中印、打算の雪解け 2018/06/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「中印、打算の雪解け」です。





【北京=永井央紀、ニューデリー=黒沼勇史】中国とインドが融和路線を加速している。モディ首相は26日、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)総会に出席し、連携強化を訴えた。4月と6月には立て続けに訪中して習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談したばかり。1年前、中印とブータンの3カ国国境地帯で軍同士が2カ月以上もにらみあいを続けた状況が一変している。

「AIIBによるインフラ投資は、何十億という人々の生活に好影響を与えるだろう」。モディ氏はムンバイで開かれたAIIB総会で、中国色の濃さが指摘される国際機関を高く評価した。加盟国への融資総額について「2025年までに1千億ドル(約11兆円)になるよう願う」とも述べ、中国出身の金立群総裁としっかりと握手した。国境紛争を抱えて長年対立してきた中印関係に何が起きているのか。

最初に動いたのは習氏だった。昨年12月、水面下でモディ氏に春先の非公式会談を持ちかけた。ちょうど米トランプ政権が対中強硬路線へとかじを切った時期だ。習氏は経済成長の鈍化や高齢化という深刻化する国内課題に対処するため、対外関係の安定を目指すと打ち出している。対米関係の悪化が確実になるなか、西に位置するインドとの二正面作戦を避ける必要があった。

広州、昆明、武漢……。中国が提案した会談場所はいずれも北京ではなく、中国中・南部の都市だった。対等な話し合いという形式にするため首都である北京を避け、なるべくインドに近い場所にするとの配慮だった。

「軍の動きに気付くのが遅れた」。インド側の説明によると、4月に武漢で実現した首脳会談で習氏は昨年の国境地帯での対立についてモディ氏に率直に説明した。事の発端となった国境地帯での人民解放軍による道路建設は、現場の軍が与えられた権限の範囲内で動いたものであり、中央政府の指示ではなかったと強調。今後は軍の動きを抑えるとも約束した。

モディ氏は中国軍の拠点を後方に下げるよう要求した。習氏がどう応じたかは不明だが、両首脳は再発防止へホットラインを開設することで合意した。

続く6月、両首脳は山東省青島で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて再び顔を合わせた。習氏は「中印は武漢会談を新たなスタートとし、互恵協力を全面的に展開していきたい」と述べた。インド外務省によると、2国間貿易額を20年までに1千億ドルに引き上げる目標設定までモディ氏に提案。領土紛争にフタをして、経済協力を進める姿勢を鮮明にした。

中国軍関係筋は4月の会談について、対立の現場となったドクラム地域の気象状況をふまえた措置だと説明する。現地は標高が高いため、秋から春は厳しい寒さと雪に閉ざされる。昨秋に中印両軍が撤退したのも、気象条件の悪化を奇貨とした面があった。関係者は「軍の展開が可能になる夏を迎える前に関係を安定させる必要があった」と明かす。

一方のモディ氏は1年後の総選挙も視野に、経済的な成果を狙ったとの見方が多い。インド経済のアキレス腱(けん)であるインフラ整備には多額の資金が必要で、AIIBや中国からの投資に期待がある。中国の14億人市場の開拓という思惑もある。中国は26日、改定した貿易協定に沿ってインドからの大豆輸入関税をゼロにすると発表した。貿易摩擦の対抗手段として関税を引き上げる米国産大豆の代替品という位置づけだ。

ただ、国境紛争の火種が消えたわけではない。モディ氏はAIIBを称賛しつつ、インドとパキスタンの係争地でのプロジェクトを抱える中国主導の経済圏構想「一帯一路」への参加は拒否したまま。SCO首脳会議でも加盟8カ国のなかでインドだけが「一帯一路」支持を表明しなかった。

米中二大国はインドをめぐって綱引きをする状況にあり、インドはそれを利用しようとしている節もある。対米けん制を狙う中国と、総選挙にらみで経済協力を目指すインド。両国の戦略的な「休戦」という構図が続く限り、融和路線は短期的なものに終わるリスクをはらむ。



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