トランプの米国 身構える世界(3) 過信の代償、計り知 れず編集委員 菅野幹雄 2017/1/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「トランプの米国 身構える世界(3) 過信の代償、計り知れず編集委員 菅野幹雄」です。





 「米国第一」を絶対視するトランプ大統領の就任と並行して、世界経済の秩序の揺らぎを示す場面が先週、相次いだ。

 「職、国境、富と夢を取り戻す」と20日の就任演説で約束したトランプ大統領。直前の欧州メディアとの会見で欧州連合(EU)単一市場からの撤退に動いたメイ英首相を称賛した。

 米英ともに2国間の自由貿易協定(FTA)に意欲を示す。EU離脱に反対するオバマ前大統領は英に「(交渉は)列の最後になる」と警告したが、メイ氏は「トランプ氏は前線にいると言っている」と言明した。

 17日の世界経済フォーラム(ダボス会議)で自由貿易の大切さを得々と説いたのは中国の習近平国家主席だ。民主主義と自由市場の先陣である米英が自国優先にかじを切り、非民主主義の中国がグローバル化の盟主を気取る。倒錯した構図だ。

 世界は新大統領の3つの「不」に身構える。

 まず「不寛容」だ。貿易収支の赤字を容認せず、中国、メキシコ、日本を名指しでけん制したトランプ氏。高率の関税や企業への脅迫で投資や雇用を向けさせ、米製品を買わせる姿勢をとる。

 保護主義の行使を辞さない大統領への懸念は欧州にも広がる。「今後、多額の対米黒字を稼ぐドイツ経済が悪者にされるかもしれない」と独Ifo経済研究所のフュスト所長は指摘する。

 第2は「不連続」だ。就任初日からオバマケア(医療保険制度改革法)と環太平洋経済連携協定(TPP)を排除したトランプ氏は既存政権の遺産を破壊することにむしろ活路を求めている。

 一方的な関税引き上げや輸入制限は世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する。だが、まさに多国間の枠組みが米国民の雇用や富を奪ったとみるトランプ氏は、米国が主体的に関わってきた既存のルールや機関の否定に走るかもしれない。

 結果として生じる第3の懸念は「不透明感」。積極財政策などへの期待でトランプ相場に酔った金融市場は、保護主義に伴う負の効果にも目配りが必要になった。

 コストや品質を最適にする原材料や部品の供給網が寸断される恐れがある以上、企業も投資戦略を立てられない。

 米国が輸入制限に動けば、相手国も報復に出るだろう。経済協力開発機構(OECD)の試算では関税など貿易のコストが10%上がると米国の輸出は15%近く減る。中国や欧州より打撃は大きい。

 保護主義のもとで米国が繁栄を謳歌できるという「過信」の上に成り立つトランプ流。内向きの政策がまん延すれば世界経済は縮小均衡に陥り、打撃は計り知れない。

 「日本にはトランプ氏に対抗できる交渉カードが必須。それは総合的な国力、成長力だ」(行天豊雄元財務官)。米国発の迷走を止める責務は日本にも重くのしかかる。



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