済は安定成長している」と評価。底上げ策について「賛同したのは『共同でやれることを総動員することが重要だ』という考え方」と指摘し、財政政策だけでなく金融政策や構造改革も含めた政策で対応すべきだという点を強調した。カナダのトルドー首相も記者会見で「財政・金融政策、構造改革のすべてが大切だ」と述べた。

 首脳宣言には世界経済の下振れリスクとして、英国の欧州連合(EU)離脱が最終的に盛り込まれた。キャメロン英首相はオバマ米大統領や安倍首相とリスクを共有したことを明らかにしたうえで「離脱すれば英国だけでなく、世界経済に影響を与える」として、EU残留の必要性を改めて訴えた。

中国「強烈な不満」 G7首脳宣言受け

 【北京=山田周平】中国外務省の華春瑩副報道局長は27日の記者会見で、伊勢志摩サミットが首脳宣言で南シナ海、東シナ海の状況に懸念を表明したことについて「(議長国の)日本と主要7カ国(G7)のやり方に強烈な不満を表明する」と語った。「南シナ海の問題をあおり立て、緊張を誇張し、情勢の安定につながらない」と非難した。

 華氏は「サミットは世界経済を討論する場であり、国際社会が関心を持つ経済と発展の問題に集中すべきだ」と主張した。



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