中ロの枢軸に急所あり 2018/07/06 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「中ロの枢軸に急所あり」です。





戦前、英米が牛耳っていた世界に不満を募らせ、対抗しようとしたのが日本とドイツ、イタリアだった。3カ国は枢軸を組み、当時の秩序を変えようとした。

いま、似たような狙いから枢軸を組んでいるのが、中国とロシアだ。「世界の多極化」をめざし、米国主導の現秩序を力ずくで切り崩そうとしている。

戦前の日独伊はやがて戦争に突き進み、敗れた。では、中ロはどこに向かうのか。その行方は世界の将来にも、少なからぬ影響を及ぼすだろう。

一見すると、中ロは鉄の結束を保ち、目標にまい進しているように映る。米国によるシリア攻撃やイランとの核合意破棄に、そろって反対。北朝鮮問題でも、米国主導の交渉をけん制している。

「最高水準の関係だ」。6月8日、習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談したプーチン大統領はこう誇示し、米国けん制の共同声明を交わした。

だが、長い国境を接し、1969年に戦火を交えた両国の蜜月が、不動のものだとは思えない。よく耳を澄ますと、連帯の演出とは裏腹に、中ロからは緊張や対立の旋律が響きはじめている。

ユーラシア大陸の真ん中に位置し、中ロが国境を接する要衝、中央アジア。かつて旧ソ連に属し、いまはカザフスタンやウズベキスタンなど5カ国からなる。この地域の国々や米欧の政治家、有識者らが集まり、協力を話し合う会議が6月22~23日、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれた。

そこで感じたのは急激に台頭する中国に、ロシアの生存本能が脅かされている実態だ。会議の合間に、中央アジアの参加者からこんな秘話を聞いた。

ロシア当局は最近、影響下にある中央アジアのロシア語の放送局やネットメディアを使い、中国脅威論をあおる情報工作をひそかに強めている。インフラ投資に乗じ、中国人が押し寄せる。中国が土地を奪いに来る……。こんな情報を拡散しているというのだ。

ロシアからみれば、旧ソ連の一部であり、資源に恵まれた中央アジアは絶対、手放せない縄張りだ。ところが、会議の参加者らによると、この一帯は完全に「中国経済圏」に染まりつつある。

中央アジアとロシアの貿易額は16年、186億ドル(約2兆円)。これに対し、中国は300億ドルにのぼった。「一帯一路」の通り道として、中国はこの地域に高速道路や鉄道を広げる計画で、中ロの差がさらに開くのは確実だ。

プーチン大統領は不安はあるものの、今のところ「一帯一路」への支持を表明している。発展が遅れた中央アジアに莫大な資金を投じ、中国がインフラを整えてくれるなら、ひとまずロシアの利益にもなるという計算がある。

しかし、早晩、そうは言っていられない状況になるだろう。中国が1月、オホーツク海から北極海を抜け、欧州に伸びる「氷上のシルクロード」構想を正式に決めたからだ。

オホーツク海はロシアにとり、安全保障上、決して他国に触られたくない聖域だ。国防の命綱ともいえる戦略核ミサイル搭載の原子力潜水艦が、この海には配備されている。北極海も大切なロシアの軍事拠点になりつつある。

中ロの協調を優先し、プーチン政権は表向き、北極開発でも連携する意向を示してはいる。しかし、内部に通じた外交筋は「氷上シルクロード構想をきっかけに、ロシア軍内で『一帯一路』への脅威感が高まっている」という。

そんな空気を映してのことか、今年に入り、きな臭いできごとも起きている。同筋によると、ロシア軍は今春、通常戦力だけでなく、戦術核の使用も想定した演習を中ロ国境で実施したという。中国へのあからさまな警告だ。

中国側も、ロシアの縄張りを荒らしすぎないよう、最低限の配慮はしている。中央アジアでの活動はあくまでも経済にかぎり、安全保障には介入していない。

とはいえ、中国の国内総生産(GDP)はすでにロシアの約8倍になり、人口は約10倍だ。国力差が広がるにつれ、関係はぎくしゃくせざるを得ないだろう。

日米欧はこうした中ロの急所を突き、枢軸の勢いに歯止めをかけるべきだ。それが、自由で開かれた現秩序を守ることにつながる。では、どうすればよいか。

いちばん単純な策は中ロへの外交圧力を強め、枢軸の機能を弱めるというものだ。だが、両大国を封じ込めるのは事実上、無理であり、逆に結束を強めてしまう危険もある。

だとすれば、もうひとつの選択肢は中ロの亀裂を利用し、いずれかをこちら側に引き寄せるという策だ。現実には、強大な巨象である中国より、その中国に不安を抱くロシアの方が誘導しやすいだろう。

その意味で、安倍晋三首相が21回の会談を重ね、プーチン氏と関係を保とうとしたり、トランプ米大統領が今月16日、プーチン氏と初の本格会談を開いたりするのは、必ずしも誤りではない。

ただ、心配なのはロシアをこちら側に引き込むどころか、こちらがロシア側に歩み寄ってしまう危険だ。クリミア併合や米欧への選挙介入をうやむやにしたままロシアと和解したら、大きな禍根を残してしまう。

そうなれば、世界各地で強権勢力の台頭が加速しかねない。特に、米ロ修復を急ぐトランプ氏には、そんな不安を禁じ得ない。



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