パン下あの扉 つながる世界(6) 保護主義の誤謬 相互依存の網は切れず 2018/1/7 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「パン下あの扉 つながる世界(6) 保護主義の誤謬 相互依存の網は切れず」です。





 ブラジルの製薬大手、バイオラボ・ファーマシュティカは2017年10月、カナダのトロントで海外ではじめてとなる研究所の開所式を開いた。18年はじめに本格稼働を目指す。当初の予定地は米ニュージャージー州だったが、専門技能を持つ外国人向け査証(ビザ)「H1B」を取得しにくくなった米国では優秀な人材の確保が難しい。

米ケントは工場をサウスカロライナ州に移したが、トランプ大統領が公言した支援はまだない=同社提供

 一方、カナダには人材が流入。トロントのIT人材はこの2年で2万2500人増え、米シリコンバレーとニューヨークを合わせた数を上回る。

 欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国では人材の流出が顕著だ。英アーンスト・アンド・ヤング(EY)によると、222の金融機関のうち68社がロンドンから人員の一部移転を決定もしくは検討しており、1万人以上がフランクフルトやダブリンに移る。

 貿易赤字の削減、産業の保護、雇用確保――。理由はそれぞれだが、多くの国が内向きになり、保護主義が台頭する。だが、それは最適解なのか。グローバル化の進展で国境を越えたヒト・モノ・カネの移動が活発になり、相互依存は網の目のように張り巡らされている。保護主義ではむしろ立ち行かなくなる。

 米自転車大手、ケントのアーノルド・カムラー最高経営責任者(CEO)は部品調達に頭を悩ませる。米国第一主義を掲げるトランプ政権からの支援を期待し、一部生産を中国から米国に移した。だが、米国で自転車部品の調達網はもうない。

 新たに部品を作ってもらうと中国製の5~10倍のコストがかかる。環太平洋経済連携協定(TPP)不参加も部品調達には逆風だ。「自由貿易で米製造業が得る利益を否定してはならない」とカムラーCEOはいう。

 米自動車業界は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに反対の立場だ。原産地規則が厳しくなりすぎると、部品を調達する企業はNAFTAを利用するのを諦め、一定の関税を払っても安い部品を選ぶ可能性がある。そうなるとかえって米国産の採用が減る。「中小企業が恩恵を受けるのは難しくなる」と米自動車貿易政策評議会(AAPC)のマット・ブラント会長は懸念する。

 経済産業研究所のデータでは、世界の部品の輸出額は15年までの35年間で17倍に増えた。最終製品の11倍を大きく上回る。米国の輸入額の約半分は部品を含む中間財と素材だ。国をまたぐ調達網が確立し、相互依存が強まっている証左だ。米アップルは部品を200社以上から集め、その部品会社の拠点は世界の約30カ国・地域にまたがる。

 経済学者のポール・サミュエルソンは著書「経済学」の中で「関税は自国の道路に自ら穴を掘るようなもの」と表現する。経済連携が深まった今、自国のことだけ考えては、孤立し、他国を利するだけだ。保護主義の誤謬(ごびゅう)に陥らないためにも、相互依存を生かして果実を得る知恵が求められている。



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