タイもがく中進国(下)「聖域」の農業、改革遅れ優遇のツケ 競 争力低下 2016/12/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際面にある「タイもがく中進国(下)「聖域」の農業、改革遅れ優遇のツケ 競争力低下」です。





 2015年の1人あたり国内総生産(GDP)が10万3千ドル(約1200万円)と世界1位のルクセンブルク。高級スーパー店頭に最近、タイ産のコメがお目見えした。

EU認証を得た有機米の生産農家グルナティーさん(ナコンパトム県)

付加価値を模索

 生産地は中部のナコンパトム県。無農薬で化学肥料も使わない有機栽培だ。通常のコメに比べ単位収量は半分だが、10倍の価格で売れる。生産者のグルナティーさん(44)は「農家自ら工夫し付加価値を高めなければ生き残れない」と話す。

 欧州連合(EU)の厳しい有機の認証を持つ農家や農業法人はタイで約60だけ。グルナティーさん一家はその一つで、輸出までに10年かかった。

 ブランド化だけが農業の高度化ではない。クボタは東北部のコメ農家約100軒に4年前、機械化や肥料の使い方の稲作指導を始めた。種もみをまくだけの水田に比べ収量は最大4割上がった。

 「世界の台所」を標榜するタイは農業大国だ。コメ以外に天然ゴム、サトウキビ、キャッサバなどが世界有数の生産・輸出量を誇るが、国際競争力には陰りがみえる。

 30年以上も輸出で世界首位だったコメは12年にインドとベトナムに抜かれ3位に転落した。天然ゴム輸出は首位を保つが価格は3年前の半分だ。主因は生産性の低さ。農業部門は就業人口の4割を占めるのに、GDPは1割で、効率性はインドやベトナムを下回る。

 それは農民の「民意」が政治に反映されるようになった代償でもある。

 都市のエリート層が政治を主導してきたタイで01年に政権を奪ったタクシン元首相は農村を手厚く支援し、人気を不動にした。タクシン派はその後も選挙で連戦連勝。保守層との政治対立の火種になると同時に、大票田への配慮から農業分野は痛みを伴う改革ができない「聖域」と化した。

 そのツケが噴出したのが、妹のインラック前首相が11年に導入したコメ担保融資政策だ。市場価格より5割高で政府が事実上買い上げたため価格高騰と品質低下を招き、輸出競争力を損ねた。

 14年のクーデターを受けて軍主導で発足したプラユット暫定政権は、前政権のバラマキ政策を批判した。ところが今年、高級米が過去10年の最安値に沈むと、政府の無策に怒った農民が大規模な抗議活動を宣言。政権は慌てて500億バーツ(約1600億円)規模の無利子融資を決めた。コメが担保だが、結果的に実勢より2割高程度で買い上げることになりそう。前政権とは五十歩百歩だ。

労働力が逆流

 農民優遇は思わぬ副作用を生んだ。タイ中央銀行によると1990年代から漸減してきた農業就業人口は12年、前年に比べ4%、55万人増えた。コメ買い上げ政策の影響だ。桃山学院大学の江川暁夫准教授は「農村へのバラマキが都市製造業への労働力移転を停滞させタイの産業競争力の向上を阻害した」とみる。

 プラユット首相は11月に「スマートファーマー計画」を発表。農民1人あたり所得を20年以内に6倍の年39万バーツに引き上げると宣言した。零細農家を集約して規模を拡大しつつ、より高く売れる商品作物へ転作を促すが減反政策のような痛みを伴う改革は及び腰だ。

 言論統制のような強権ぶりが目立つ軍事政権も農村の民意は無視できない。だがタイが中進国の罠(わな)から抜け出すには、非効率な農業の革新は避けては通れない。

 (バンコク=京塚環)



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