ハイテクの爪隠す中国 2018/07/18 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「ハイテクの爪隠す中国」です。





米国と中国の貿易戦争が激しさを増している。トランプ米政権を突き動かすのは、中国が次世代のハイテク技術で米国を抜き去るのではないかという危機感だ。防戦に回った中国は「爪を隠す」戦術を取り始めた。

(画像:半年前は一面の畑だった場所にできた街の道路は、自動運転の試験コースになっている(河北省雄安新区))

トランプ政権が知的財産の侵害を理由に中国製品への制裁関税を発動した6日。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は自らトップを務め、改革の基本方針を決める「中央全面深化改革委員会」を招集した。

「改革を着実に深めなければならない」。国営の新華社が配信した発表文を読むかぎり、習氏が米国との貿易戦争について語ったふうはない。だが目をこらすと、ハイテク分野での戦いを意識した布石が浮かぶ。

この日の委員会では「河北省雄安新区の全面的な改革の深化に関する指導意見」を採択した。詳しい中身は明らかにしていないが、国家プロジェクトである雄安新区の建設を加速する指示とみてまちがいない。

EVモデル地区

雄安新区は2017年4月に習氏の肝煎りで計画が決まった。35年の完成をめざし、人口200万人の巨大都市を北京の南西100キロメートルに築く。

鄧小平氏の深?、江沢民元国家主席の上海浦東に並ぶ「千年の大計」をうたい、当初は習氏の権威を高める政治宣伝にすぎないとの見方もあった。しかし、それだけでないのは今や明らかだ。

4月、雄安新区に「市民服務センター」というモデル地区が静かにオープンした。すでに十数棟の斬新なデザインの建物が立ち並び、ホテルやスーパー、レストランも備えた未来都市の片りんが姿を現している。

ここを訪れれば、中国の狙いがみえてくる。街にはガソリン車が入れない。多くの電気自動車が配置され、充電ステーションもずらりと並ぶ。道路は自動運転車の実験に使え、ネット大手の百度(バイドゥ)が試作車を走らせている。

驚くべきは、一面の畑だった場所にわずか半年で街が出現したことだ。雄安は新たな都市を丸ごとつくり、電気自動車や自動運転車など次世代技術の普及を一気に進める構想にほかならない。

少し前なら、中国は「強国」の象徴として宣伝しただろう。実際、今春公開した映画「すごいぜ、わが国」では世界に誇れる「国産」の技術が次々と登場し、国民の自尊心をくすぐった。

見せかけの譲歩

しかし、トランプ米大統領がハイテク製品を狙い撃ちにした対中制裁に動き出すと、状況は変わる。「すごいぜ、わが国」は上映中止になり、国営メディアは米国がやり玉に挙げるハイテク産業の育成策「中国製造2025」をほとんど報じなくなった。

むしろ中国は世界の一流まで距離があるという主張に軸足が移る。「米国をはじめ先進国に比べ中国の科学技術は大きな差がある」。中国政府系の科技日報で編集長を務める劉亜東氏は、6月下旬の講演でこう訴えた。

鄧小平氏はかつて「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる外交戦略を唱えた。強くなるまで「爪を隠して力を蓄える」考え方だ。中国は米国の警戒心を解くため、これを復活させつつある。

1957年にソ連は世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げた。米国は衝撃を受け、技術開発に巨額の予算をつぎ込んだ。それがインターネットや全地球測位システム(GPS)などの革新的な技術を生み出し、ソ連との競争に勝つきっかけとなった。

トランプ氏にとって、中国の台頭はスプートニク・ショックと同じなのだろう。ただ、かつての米国のように自らの技術を鍛えてライバルに勝つのではなく、中国の発展を力ずくで抑えて優位を保つ道をまい進する。

確かなのは、たとえ中国が米国に譲るそぶりをみせても、あくまで「爪」を隠しているにすぎないことだ。米アップルの自動運転技術を盗み、中国企業に渡そうとしたとして元社員が7日に米国で逮捕された事件はそれを予感させる。

中国の知的財産への対応はたしかに問題が多い。しかし、米国が仮に貿易戦争で勝っても、ハイテク戦争に勝てるとは限らない。トランプ氏はそれに早く気づくべきである。

(中国総局長 高橋哲史)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です