中外時評 ロシアが望む米国像 「リーダー役退場」実は懸 念 2017/1/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「中外時評 ロシアが望む米国像 「リーダー役退場」実は懸念」です。





 退任を控え、土壇場で堪忍袋の緒が切れたのだろうか。米国のオバマ大統領は大統領選中にロシアがサイバー攻撃を仕掛けたと激しく非難し、ついには昨年末、在米ロシア大使館などに勤務していた35人もの情報機関職員を国外追放する報復措置をとった。

 米情報機関はサイバー攻撃について、プーチン大統領が指示し、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)などが関与したとする報告書を公表。その狙いは民主党候補のクリントン前国務長官の大統領当選を阻むためだったとする。

 それを踏まえればオバマ大統領の憤りは当然だが、根深い対ロ不信は同政権下で大きく冷え込んだ米ロ関係を改めて象徴したともいえる。

 名指しで批判されたプーチン大統領の反応はどうか。昨年末の記者会見では、オバマ大統領の対応に不快感を表明。「負けた側は常に外部に犯人を求めるものだが、原因は自らの中に探すべきだ」と余裕の表情で語り、サイバー攻撃への関与も否定した。

 ロシア人職員の大量追放という米側の措置には対抗策を打ち出すとみられたが、プーチン氏が直後に発表した声明は「我々は米外交官らに問題を起こすことはしない」。それどころか、ロシアに駐在する米外交官のすべての子どもたちを、クレムリンで開く新年とクリスマスのイベントに招待すると約束したのだ。

 もちろん、無条件で対抗手段を講じなかったわけではない。声明は相応の報復措置を行使する権利を留保しつつ、今月20日に発足するトランプ次期政権が米ロ関係改善にどこまで取り組むかを注視する姿勢を明示したのだ。

 そのトランプ氏はサイバー攻撃へのロシアの関与を認めたものの、米ロの「良好な関係」の構築には意欲的だ。トランプ氏の醜聞を握っているかどうかはともかく、ロシアが同氏の当選を望んでいたのは疑いない。プーチン政権が今回、対米報復措置を控えたのも、次期政権への期待の表れといえるだろう。

 では、米ロ関係は本当に改善するのだろうか。

 ロシアの著名な国際政治学者フョードル・ルキヤノフ氏は「クリントン、ブッシュ、オバマ氏も含めて、冷戦後の米国のすべての指導者はロシアの変革を求めてきた。それが関係を不安定にさせる主因だった。トランプ氏はロシアがどうなろうが関心がない」と指摘。その意味で米ロ首脳は理解しあえる仲にはなるだろうが、「互いの関心事は大きく異なり、米ロ関係が質的に大きく改善するとは期待しにくい」と予測する。

 一例として挙げるのが中国への対応だ。「トランプ氏がプーチン氏に中国と緊密に協力しないよう求め、米ロが協調して中国を圧迫すべきだと主張するのは明らかだ」と語る。いくら米ロ関係を改善したくても、経済を中心に中国と緊密な関係にあるロシアにとっては無理難題となる。

 米ロ関係が専門のロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長も「トランプ政権の誕生は米ロ関係にとって、プラスとリスクの両面が併存する」とみる。

 プラス面はトランプ氏の親ロ的な言動に加え、米共和党政権のほうが伝統的に米ロ外交が進めやすい点だ。また、トランプ氏はオバマ大統領やメルケル独首相のような原則論者ではないので「プーチン氏とは具体的な案件をめぐって気軽に話ができる」。

 半面、トランプ氏に外交経験がなく、周囲に経験豊富で有能な人材もいないのがリスク要因とする。さらに同会長が最大の懸念要因に挙げるのは、意外にも「米国が世界のリーダー(指導者)の役割から退場する」ことだ。

 プーチン政権はかねて米国主導の国際秩序を批判し、多極化世界の構築を呼びかけてきた。ロシアは実際、シリア和平や原油減産の調整役を担うなど、国際社会で存在感も誇示する。米国が世界の指導者役から退けば、なによりウクライナ危機を受けた対ロ圧力が緩和される可能性も芽生える。それなのに大きな懸念要因となるのは、なぜか。

 例えば、米軍がアフガニスタンから撤退すれば、イスラム原理主義がロシアに波及するリスクは高まる。イランの核合意がほごにされれば、核拡散の懸念が強まる。世界の自由貿易が後退し、国際金融市場が混乱すれば、ロシア経済にも悪影響が及ぶ……。

 「ロシアは中国と同様、国際秩序の一翼は担えても米国の代役は務まらない」(ルキヤノフ氏)。世界での米国の指導力がある程度弱まるのは歓迎するが、完全な退場は決して望まない。ロシアが抱えるジレンマである。



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