中外時評 せめぎ合う「2つの中国」 「見える手」で民力抑えるな 論説副委員長 実哲也 2015/10/04 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「中外時評 せめぎ合う「2つの中国」 「見える手」で民力抑えるな 論説副委員長 実哲也」です。





 「投資部門はほぼゼロ成長」「事実上のハードランディング」。香港で先月会ったエコノミストたちからは、中国経済の現状について厳しい見方が聞かれた。

 今年前半は7%成長を達成したとする政府統計の信頼性に疑念を示す人も少なくなかった。

 景気下降には歯止めがかかるとの声が多い。「今年初めから冷え込んでいたインフラ投資が回復し、景気を下支えする」(JPモルガンの主任エコノミスト、朱海斌氏)とみられるからだ。

 問題はその先だ。高成長を追い求める政府の意向を背景に、あちこちでつくられた製造設備が一斉に過剰になっている。日本政策投資銀行の試算によると、中国の生産能力の供給過剰の規模は国内総生産(GDP)の15%にも達する。中国の鉄鋼やセメント生産の世界シェアは5割以上。売る先がなくなって世界へダンピング輸出している。

 シティバンクの蔡真真・アジア太平洋部門主任エコノミストは「過剰供給の解消は1990年代の日本のように長引く恐れがある。政府が倒産多発を嫌い、ゾンビ企業が残り続ける可能性があるからだ」という。インフラ投資で過剰債務を抱えた地方政府と同様、製造企業の債務の多くも不良債権化しかねない。

 賃金の急上昇に伴い外資系の工場建設も下火になった。世界の工場としての中国の地位は大きく揺らいでいる。

 ただ、こうした面だけみて中国は衰退に向かうと決めつけるのは早計だろう。「もう一つの中国」にも目を向ける必要がある。

 大連で9月上旬に開いた世界経済フォーラムの夏季会合。「インターネットを通じて世界中の小さな企業や途上国を助けたい」。巧みな英語とスケールの大きい話で聴衆を沸かせたのは電子商取引最大手、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長だ。

 馬会長が象徴するのは中国人の消費パワーと起業家精神だ。景気減速のなかでも小売り販売は10%前後の伸びが続く。原動力はアリババが主導するネット販売。2014年は前年比でおよそ5割伸び、消費に占める比率は10%にのぼる。

 消費が堅調なのは、都市への人口流入と賃金上昇を背景に中間層が拡大し続けているためだ。中間層の関心は健康や娯楽に移り、サービス消費の潜在需要は大きい。今年前半の映画の興行収入は前年同期の約1.5倍に増えた。農村部ではエアコンなど家電製品の普及率はなお低く、モノの消費も伸びしろがある。

 アリババのような新興企業の存在感も増している。例えば小型無人機(ドローン)市場では、06年に深圳で創業したDJIが世界最大のシェアを誇る。米国の主要なベンチャーキャピタル会社も中国に拠点を置き、地元ベンチャーへの投資を拡大している。

 消費の潜在力や人々のビジネス意欲をどこまで引き出せるか。それこそが中国の将来を占う大きな決め手になる。

 そのためには何が必要か。

 まずは、過剰な設備や債務を減らしつつ経済の急激な悪化を防ぐという巧妙なマクロ経済のカジ取りが求められる。調整が長引けば、消費や起業意欲にも響く。

 長い目で見てそれ以上に重要なのは、官が牛耳る経済構造を大転換することだ。

 中国の有力ビジネススクール、長江商学院の項兵院長は「金融、メディア、文化、医療、通信などで思い切った規制緩和をすることがイノベーションの促進には必要だ」と語る。サービスや消費にかかわる分野は参入規制が多く、製造業以上に国有企業が大きな影響力を持っている。

 習近平政権は国有企業改革を重視し、指針も出している。だが、識者の評判はあまり芳しくない。国有企業の合併など再編が中心で、公正な競争の促進にはつながらないとの見方が多い。

 経済だけの改革では限界もある。「私有財産を守る法制度や自由な考えを認める政治改革がなければ、イノベーションやサービス消費も拡大しない」と大和証券(香港)のエコノミスト、頼志文氏は指摘する。

 「(市場の)見えざる手と(政府の)見える手をともに活用する」。改革の行方に関する米紙の質問に習国家主席は最近こう答えた。

 経済や政治の安定を重んじるあまり「見える手」をあちこち動かし続けるのか。それとも人々の発意や自由な思考を伸ばす道を選ぶのか。それは中国が飛躍し続けるかどうかの岐路になるだけでなく、日本や世界の将来も左右することになるだろう。



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