中外時評 対米不信 ロシアの言い分上級論説委員 池 田 元博 2017/7/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「中外時評 対米不信 ロシアの言い分上級論説委員 池田 元博」です。





 「彼はこの問題でひとつではなく数多くの質問をしてきた。私は可能な限り応じ、すべての疑問に答えた」

 今月7日、ドイツ・ハンブルクの20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて開かれたトランプ大統領との初の米ロ首脳会談。プーチン大統領は会談後、ロシアによる米大統領選挙への干渉の有無が議題となったことを認めた。

 初顔合わせとあってか、会談は2時間15分に及んだ。シリア南西部の停戦合意など一定の成果はあったものの、焦点となったのはやはり、サイバー攻撃を含めた昨年の米大統領選をめぐるロシアの関与疑惑だったようだ。

 トランプ大統領も会談後、ツイッターで真っ先に「私はプーチン大統領に2度、我々の選挙にロシアが干渉したと強く主張したが、彼は激しく否定した」と指摘している。

 疑惑はそもそも、米ロ関係改善に前向きなトランプ氏を米大統領選で支援すべく、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けたというものだ。当時のオバマ大統領は昨年末、在米大使館などに勤務するロシアの情報機関職員35人の国外追放などの制裁措置を発令。米ロ関係は一段と冷え込んだ。

 その米国でロシアの期待通りトランプ政権が誕生したのに、米ロの初の首脳会談の主題が関与疑惑だったというのは何とも皮肉な話だ。当然、関係改善の機運も遠のく。

 両首脳はサイバー空間の安全対策で協力するとしたものの、トランプ大統領は「実際にできるとは考えていない」とツイッターに記した。米国内では大統領の娘婿、さらには長男にもロシアとの共謀疑惑が浮上しており、大統領としてもロシアに甘い態度はみせられないのだろう。

 ロシアでも首脳会談後、これまで見送ってきたオバマ前政権の対ロ制裁への対抗措置として、近く約30人の米国人外交官の国外追放などに踏み切るとの情報が流布。ラブロフ外相は「具体的な対応策を検討中だ」と表明した。

 かつてトランプ氏の当選を望むような発言をしていたプーチン大統領自身、米国の基本的な政治路線は変わらないとし、「誰が米大統領になろうがどうでもよいことだ」と語るようになっている。

 冷戦終結から四半世紀以上たったというのに、米ロはなぜ「新冷戦」ともいえる相互不信に陥ったのか。一方的に悪者扱いされるロシアにも当然、言い分があるはずだ。

 その意味で参考になるのが先月中旬、米国で放映された「ザ・プーチン・インタビュー」だろう。米映画監督のオリバー・ストーン氏が数年間にわたって重ねたプーチン大統領へのインタビューをもとに制作した番組で、大統領による米国民向けのメッセージともいえるからだ。

 大統領はこの中で、米国の方がロシア大統領選に介入したと言明。特に自身が首相から大統領に復帰した2012年の選挙は「激しい干渉があった」と述べた。米外交官たちが反体制派を結集して財政支援をし、様々な反体制派の集会に参加していたという。

 さらに、対米不信の象徴として挙げたのが、ソ連崩壊後も存続し東方へと拡大を続ける北大西洋条約機構(NATO)だ。「NATOはその存在を正当化するため、外部の敵を必要としている」とし、軍事的脅威には「ロシアとしても相応の措置を取らざるを得ない」と主張した。

 NATOをめぐってはソ連時代、米ソの政府間で「東方に拡大しない」との密約があったのは事実だと確認した。同時に、その合意を「文書で確定しておくべきだった」と語り、公式文書が存在しないことも認めた。また、プーチン氏自身がかつて、クリントン米大統領(当時)に「ロシアがNATOに加盟する案はどうか」と打診したエピソードも明らかにしている。

 プーチン氏の言葉の端々には、冷戦後も一貫して敵国とみなしてきた米国の対ロ観が今の相互不信の根源にあるとの認識がうかがえる。

 もちろん、米大統領選へのロシアの関与が事実なら決して容認できない。とはいえ、米国の対ロ政策の過ちを棚に上げ、一方的にロシアを非難するだけでは関係改善の道筋は一向にみえてこない。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です