ニッポンの革新力(2) 活路はどこに 大企業に眠れる知 解はすぐそばにある 2017/11/2 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「ニッポンの革新力(2) 活路はどこに 大企業に眠れる知 解はすぐそばにある」です。





 森に囲まれた東洋大学川越キャンパス(埼玉県川越市)。「会社に残っていれば、電気自動車(EV)用のモーターの勢力図は変わっていたかもしれない」。2010年まで東芝の技術者だった堺和人教授はこんな思いで研究を続ける。

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外資傘下に入ったことで埋もれかけた技術が日の目を見た(シャープが発売した健康機器のセンサー)

 手がけるのは永久磁石の磁力を自由に変えることで、モーターの効率を大幅に高める技術だ。洗濯機で実用化し大型のハイテク機器への活用を考えた。だが、リーマン・ショック後の業績悪化を背景に、応用は足踏みに。堺教授は研究環境を求めて東芝を去った。

 EV時代が近づき、堺教授のもとにはLG電子など韓国メーカーから共同研究の打診もあった。東芝は将来の成長を担うかもしれないEV用モーターの技術の種を失っていた。

 日本企業は1980年代に半導体や家電で世界を制したが、その後は米国などに後れを取る。研究開発(R&D)が生むリターン(利益)、いわば「ROR(リターン・オン・R&D)」の低迷が止まらない。

 デロイトトーマツコンサルティングは主要国の企業が生んだ5年間の付加価値の平均を、その前の5年間の研究開発費の平均で割ってR&Dの効率を算出した。日本が製造業で競合する国では16年はフランスが49倍、ドイツが42倍、米国が39倍と高く、日本と韓国は32倍で最下位に並んだ。

 「日本企業の研究所は事業化という出口を見据え、技術の種をどう組み合わせるかを考えられていない」。日立製作所で中央研究所長を務めた日本電産中央モーター基礎技術研究所の福永泰所長はこう指摘する。

 解は身近にある。16年8月に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったシャープ。「『会議は来週』ではなく『今から』。判断が段違いに早い」。シャープライフサイエンス(神戸市)の北村和也副社長は感慨深げだ。8月に発売した血中の老化の原因物質の濃度を測る健康機器。血液を採取せずに済み、利用者の不快感を抑えられる。

 シャープの技術者は10年に開発を始め、4回も試作品を完成させた。しかし当時の経営陣は関心が薄く、商品化は遅々として進まなかった。「日本企業の社員は優秀だが、経営の判断に問題がある」(郭台銘董事長)と考える鴻海は買収直後にこの事業を分社。1年で発売にこぎ着けさせた。

 外部の力を生かして「知の死蔵」を避ける動きはじわりと広がっている。

 「ソニー1社のカメラに縛られたくなかった」。監視カメラの映像をクラウド上に録画するサービスを手がけるスタートアップ企業、セーフィー(東京・品川)の佐渡島隆平社長は14年の起業を振り返る。

 佐渡島氏は当時、ソニーグループにいた。会社側は出資で支援する形で送り出した。セーフィーはその後、200種以上のカメラに対応するまでシステムを磨いた。9月末には技術力を評価したオリックスなど5社が10億円近い出資を決め、価値の輪が広がった。

 変化が緩やかな時代には、知をためこむ日本型経営が通用した。変化が激しいデジタルの時代には、自前主義を克服する経営の知恵が革新力を左右する。



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