ミレニアル世代が創る世界 本社コメンテーター中山淳史 2017/5/3 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「ミレニアル世代が創る世界 本社コメンテーター中山淳史」です。





 来年に生誕90年を迎える漫画家の故手塚治虫氏。代表作「鉄腕アトム」は「50年後を想像して描いた」と作品を管理する手塚プロダクションの松谷孝征社長は話す。

 ただ、登場する人間は未来的には描かなかった。ケンちゃん、四部垣、タマちゃん。アトムの同級生は2000年代という時代設定とは対照的に、いがぐり頭や丸めがねの小学生が多い。手塚氏はあえて昭和の雰囲気を織り交ぜ、読者との距離を工夫していた。

 では今、その同級生たちが実在していたらどうだろうか。頭の中は昭和ではないはずだ。今風に言えば、友達はみな「ミレニアル(千年紀)世代」に属するからだ。

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 1980~2000年に生まれ今年17~37歳になるミレニアル世代。世界でベビーブーマーより多いとされるこの層が存在感を強める。トランプ米大統領の長女で大統領顧問を務めるイバンカさんと夫のジャレッド・クシュナー同上級顧問、米情報機関の個人情報収集を暴露したエドワード・スノーデン氏、米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、人気歌手のレディー・ガガさん。日本ではテニスの錦織圭選手、大リーグ・レンジャーズのダルビッシュ有投手、小泉進次郎衆院議員らが代表的だ。

 パソコンやスマートフォン、あるいは交流サイト(SNS)を幼少期から日常的に使いこなし、「デジタルネーティブ」「スーパーコネクテッド」とも言われる。

 デロイトトーマツコンサルティングの土田昭夫執行役員によれば「ダイバーシティー(多様性)や移民に寛容で、既成の秩序に物足りなさを感じている。政治家や経営者については名声より未来の可能性で評価する」そうだ。

 そんな特徴の一端が表れたのが投資家としての彼ら、彼女らだろう。電気自動車を生産する米テスラが先月、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターを株式時価総額で追い抜いた。原動力はミレニアル世代の投資家だったとされている。

 投資のセオリーでいえば、年間の販売が8万台弱のテスラには考えにくい株価だ。QUICK・ファクトセットによればテスラの18年業績予想に基づく株価収益率(PER=株価が1株利益の何倍まで買われているかを示す)は1日終値で300倍を超す。年間1千万台を売るGMは6倍、米企業の平均は16倍で、極端に「買われ過ぎ」の状態だ。

 だが、ミレニアル世代は「バリュエーション指標より経営者(=イーロン・マスクCEO)の世界観をみている」とアクセンチュアの川原英司マネジング・ディレクターは指摘する。例えばマスク氏の事業は家庭用蓄電池や太陽光発電、宇宙ロケットにも広がる。世界で網の目のように設置するという充電ステーションと車、家庭、発電所をつなぎ、再生可能エネルギーとビッグデータの「プラットフォーマー」の座を狙う。その一方、環境保護で「地球と人類を救う」などの壮大な理念も掲げる。

 目指すのは二酸化炭素を出さない社会だそうだ。ディーラー網や在庫は持たず、ネットで受注生産する。太陽光や風力で発電し、充電費用はゼロという、にわかには信じ難い仕組みも模索する。

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中山淳史(なかやま・あつし) 産業部、米州総局(ニューヨーク)、証券部などを経て、論説委員、編集委員を務めた。専門分野は自動車、電機、運輸など

 テスラには米アップルなどからの転職者が増えている。夏から生産する普及型の新型車には、日本車などからの乗り換えで約40万件の予約も入った。転職者や購入者の多くはミレニアル世代だ。

 自身もミレニアル世代の深尾三四郎・浜銀総合研究所主任研究員は「この世代のキーワードはexponential(指数関数的)」と話す。3の2乗は9、3乗は27という乗数に似た加速度的成長軌道を表す。テスラで言えば「従来の車、エネルギー、宇宙企業ができなかったことを短期間で実現し、指数関数的な速度で追い抜いていく可能性を感じる」(同)そうだ。

 そのイメージが左のグラフだ。従来の自動車産業は世界での売上高の平均成長率が年間2~3%であり、新興プラットフォーマーがある時点であっという間に抜き去ってしまうとの図である。

 exponentialな企業はほかにもある。米国では写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営し3月に株式上場した米スナップや、未上場ながら千億円規模の企業価値があるベンチャー企業群「ユニコーン」の経営者はほぼミレニアル世代に属する。人工知能(AI)の進歩を追い風に指数関数的成長を語り、注目を集める。

 日本のミレニアル世代はどうか。突出した起業家はまだ少ない。大企業でも就職氷河期の入社組が多く、人数は少なめとされている。だが半導体材料などを生産するJSRの小柴満信社長は「この世代ののみ込みの速さ、創造性を見込んで今から最先端のIT(情報技術)教育を受けさせたい」と、10年かけて理系社員100人を米国に送り込むという。コンピューター技術の進歩により「研究開発の現場は今後5~10年で手法もスピードも様変わりする。新事業は全部、この世代に任せるくらいの割り切りが必要」とも話す。

 国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の人口は2053年に1億人を割る。この年、ミレニアル世代は53~73歳を迎え、生産年齢人口の大半を彼らと次の「ポストミレニアル世代」が占めるようになる。人口オーナス(人口減という成長の重荷)の時代を任される世代であり、それを跳ね返すような技術革新や産業構造の変革を期待したい。この世代を支援する価値は十分にある。教育や活躍の場を与えることこそが、上の世代の役割だろう。



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