モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄 2017/11/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「モネータ 女神の警告 空前のカネ余り、世界翻弄」です。





 「100年に1度」といわれた2008年のリーマン危機。中央銀行の大胆な金融緩和や財政出動で世界は危機を脱し、震源だった米国は今や戦後最長となる10年の景気回復も視野に入れる。一方で出回るお金の量が未曽有の規模に膨らんでも、日米欧は物価の足取りが鈍い。世界経済は空前の低金利とカネ余りに向き合う未知の局面を迎えた。

 歴史上で最も低い長期金利とされてきたのは、1619年にイタリアの都市国家ジェノバで付けた1.125%だった。1990年代後半、デフレに突入した日本が379年ぶりに最低記録を更新。そこから世界は低金利時代に突入した。今や日銀は長期金利を「ゼロ」に誘導している。

 金利は今と将来の価値をつなぐ「お金の値段」だ。経済活動が温まると借り手が増え、借り賃にあたる金利も通常は上がる。15~17世紀の大航海時代や18世紀の産業革命期、第2次大戦後の高度成長期には、経済の急激な伸びにつれて金利が高まる場面がみられた。

 今起きているのは経済の成長規模をはるか上回るペースのマネー増殖だ。企業の資金余剰が進み、中銀が金利を引き下げても設備投資など実需が十分に喚起されない。

 16~17世紀ジェノバで金利低下が進んだのは「山の頂まで耕作され投資先が消滅したことが一因」(水野和夫法大教授)だった。1.125%を付けた金利はその後短期間に6%程度まで急騰した。低金利に我慢できなくなった投資家が他に逃げ出したためとされる。

 米欧が金融緩和の修正に動くなか、足元の低金利がこのまま続く保証はない。SMBCフレンド証券の岩下真理氏は「バブルと戦ってきた歴史を振り返れば壮大な実験が進んでいる」と話す。そのさなかに、トランプ米大統領はリーマン危機の反省から導入した金融規制の緩和を検討中だ。膨張マネーとどう向き合うのか、危機10年を前に問われようとしている。

日米欧企業、貯蓄年50兆円

 企業は稼いだ現金を機械や設備といった実物資産に投じ、足りなければ借金をする。残った資金を将来のために預金や有価証券として貯蓄したり、借金返済に充てたりする場合もある。1990年代までは投資が優先され、貯蓄水準を上回るのが常だった。

 90年の後半以降、まず日本企業に変化が起きた。人口減少による国内市場の縮小を見据えて投資を抑制した。輸出で潤い利益が増えたドイツ企業でも貯蓄が目立つ。近年では米国企業も貯蓄超過になり、日米欧の企業の貯蓄を合計すると、2010~15年の平均で年50兆円にのぼる。

 世界的な企業の貯蓄増加の原因について、米ミネアポリス連邦準備銀行は3月公表のリポートで「グローバルに活動する多国籍企業の利益が膨らみ貯蓄が増えた」と指摘した。低賃金国での生産などで人件費が下がった分、貯蓄に回っているという。

 米アップルやアルファベットのような莫大な利益を生む世界的な寡占企業の誕生や、設備に必要な金額の低下、研究開発費への備えを原因とする分析もある。

 本来は銀行を通じて家計からお金を借りる主体だった企業まで貸す側に回っている。金融市場にカネ余りをもたらし、お金の価値である金利の低下につながっている。

「緩和→物価高」崩れた図式

 中央銀行が緩和マネーを市場に流し込んでも物価の上昇につながらない――。景気が上向く中でも、日米欧の期待インフレ率は伸び悩んでいる。カネ余りがインフレ圧力を高めるという一般的な図式があてはまらない。

 インフレ期待をみる指標の一つに債券市場のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)がある。国債の利回り(名目金利)から、消費者物価指数(CPI)に応じて元本が増減する物価連動国債の利回り(実質金利)を引いて求める。物価の先高観が強まるとBEIは上がる。

 日本のBEIは日銀の異次元緩和後の2013年5月に2%近くまで浮上したが、その後は低下基調をたどり、今は0%台半ば。米国のBEIも13年以降は上値が重い。ユーロ圏も期待インフレ率の代表的な指標が停滞している。

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「循環的なインフレ圧力と構造的なデフレ圧力がせめぎ合っている」と話す。ネットで価格を比べやすくなり、値上げのハードルは上がった。機械化や人工知能(AI)の普及は賃金の上昇力をそいでいる。

 中銀がマネーを供給すれば物価は上がるという単純な議論は、金融危機後の大規模緩和という壮大な「社会実験」に否定されつつある。

不動産ファンド巨大化

 鈍い物価上昇の下でよどむマネーは投資の「水たまり」を生んでいる。一つが不動産市場だ。債券で運用利回りを稼げなくなった年金や機関投資家が不動産に目を向け、資金を預かるファンドは巨大化している。

 米フォートレス・インベストメント・グループが雇用促進住宅を政府から600億円で取得するなど、日本でもファンドの購入が活発になっている。米指数算出会社MSCIによると、ファンドなど運用のプロが抱える不動産の価値総額は2016年末で7兆4413億ドル(約800兆円)と、直近で最少の09年末より21%増えた。

 不動産サービス大手のジョーンズラングラサールによると、主要都市の優良不動産の利回り(賃料収入を取得価格で割った値)は2.9~3.5%。取得価格が上がった結果、リーマン危機前に投資が活発だった07年の3.2~5.1%を下回った。利回りを求めて膨れあがった投資が、利回りを押し下げた形だ。

 世界的な低金利で、投資のための借金の利払い負担は軽い。そのため、投資利回りから利払いを引いた最終利回りは、まだ投資魅力があると考える投資家が多い。リーマン危機前に比べ、低い利回りを許容する長期マネーの割合が高まっている側面もある。



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