一目均衡 英米政治が揺さぶる市場 編集委員 小平龍四郎 2016/06/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の投資情報面にある「一目均衡 英米政治が揺さぶる市場 編集委員 小平龍四郎」です。





 「今、こんな事件が英国で起きたら流れは一気に『離脱』でしょうね」。ロンドンの知己からメールが届いたのは、約1週間前だった。米国のナイトクラブで過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う男が銃を乱射するという事件の直後だ。米大統領選の候補指名が確定している共和党のトランプ氏は、事件を受けて移民の受け入れ停止を訴えた。

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 欧州連合(EU)にとどまるべきか否かを問う英国の国民投票でも、焦点の一つは移民だ。世論調査の結果では、経済メリットを重視し「残留」を訴える声と、移民急増への警戒から「離脱」を主張する意見が拮抗してきた。

 仮に反移民の感情をあおる事件が発生したら、世論は理屈を抜きにしてEU離脱が大勢となる……。イスラム教徒のロンドン市長が誕生するなど多様性を誇る英国でもそんな雰囲気が強まり始めた時、移民支援に力を入れていた労働党ジョー・コックス下院議員の銃殺事件が起きた。

 痛ましい事件をきっかけに扇情的な反移民キャンペーンが静まり、EU離脱派の勢いは鈍るのではないか。何ごとも冷徹でにべもない反応をする株式市場ではそんな解釈が浮上している。見方を変えれば、英国のEU離脱問題を左右するものは経済のロジックではないということだ。

 国民投票を控えた英国の雰囲気は、内向きのポピュリズムに彩られた米国の「トランプ現象」と共鳴している。元駐英大使の野上義二氏は日本記者クラブの講演で、こんな指摘をした。グローバル化の中で雇用が脅かされていると感じる人びとの不満が政治決断を後押しする構図は、米英に共通する。「メーク・ブリテン・グレート・アゲイン」。トランプ氏の主張を換骨奪胎したようなキャッチフレーズさえ英国のEU離脱派は口にしていた。

 6月の英国民投票と11月の米大統領選。2016年は二つの成熟した民主主義の市場経済国で、よもやと思ったことが現実になった年として記憶されるのかもしれない。市場がリスク・オフに傾きやすいのは仕方ない面がある。

 「世界がリスクに満ちたものに変わったわけではない。人びとのリスクの捉え方が変わったのである」。米大手運用会社ブラックロックで30年近く株式運用にたずさわってきたデニス・スタットマン氏に、投資家としての英米の政治状況への見方を聞くと、こんな答えが返ってきた。

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 スタットマン氏は「リーマン・ショックによって市場関係者は、起こりようのないことが、時には起こることを知った」ともいう。例えば、英国がEUから離脱し、米国ではトランプ大統領が誕生するといった可能性のことだろう。いずれの未来も、待望論の根底に横たわるのはグローバル化への警戒や憎悪だ。

 世界の株式市場は今しばらく、経済のロジックを超えたところで揺さぶられるのかもしれない。



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