トランプ氏、貿易戦争招く 2018/07/12 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「トランプ氏、貿易戦争招く」です。





今、世界一の大国を率いているのは危険な無学者だ。その場合、各国はどう対応すべきなのか。世界をカオスにしたのがトランプ米大統領だけに、この問いに答えを見つけるのは難しい。トランプ氏やトランプ政権が何を望んでいるのか誰にも分からないため、交渉するのが極めて難しい。とてもまともな状況ではない。

米政権が貿易に関して発動した措置や発表内容は重要だが、それらはトランプ政権がいかに無能かをさらけ出してもいる。米国は既に太陽光パネルや洗濯機、鉄鋼、アルミニウムに追加関税を課している。これに米通商法301条に基づき6日に発動した中国への制裁措置第1弾とこれから発動する第2弾等を合わせると、米国の総輸入額の約7%が追加関税の対象となる。

こうした措置が報復合戦に発展すれば、米政権はさらに中国からの輸入品4000億ドル(約44兆円)に、そして各国から輸入している自動車や車部品2750億ドルにも追加関税を課す可能性がある(編集注、米政権は10日、中国からの輸入品2000億ドル分に10%の追加関税を課す追加措置を発表した)。その場合、対象となる輸入品は約8000億ドルに達し、これは米国の年間輸入総額の約3分の1に相当する。そのため米国の動きは早くも報復の応酬を招きつつある。

トランプ政権は、鉄鋼・アルミに追加関税を課した際、国家安全保障を根拠にこの措置を正当化した。輸入車についても同じ理屈で5月に調査を始めた。世界貿易機関(WTO)が、安全保障を理由とした輸入制限を例外措置として認めることに厳しい制限を設けているのは、まさにこうした乱用を懸念してのことだ。WTOが例外として認めているのは、「核分裂性物質」や「戦争に使う武器、弾薬および軍需品の取引ならびに、軍事施設に供給する目的で直接または間接に行われるその他の製品および原料の取引」のほか、「戦時その他の国際的緊急時」に関わる措置といったものだ。

鉄鋼・アルミへの追加関税もそうだが、安全保障を理由に自動車の関税まで引き上げるのは明確なWTOルール違反だ。そもそもカナダが脅威だというなら、脅威でない国などあるのだろうか。車が安全保障上の懸念なら、懸念のない品目などあるだろうか。「保護主義は素晴らしい繁栄と強さにつながる」と、トランプ氏は大統領就任演説で語った。残念ながら、彼は本気でそう考えていたということだ。

(画像:イラスト James Ferguson/Financial Times)

中国に対し301条を根拠に関税を課すのは、さらに理解しがたい。その狙いは、中国の対米貿易黒字の削減、あるいは中国のハイテク産業育成策「中国製造2025」の阻止、あるいは強制的な技術移転の阻止のようにもとれる。だが、中国に貿易赤字削減を求めるのはばかげているし、次の産業育成策阻止は交渉できる類いのものではない。最後の強制的技術移転阻止は道理にかなった要求だが、達成は難しい。

こうした現状は信じがたいが、さらに信じがたいのが米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長が、トランプ氏を自由貿易主義者と評し、本当は関税撤廃を目指しているという趣旨の発言をしたことだ。トランプ氏が実際にしているのは、2歳児のように明確な目的もないまま既存の仕組みを壊しているだけだ。中国と関係を修正したければ、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したり、同盟国を批判したりしないはずだ。各国と力強く連携し、中国に立ち向かったはずだ。だが現実には、あらゆる相手とけんかを始めてしまった。

保護主義策は広がりやすい。保護の対象となる製品を利用する人々がそうした政策を求めるし、対象外の産業も保護を求めるようになるからだ。また、保護主義により締め出されると、その輸出先が他国へと移っていくからだ。例えば中国から米国に輸出されていたモノが欧州連合(EU)市場に出回るようになると、今度はEUが自国製品を輸入品から守る必要を感じるようになるかもしれない。

ならば我々は一体、どこに行き着くのか。貿易に詳しい世界的経済学者ポール・クルーグマン氏は、全面的な貿易戦争になれば、世界貿易の規模は70%縮小する(金額ベース)可能性があると指摘している。

だが、驚くべきことに、世界総生産の落ち込みは3%内に収まるかもしれないという。ただこの数字は「応用一般均衡分析」モデルを前提としており、世界経済の仕組みが変化していくのに伴う混乱や不確実性を排除している。国際競争の低下により、経済の力強さが失われることも考慮していない。さらに、保護主義的な貿易戦争となれば各国が互いに嫌悪感を抱くようになり、国際協調など不可能になるはずだが、こうした要因も分析対象に入っていない。

それでもトランプ氏は「貿易戦争は良いことで、勝つのは簡単」と主張してきた。貿易赤字国が貿易戦争に「勝てる」との主張には一理ある。最終的には輸入額の少ない方が報復合戦で先に打つ手がなくなるからだ。

だが報復が投資など、貿易以外の分野に及ぶ可能性もある。こうした相手国からの報復措置や、関税引き上げが為替レートに及ぼす影響を考慮すると、巨額の貿易赤字を抱える国でも、貿易戦争が国内総生産(GDP)を押し上げる効果は極めて小さい可能性が高い。ほぼ完全雇用状態の国で貿易赤字を縮小するには景気後退が効果的なことは、経済学者なら誰でも知っている。それは恐らく米国の目標ではないが、米政権の様々な政策がもたらす不確定要素により景気後退に陥る可能性はある。

最大の問題は、トランプ政権が繰り出す攻撃的な措置に世界各国はどう対応すべきかという点だ。トランプ氏は対立を好む。報復措置に、普通の人と同じようには反撃しないかもしれない。報復関税の応酬で保護主義色が強まることを歓迎すらしかねない。

その半面、報復だけがトランプ氏の路線を変えることができるかもしれない。もっと言えば、あちこちで米国との貿易戦争の気配がさらに高まることが米経済界に衝撃を与え、何か効果的な動きにつながるかもしれない。ただその場合、どの時点で報復の連鎖を止めるか難しい判断を迫られることになる。

筆者なら報復する。それは報復に効果があるからではなく、報復しないと弱く見えてしまうからだ。米以外の国々は、互いの協力関係も強めるべきだ。しかし高所得国が打てる最も大胆な策は、リスクを伴うが、トランプ氏が提案する関税ゼロの貿易をすることだ。まずは彼の脅しを受けて立てばいいではないか。そんな世界もあるのかもしれない。

(7月11日)

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