中国共産党政権と日本(上)西側の関与政策 限界露呈 2018/05/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「中国共産党政権と日本(上)西側の関与政策 限界露呈」です。





今年4月、8年ぶりに閣僚級の「日中ハイレベル経済対話」が再開した。5月には中国の李克強(リー・クォーチャン)首相が来日した。中国首相の来日は7年ぶりだ。日中の対話のチャネルが回復しつつあることは歓迎すべきだが、今回の日中の接近は、米国や欧州連合(EU)が通商問題を巡り中国への懸念と批判を強める中で実施された点に留意する必要がある。

今年3月、EU諸国の駐中国大使28人のうちハンガリー大使を除く27人が連名で、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」政策について「自由貿易の障害」と批判する内容の報告書をまとめた。

4月17日付独経済紙ハンデルスブラットによれば、EUは、一帯一路関連のプロジェクトの大部分を中国企業が受注し、EUの企業が事実上締め出されている現状に不満を募らせている。さらに中国政府が知的財産権保護という世界貿易機関(WTO)のルールを順守せず、中国に進出した外国企業に技術やノウハウの開示を強要することにウンザリしているという。

米トランプ政権は批判にとどまらず対中経済制裁に乗り出した。今年1月に米通商代表部(USTR)が発表した報告書は、中国政府による市場や企業に対する過度の介入・干渉ならびに知的財産権侵害が市場主義経済に対する脅威になっていると批判した。加えて米国が中国のWTO加盟を支持したことは誤りだったとの見解を示した。中国がWTOに加盟した2001年以降の米国の対中通商政策に反省を迫るものといえる。

一方、日本は欧米より前に、中国との経済関係が一筋縄ではいかないという厳しい現実を突き付けられていた。

10年と12年に尖閣諸島を巡る外交問題が深刻化した際、中国政府は日中の経済的相互依存関係を逆手にとり対日経済制裁を断行した。日系企業が中国各地で暴徒の襲撃を受けた際にも積極的に保護しようとしなかった。日本の対中ビジネスを人質にとる形で日本政府に譲歩を強いるという中国の瀬戸際外交は、それまで盤石だと思われていた日中の経済的相互依存関係に少なからぬ衝撃を与えた。

いまようやく中国との経済関係に付随するリスクについて日米欧の政府当局者の間で一定の共通認識が生まれつつある。日米欧が20年以上維持してきた中国に対する「関与(engagement)」政策の妥当性を巡る議論も浮上している。

関与政策とは端的にいえば、米国を中心とする既存の世界経済システムに中国を組み入れ、中国に利益と安心を供与することで、中国との調和を図ることを狙う政策だ。1990年代前半にクリントン政権が打ち出して以降、米国ならびに日欧の対中政策の基本指針となってきた。

関与政策は、中国の経済発展に伴う中間層の拡大で政治の民主化を要求する機運が高まり、経済のグローバル化とともに、中国の政治体制改革を促すという未来予測を根拠としてきた。また同政策の支持者は、中国の政治体制の変化に伴い中国と日米欧の間に残る相互不信や緊張が緩和され、アジア・太平洋地域の安全保障環境が安定化に向かうという期待を持っていた。

そうした予測や見通しに基づき、日米欧は中国に対する経済支援と投資を積極的に進めてきた。日本は昨年まで中国に対する円借款を実施してきた(新規の貸付事業は07年以降なし)。日米の出資額が最も多い世界銀行とアジア開発銀行(ADB)は、いまなお対中融資を続けている。

だが現在、日米欧の眼前には当初の期待とは著しく異なる光景が広がっている。中国では様々な構造改革の試みもむなしく「権力と資本の癒着」に歯止めがかかっていない。すなわち中国共産党の高級幹部および党とコネでつながる集団が経済・産業の主要部分を独占的に支配し、富を特権的に囲い込んでいる。

中国の場合、往々にしてビジネスの成否や経済的地位の向上が党幹部との関係に左右される。よって経済発展に伴い出現した新たな富裕層や中間層は共産党とのつながりが全般的に強く、民主化をけん引する存在になっていない。一方、富の分配の著しい偏りは貧富の格差を拡大させ、数億の民衆からは政権に対する不満がデモや暴動といった形で噴出するようになった。

共産党は本来であれば、構造改革による格差是正に力を入れるべきだったが、そうした改革は特権集団の既得権益に抵触した。このため90年代以降、党内で優位に立った既得権益派は、一連の改革を骨抜きにしつつ排外的なナショナリズムを率先してあおり、それを通じて国内の不満を国外、特に日米に転嫁する政策に力を入れるようになった。

またそれと並行して、共産党直属の軍隊である人民解放軍に大々的に資金を投入するようになった(図参照)。

中国の大規模な軍拡は、中国国内の不満分子が日米欧と連携して共産党を窮地に陥らせるのではないかという根深い危機感と疑念に裏付けられている。それは危機感の起源となった89年の天安門事件以降約30年間維持されてきた。

共産党のプロパガンダにより90年代以降、国内に広く浸透した排外的色合いの濃い世界観は、中国でのネット世論の基調を成し、次第に中国外交を束縛するようになった。それにより中国政府が領土・海洋権益・安全保障などを巡り周辺諸国に譲歩することが困難になると、共産党は増強された解放軍を用いた威嚇や経済制裁を多用するようになった。これがアジア・太平洋地域の緊張増大を招いた。

結果的にいえば、米国主導の対中関与政策に基づく日米欧の巨額の対中支援・投資は中国の経済発展を後押ししたが、それにより中国との関係が安定化する展開にはならなかった。日米に関しては中国との経済的相互依存関係の発展と同時に、中国との軍事的緊張も増大の一途をたどるというジレンマが顕在化した。

昨年10月開催の中国共産党第19回大会で習近平(シー・ジンピン)総書記は、現在の軍拡路線を今世紀半ばまで継続することを高らかに宣言した。従って日米と中国との間の安全保障面での緊張は当分解消されそうにない。

中国の民主化シナリオも一段と想定しにくい状況となってきた。今年3月の全国人民代表大会では、国家主席の任期制限撤廃が決まった。中国が民主化に向かうのでなく、毛沢東時代の個人独裁に逆戻りすることを意味する。強権を掌握した習近平氏は、中国市場のさらなる開放を進めると言うが、同時に企業に対する国家の支配と統制を強化する意図も明白にしている。

3月1日付英誌エコノミストは「中国が早晩民主化・市場経済化するという西側の25年来の賭けは外れた」と評価。現在の関与政策の立ち位置を的確に反映した指摘だろう。

では日本政府は中国にどう向き合うべきか。中国との対話を続けることは当然だが、中国からの経済制裁、日系企業に対する介入や干渉、一方的な対話の拒絶、軍事的威嚇といった問題が再発しないという保障はどこにもない。

日本政府は中国との対話を続けると同時に、米国、EU、環太平洋経済連携協定(TPP)加盟国とともに対中関与の今後のあり方について協議する固定的な枠組みを設け、足並みをそろえる形で経済・安保両面でのリスクヘッジを着実に進めていくことが当面の対策として重要になる。

<ポイント>○米主導の関与政策で対中経済支援を拡大○新富裕層や中間層は共産党との距離近い○対中投資で経済発展しても緊張緩和せず

ポイント

あなみ・ゆうすけ 72年生まれ。慶応義塾大法卒、同大博士(法学)。専門は中国近代政治史

あなみ・ゆうすけ



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