プーチン氏、成果と誤算 2018/07/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「プーチン氏、成果と誤算」です。





ほぼ1年ぶりにヘルシンキで16日開いた米ロ首脳会談で勝者となったのはプーチン・ロシア大統領だった。国際的に孤立したロシアが、自らが主張する権利をトランプ政権時にできるだけ認めさせる。その実現に向けた一歩となった。

(画像:プーチン氏(右)はトランプ氏に批判の機会を与えなかった=ロイター)

弱みにつけ込む

勝負は始まる前に決していたのかもしれない。会談を要請したのはトランプ大統領側。プーチン氏側に断る理由はない。というより年初から側近の情報機関トップらを米国に派遣し、会談再開の感触を探っていた。

トランプ氏には弱みがある。2016年の米大統領選にロシアが介入し、これにトランプ陣営が共謀したのではないかという「ロシア疑惑」を抱えている。

記者会見でこれを否定し、恩を売れば交渉で優位に立てる。首相時代も含めて実質18年間トップとして君臨する老練の政治家がこう考えても不思議ではない。

しかもトランプ氏は「米国第一主義」を掲げる。これまで米国が主導した国際秩序を自ら壊し始めた。すでに欧州とは軍事、通商を巡り溝が深まっている。

ロシアにとって北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)が拡大し、自国に迫ってくるのは脅威だった。

トランプ政権のうちにできるだけ欧州や日本を含むアジアで米国の影響力を弱めてロシアが取って代わる――。プーチン政権に近い筋はロシアの戦略をこう指摘する。

そもそも、14年のウクライナ領クリミア半島併合をきっかけに経済制裁を受け、孤立しているロシアに会談で失うものはない。

遅刻したプーチン氏のペースで会談が進んだのは明らかだ。テレビカメラが並ぶ会談冒頭と記者会見で口火を切ったのはいずれもプーチン氏。会見を仕切ったのはロシアの報道官で最初に質問したのはロシア側の記者だった。現地では「中立国での会談とは思えない」との声もあった。

話す内容でも差が出た。トランプ氏はプーチン氏になぜいま会うのかという説明や「ロシア疑惑」の火消しに終始した。

一方、プーチン氏は核軍縮、テロ、シリア問題などの課題をあげ、ロシアが国際舞台で重要な役割を果たせることをアピール。ウクライナ問題に関する質問には「ロシアでは解決済み。(この問題は)これで終わり」と一方的に打ち切り、米側にロシア批判の機会を与えなかった。

プーチン氏は会談で2つの成果を得た。1つ目は国内向け。大統領は今年5月に通算4期目に入った。しかし、世論調査によると、支持率は5月の81%から今月上旬に63%に低下した。

理由は経済の閉塞感に加え、付加価値税(日本の消費税に相当)引き上げ案と年金受給開始年齢の引き上げ案を6月に発表したこと。予期せぬ負担増に国内では抗議デモが起きている。

不満を強める国民の目をそらし支持を回復するには国際問題で奮闘する姿を見せることだった。

2つ目は外国向け。ウクライナ問題でまったく譲歩せずに国際的に孤立していないことをアピールすることに成功した。

介入否定で反発

ただ、用意周到だったプーチン氏にも誤算があった。

トランプ氏が記者会見で「ロシア疑惑」について、介入を否定するプーチン氏と米情報機関のどちらを信用するかという質問に「ロシアが干渉する理由が見つからない」と、ロシアの肩を持ったことだ。

あたかも自国の大統領がロシアに屈したかのような印象を与える発言は米国内で猛反発を招いた。結局、翌日発言を撤回したが、これまで以上にロシアへの警戒感が与党共和党も含めた米議会に広がった。

ロシアはトランプ氏の働きかけで早期の経済制裁の緩和をもくろんでいた。しかし、この点では逆効果となった可能性が大きい。

次の手が打ちづらくなったプーチン政権が注視するのが11月の米議会中間選挙だ。共和党が勝利すれば、トランプ氏は信任を得る。それをにらんだ水面下の動きが活発化しそうだ。

(編集委員 坂井光)



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