ドルむしばむトランプ氏米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授ベンジ ャミン・コーヘン氏 2017/8/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「ドルむしばむトランプ氏米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授ベンジャミン・コーヘン氏」です。





 米国のドルは1世紀近くにわたり、究極の安全な通貨とみなされてきた。米ドルほど蓄積された富の安全と流動性を約束する通貨はほかになかった。いままでは問題が生じると、臆病な投資家や慎重な中央銀行はいずれもドル建て資産、とりわけ米国債に資金を移してきた。しかしもはや、そうはならないかもしれない。

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 トランプ政権の混乱で、米ドルに対する信頼は大幅に損なわれた。トランプ大統領は本人が百数十万人と主張する、存在しない群衆の前で就任して以来、オーストラリアやドイツのような同盟国を含む各国の政府にけんかを売ってきた。最近では、北朝鮮の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と対峙し、世界を核戦争の危機にさらしている。

 米ドルは深刻な試練に直面しようとしている。世界の投資家は、指導者が「炎と怒り」という表現を使い、内向きの北朝鮮を威嚇・挑発する国に資金を流入させるだろうか。それとも、ほかの場所に資金を避難させるだろうか。

 第2次大戦以降、ドルの安全性が今ほど疑問視されたことはない。戦後、桁外れに大きく発達した米国の金融市場が比類のない流動性を約束してきた。米国は軍事大国だったため、地政学的な安全保障も確保できた。金融システムがグローバル化する中、安全で柔軟な投資先を提供するのに米国ほどふさわしい国はなかった。

 2007年の米住宅バブル崩壊が良い例だ。米国発の金融危機と景気後退が、世界経済を破綻寸前に追い込んだことは誰もが知っていた。それでも米国市場に資金が流入し、米連邦準備理事会(FRB)と財務省は対応策をとることが可能になった。ドルは下落するどころか強含み、米国債の市場は円滑な運営の続く際立った存在だった。

 10年前のドル需要の高まりの大半は、純粋な恐れのせいだということもできる。だれ一人として、事態がどのくらい悪化するかわからなかった。同じことが今の米国と北朝鮮の応酬についてもいえる。歴史は繰り返され、投資家はドルに群がるのだろうか。

 それは、あてにしないほうがいいだろう。市場は何カ月も前から、トランプ氏に対する不信感を示している。新たな危機の恐れはドル資産からの資金流出を加速しかねない。そうなれば米国は軍事衝突の可能性に加え、ドル危機に対応する必要が生じる。

 昨年11月の大統領選がトランプ氏の予想外の勝利で終わった直後は、ドル危機のリスクは極めて小さいと思われた。資本が流入し、ドルは10年以上ぶりの高い水準に上昇した。投資家は大規模な規制緩和や減税、インフラ投資などによる経済成長を期待した。

 しかしトランプ政権の相次ぐトラブルで、「トランプ相場」はドルに対する信頼感とともに反転した。政権発足から200日で、ドルは価値を10%近く失った。トランプ氏がツイッターにナンセンスな投稿をしている間に、投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す。この傾向は最近の米国と北朝鮮の対立の前から始まっていたが、当時は小幅な下落にすぎなかった。いまや資金流出が洪水に変わり、ドルが恒久的なダメージを受ける可能性もある。

 トランプ政権は実際にはドル安を望み、世界の資金の逃避先としての役割を他国に期待するかもしれない。しかし王権の放棄は危険で、歴史上に例をみないほど近視眼的といえる。米国にとって、価値をためる手段としてのドルの人気は極めて大きい。投資家や中央銀行が富を米国債など米資産に投資すると、米政府は世界の安全保障への関与に必要な支出を続け、貿易・財政赤字を穴埋めできる。

 トランプ氏は世界の準備通貨を持つ利点よりも、コストに注目しているようだ。しかし、資本流出を心配しなければならなくなったら「米国を再び偉大にする」どころではない。世界の金融システムでの支配的な立場を犠牲にした米国は偉大とはいえない。トランプ氏はドルを試練にさらし続けるなら、後悔することになるだろう。

((C)Project Syndicate)

 Benjamin Cohen 米コロンビア大博士。専門は国際金融、国際政治経済学。同タフツ大教授などを経て現職。著書に「通貨の地理学」。80歳。

有事の円高避けよ

 米政権の混乱でドルの信頼低下が進むなか、コーヘン氏が指摘する通り「投資家はスイスから日本まで代わりとなる市場を探す」。その結果起きるのが、円がマネーの逃避先になるという現象だ。

 マーケットの混乱や軍事情勢の緊張など逆風が日本を襲うとき、同時に円相場も上昇し、輸出面から日本経済にさらなる下押し圧力をかける。やっかいな話だ。

 「有事の円買い」が起きてしまう理由はいくつかあるが、ひとつは日本のデフレだ。物価上昇率が低い国の通貨は、相対的に価値が下がりにくい。となると危機時に投資家が円保有に安心感を見いだしても不思議はない。米国がドル安を放置するのなら、脱デフレを実現して「有事の円高」を避ける自衛措置が日本には必要だろう。

(編集委員 清水功哉)



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