トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏 2017/10/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「トランプ政権と米の針路(創論)アド・マチダ氏/エミリー・サスマン氏」です。





TPP離脱やNAFTA再交渉などの経済政策には、国内からも異論が噴出している=ロイター

 トランプ米大統領が11月5日の来日を手始めにアジアを初めて歴訪する。「米国第一」を掲げ、大統領選に勝って1年。今年1月の就任後は、保護主義的な経済政策や北朝鮮、イランとの対決的姿勢で世界を揺るがせ、不規則発言が波紋を広げる。型破りな大統領は米国をどこへ導こうとしているのか。政権移行チームを担った共和党のアド・マチダ氏と、民主党系シンクタンクのエミリー・サスマン氏に聞いた。

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■来年夏には安定軌道に 元政権移行チーム 政策立案責任者 アド・マチダ氏

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 ――政権発足後、フリン補佐官(国家安全保障担当)、プリーバス首席補佐官、バノン首席戦略官とホワイトハウスの中枢幹部が相次ぎ辞任する異例の事態になりました。

 「新政権ができると、選挙戦スタッフの労に報いるためホワイトハウスに登用する。ただ、選挙戦の心理状態のまま、急に政権を管理する仕事は難しい。選挙戦は混乱した状況のなかで、それぞれが主体的に仕事をしてきた。それに適応した人が、管理をする側で仕事をしなければならないのは、退屈で苦しい」

 「ホワイトハウスのスタッフは本来、大統領が就任した年の8月から10月にかけて辞め、新しい顔ぶれが10月から翌年春にかけて入ってくる。これはホワイトハウスで働いた経験がある人たちが主だ。トランプ政権も来年の夏頃には安定してくるだろう」

 ――トランプ氏の長女イバンカ氏とその夫クシュナー氏が補佐官や上級顧問として政権入りしました。2人に対する周囲の遠慮が混乱の要因になったと指摘されます。

 「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」

 「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

 ――外交では北朝鮮の核開発問題で、トランプ政権は過度な中国頼みという、過去の政権の失敗の轍(てつ)を踏んでいるようにみえます。

 「北朝鮮は核開発で18カ月以内に何らかの成果を出すのではないか、と指摘されている。その段階になって話し合うのでは遅い。米国が自ら動くのであれば、中国は(協力して)対応するか、批判するかの二者択一しかない」

 ――経済制裁の効果が出なかった場合、次のステップは何でしょうか。

 「それはかなり難しい。日米韓はどう出るべきで、中国やロシアに何を求めるのか。トランプ氏はオバマ前政権がレッドライン(許容できない一線)を設けたことを批判している。(相手に手の内を示すのは)戦略的におかしく、意味がない。現政権はレッドラインを公表したりしない」

 ――経済政策では、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなどの公約実行が物議を醸しています。

 「評価していい。減点部分を挙げるなら医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止がうまくいかなかったことだ。廃止で浮く費用を税制改革の財源に充てるつもりだった」

 ――法人税は20%へ引き下げる方針を打ち出しました。

 「重要なのは連邦税の減税だ。選挙戦時に考えていたのは法人税の35%から15%への引き下げだった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は20%強。米国の場合は州税が加わるので、企業が支払う税を国際標準にするには連邦税を15%程度にする必要があった。その数字をもとに議会と調整したのだろう」

 ――トランプ氏は中西部などの製造業の白人労働者を念頭に、米国に雇用を取り戻すと約束しました。自動化で工場における単純労働が減る時代に逆行していませんか。

 「『仕事は創ります。でもあなた方が待つ炭坑作業はもう戻りませんよ』というメッセージを伝えなければいけない。米国も今やサービス産業が主流だ。アメリカンドリームを追うのなら、仕事がある場所へ移らないといけない」

 「トランプ氏の仕事は(労働者の)意識改革を主導することだ。大統領が国民に広く語りかける手段は、昔はラジオ放送だった。今は集会での演説とツイッターであり、トランプ氏は効果的に国民へ訴えかけている」

(聞き手は政治部次長 吉野直也)

 Ado Machida トランプ政権への移行チームで政策立案の総責任者を務めた。3月からコンサルティング会社を共同経営。53歳。

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■不信感が政治参加促す アメリカ進歩センター キャンペーンディレクター エミリー・サスマン氏

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 ――トランプ大統領の政権運営をどうみていますか。

 「成果は極めて乏しい。共和党は上下両院の多数派で、大統領は何でもできる可能性がある。だが彼は統治能力の欠如をさらけだし、いつも自ら危機を作り出している」

 ――政権運営を家族や元軍人に頼っています。

 「有権者が彼に票を投じた理由の一つは、優れたビジネスマンであり、素晴らしく能力のある人たちを政権に引き込むと信じたからだ。ところが取り巻きに置いたり、閣僚に選んだりしたのは、行政府のなんたるかを理解せず、本来の使命とまったく逆のことを信じている人たちだ。例えば環境保護局(EPA)のプルイット長官は環境保護の重要性を全く信じていない」

 「政権から次々にスタッフが去っているのは、彼の気質によるところが大きい。彼は中身の真偽はともかく、自分にとっていいことをいう人間が好きだ。耳を傾けるのは自らが信用する人間だけ。彼が聞きたくないことを報告するには、称賛も交えなければいけない。大統領と率直に話せないのは憂慮すべきことだ」

 ――トランプ氏が攻撃的な言動を繰り返す対北朝鮮政策では、オバマ前大統領にも「問題を放置した」との批判があります。

 「北朝鮮との対立をエスカレートさせている理由の一つに、戦時は大統領が高い支持率を得やすいことがある。トランプ氏はより多くの支持を得るために我々を戦争に導こうとしている。ある調査によると、米国民の72%が米国は今後4年以内に戦争するかもしれないという懸念を抱いている。それに対してオバマ氏の言動は適切だった」

 「トランプ氏はオバマ氏のレガシー(政治的遺産)を否定したいだけの理由で、イランとの核合意も認めない。多くの政権高官は合意から離脱すべきではないと主張している。彼はオバマ氏のレガシーを否定できるなら、いつもその道を選ぶ。(地球温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定からの離脱もそうだ。合意順守を主張したマティス国防長官やティラーソン国務長官も大統領への影響力を持たない。意思決定でトランプ氏は圧倒的に強い権限がある」

 ――保険料高騰の問題を抱えるオバマケアの見直しを訴えるトランプ氏に、民主党は協力すべきではないですか。

 「民主党は見直しの余地があることは認識してきたが、廃止議論なら協力はしない」

 ――トランプ氏に流れた白人労働者の支持を、民主党はどう取り戻すつもりですか。

 「白人の単純労働者たちの仕事は、特に製造業の自動化や海外移転で消えつつある。民主党はこの問題への対応を現実的に議論しようとしている。労働者を再訓練し、給料を支払い、米国が向かう経済に沿うようにするプログラムを考えることだ。(トランプ氏が訴える雇用創出のような)10年前と変わらない経済の話をするのはたくさんだ」

 「彼らはトランプ氏が自分たちを理解し、助けてくれるかのように感じた。本当は何の提案もないし、彼がやろうとしていることは暮らしをより困難にしている。だから多くの人たちは、彼が自分たちのための政治をしていないと気づき始めるだろう」

 ――来年は中間選挙があります。トランプ氏への評価はどうなっているでしょうか。

 「彼に行動が伴っていないと感じた支持者は、失望することになるだろう。大統領選まで中立的だったり、受動的だったりした多くの人たちは自ら行動するようになっている。現政権に国のかじ取りを任せられないと考えているからだ。『トランプが大統領になれるのなら、自分もどこかの市長になれる』と考え、政治的な経験がなくても公職に意欲を持つ例が増えている」

 ――次期大統領選で再選を狙うトランプ氏への対抗馬が民主党には見当たりません。

 「まだ時間がある。昨年の大統領選で候補指名をヒラリー・クリントン元国務長官と争ったサンダース氏は党内の極端な左派を代表する。トランプ氏の主張が過激だから少し穏健な政策を訴える人物に人気が集まる可能性もある」

(聞き手はワシントン=永沢毅)

 Emily Tisch Sussman 米民主党の全国青年組織で事務局長を務め、12年大統領選で若者の政治参加に貢献。35歳。

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■<聞き手から>混迷の「出口」 いまだ見えず

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 マチダ、サスマン両氏とも言い方は違うが、トランプ政権がいまだに混乱していると指摘した。その遠因が家族の重用などトランプ氏の統治方法であるとの認識もほぼ一致している。このドタバタが支持率低迷の背景にあるのは言うまでもない。

 サスマン氏は大統領が戦時に高い支持率を得やすい特性を挙げ、現在の北朝鮮との緊迫を説明した。湾岸戦争におけるブッシュ(父)、米同時テロ後にアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に踏みきったブッシュ(子)両大統領の支持率が90%に達したのを思い出せば、理解できるだろう。トランプ氏支持層の中核である白人労働者を念頭に置いた雇用創出も、単純労働の増加を意味するならば画餅に近い。この点もマチダ、サスマン両氏の見解は同じだ。

 その現実に気付いても、支持層はトランプ氏から離れないのか。トランプ氏が戦争の誘惑に駆られる要因は国内でも増えている。マチダ氏は「トランプ政権も来年の夏ごろには安定してくるだろう」と楽観的な見通しを示したが、混迷の「出口」はまだみえない。

(吉野直也)



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