トランプの米国 身構える世界(5) 「安倍1強」生まれ た死角 編集委員 大石格 2017/1/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「トランプの米国 身構える世界(5) 「安倍1強」生まれた死角 編集委員 大石格」です。





 「ブッシュホン」をご記憶だろうか。自民党内の基盤が弱かった海部俊樹首相が、当時の米大統領との距離の近さを売り物にして政権運営していたさまを、ふたりの頻繁な電話に引っかけて本紙が生み出した造語だ。1990年の新語・流行語大賞で銀賞に輝いた。

 対米追従と皮肉られることもあるが、日米の首脳が親密であるほど安心感を覚える日本人が多いのは間違いない。

 93年に来日したクリントン大統領はレセプションに改革派を標榜していた野党党首を招いた。直後の衆院選で自民党は大敗し、結党38年目にして下野を余儀なくされた。

 その選挙で初当選したのが安倍晋三首相だ。昨年11月、就任前のトランプ大統領に会いに急きょニューヨークに飛んだ。「実があるなら今月今宵(こよい) 一夜明ければ誰もくる」と詠んだ長州の先人、高杉晋作が念頭にあったろうか。

 残念ながら首相のそうした“誠意”は型破り大統領にあまり通じていないようだ。首相周辺は外務省に「主要国で最も早い首脳会談を設定せよ」とねじを巻いたが、狙っていた27日の会談は実現しなかった。就任後の電話もイスラエルなどに先を越された。

 「トランプ大統領が信頼できる指導者だ、との考えは変わらない」。首相は国会で力説した。トランプ氏が環太平洋経済連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名したのはその半日後。政府はTPPによって国内総生産(GDP)が3.2兆円押し上げられるとしてきた。その消滅はアベノミクスには打撃である。

 昨年の参院選で与党が振るわなかった東北地方選出のある自民党議員は「日米自由貿易協定(FTA)交渉をすることになれば、選挙への影響はTPPの比ではない」と心配する。損得勘定が見えにくい多国間交渉と異なり、農業分野で押し込まれるとみるからだ。

 さりとて、自由貿易の旗手を自任してきた首相が、「2国間交渉はしない」とはいえまい。日本は安全保障を米軍に依存している負い目もある。

 次期駐日大使に就くウィリアム・ハガーティー氏はもともとはライバル候補を支持していた。交渉能力の高さを評価されてトランプ陣営に加わったのは昨年夏だ。

 駐日大使にはいろいろなタイプがあるが、テクノクラート型の場合、成果をあげようとしゃかりきになりがちだ。「ミスター・ガイアツ」と呼ばれたマイケル・アマコスト氏がそうだった。

 市場重視型個別協議(MOSS)、構造協議(SII)、枠組み協議……。80~90年代、日米は激しい貿易摩擦を経験した。あの重苦しい日々が戻ってくるのだろうか。

 いま与党にも野党にも首相を脅かす政治勢力は見当たらない。そこに外からもたらされた想定外の死角。安倍政権の進む先に激動が待っている。(おわり)



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