スタートアップ新時代(上)2度の「創業」支える体制を 2018/07/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「スタートアップ新時代(上)2度の「創業」支える体制を」です。





人口減少や少子高齢化は、ほぼ確実に生じる日本の未来である。人口減少は開業の減少、少子高齢化は廃業の増加をさらにもたらす可能性が極めて高い。それは日本創生・地方創生のためのイノベーション(革新)を実現する推進企業を失うことを意味する。

企業のライフサイクルは、図に示すように、一般的には創業期、成長期、成熟期、衰退期というステージを経る。新たに事業を立ち上げたスタートアップ企業は、創業期に直面するヒト・モノ・カネに関連する様々な課題を克服できずに、成長期に移行することなく多くが姿を消す。

運良く成長期へと進めた企業も、成長期が長期にわたって持続することは難しく、いずれ成熟期に入り、衰退期へと移行する。その一方で、何代にもわたって持続的な成長を実現している企業は、成熟期から衰退期に至る局面を、新事業の創造によって第2創業期、第2成長期へと導くことに成功している。

企業のライフサイクルにおいて、売り上げがまだたっておらず、利益も上がらず、キャッシュフロー(現金収支)としてはしばらく大幅なマイナスの時期が続くことが想定される創業段階においては、多くのスタートアップ企業が資金調達面でも深刻な危機に直面することになる。

しかし、あらゆる成長ステージに対応可能な、万能な資金提供者はいない。成長ステージごとに企業が抱える主たるリスクの性格は異なり、必要とする資金調達額も大きく異なる。資金提供者側においても、リスクへの対応可能性は各提供者によって違う。したがって、企業の成長ステージ別に資金提供者の役割分担体制をとることになる。

本稿でまず主張したいことは、創業期のスタートアップ企業を支援し成長期へとつなぐために、シード・アクセラレーター(事業創造の支援機関・プログラム)の役割が極めて重要ということである。米国で500スタートアップスやYコンビネーターなどのシード・アクセラレーターが注目を集めているのも、その重要性を裏付けている。

スタートアップ企業は事業成長を実現するためのヒト・モノ・カネの戦略構築をする必要があるが、創業期は数名の創業メンバーと、彼ら自身が拠出したわずかな内部資金を元に活動するのが一般的である。どの顧客を対象にどういった製品・サービスを提供するのかというモノの設計のサポートが、創業期におけるシード・アクセラレーターの重要な役割となる。そこが固まれば、財務戦略を設計し、成長期を支援する次のプレーヤーにバトンタッチする。

その際、リスクは高いが高い成長が期待できそうであればベンチャーキャピタル(VC)へつなぎ、堅実なキャッシュを生む事業となりそうであれば銀行につなぐサポートがそれぞれ必要である。VCや銀行に万能な役割を期待してもだめである。彼らは創業期でメーンのプレーヤーになることは難しい。

VCは多額の資金調達が必要な成長期には重要な役割を果たすが、事業としての成功可能性が極めて不確実で、必要資金額も小さい創業期には重要な役割を果たすことはできないし、関心も示さない。とりわけ科学技術ベースの事業への創業期の資金提供は、不確実性の高さから円滑な資金提供が難しく、今なお多くの課題を抱えている。

歴史的には、VCの投資を補完する役割として期待されたのがビジネス・エンゼル(エンゼル投資家)である。ビジネス・エンゼルは、創業期のスタートアップ企業にとっては、(1)小口資金の調達が可能(2)起業家の経験を基に経営に深く関与するハンズオン支援(3)投資決定基準が緩やか(4)長期的視点からの投資(5)機動的な資金調達が可能(6)金融中心地だけでなくあらゆる地域に存在――といった多くのメリットを持つ、まさしく「天使」として注目された。

その一方で、ビジネス・エンゼルはあくまで個人としての活動であるため、ビジネス・エンゼルのシンジケーションを組織して、まさに組織的な対応を可能にする試みなどの進展が見られた。シード・アクセラレーターの登場も、ビジネス・エンゼルの資金提供者としての役割やメンター(指導者)としての役割を個人の枠を超えて組織化し、多様なメンバーを巻き込むことによって、起業家が必要とする様々な支援に対応するべく進化した組織といえる。

日本では、成長期の支援を担うメーンプレーヤーであるVCや銀行につなぐ前段階が問題である。創業期はアントレプレナー個人や、家族や友人の資金をかき集めてというのは世界共通である。欧米で重要な役割を担ってきたビジネス・エンゼルは、もちろん日本でも期待されるが、一定の層が形成されるには時間がかかる。シード・アクセラレーターが創業期における支援の主役を担うべきである。

本稿において主張したいもう1点は、成熟期にある既存の零細・中小企業(多くはファミリービジネス)を衰退期ではなく、再度の成長期へと導く役割においても、シード・アクセラレーターが重要ということである。シード・アクセラレーターの役割を創業期に限定するのではなく、成熟期にも期待されていることを認識すべきである。

企業のライフサイクルとして、いずれ成熟期、衰退期を迎える。持続可能な事業を常に創造していかなければ、企業は存続できない。しかし、既存の零細・中小企業のもうける力は急速に低下している。資産全体を使って本業でどの程度効率的に利益を上げているかを示す総資本営業利益率を見ると、1961年度においては、中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)は8.1%であった。しかし、2016年度では3.2%にすぎない。零細企業(同1千万円未満)はわずか1.3%である。ビジネスモデル自身を持続的なものに再編成することが急務である。

ビジネスモデルの再編成には、まずは現在提供している製品・サービスを厳しい目で再評価することが不可欠である。現状のままで顧客は自社の製品・サービスに満足してくれるのかという厳しい判定である。このプロセスを経ないと、歴史がある企業ほど、新たな視点での事業創造への挑戦は難しい。

若い後継者候補はアイデアを持っていたとしても、そこに踏み込むには勇気がいる。シード・アクセラレーターの役割がここにある。さらに、コーポレートガバナンス(企業統治)とファミリーガバナンスの両者を両立させながら遂行する必要がある点が、創業期の支援とは異なる。

零細・中小企業がこうした「ベンチャー型事業承継」を実践するのは簡単なことではない。持続可能な戦略が描けず悩む経営者も多い。戦略のイメージは描けても、それを実践するとなると社内のリソース(資源)では不十分で、一歩前に踏み出せずに悩んでいる経営者も多い。経営者とともに将来の戦略を描き、可能性のあるシーズ(事業の種)を事業創造の実践へと加速させることをサポートするシード・アクセラレーターの役割が重要である。

最後に、日本創生・地方創生の実現のためには、スタートアップ企業と既存の零細・中小企業という両輪が機能する必要がある。そのためには、創業支援と第2創業支援の両者において、シード・アクセラレーターの役割強化が期待される。

〈ポイント〉○企業の成長ステージ別に支援を役割分担○創業期の支援でアクセラレーターに注目○成熟期の企業を再成長に導く役目も重要

〈ポイント〉

くつな・けんじ 64年生まれ。大阪市大博士(商学)。専門はアントレプレナーファイナンス

くつな・けんじ



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