中外時評 繰り返す熱狂と悲観 長期の視点で資源投資を 論説委員 志田富雄 2016/03/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「中外時評 繰り返す熱狂と悲観 長期の視点で資源投資を 論説委員 志田富雄」です。





 原油相場は一時1バレル30ドルを下回り、2008年に記録した史上最高値の5分の1に下げた。中国による「爆食」が顕著になった03年の水準だ。市場は落ち着きを取り戻しつつあるが、本格的な相場上昇はまだ描きにくい。

 相場急落が油田などの開発投資に急ブレーキをかけたのは間違いない。米石油サービス大手、ベーカー・フューズ社がまとめる米国の油田掘削リグ稼働数は14年のピークに比べ4分の1に減った。

 それでも米国の原油生産量の減少はわずかだ。直近の生産量は日量約900万バレル(米エネルギー省統計)と、シェールオイルの生産が拡大する前の08年を400万バレルも上回る。シェール勢の粘り腰で、サウジアラビアなどの中東産油国は想定外の持久戦に持ち込まれた。

 市場はサウジ、ロシアなど有力産油国の協調減産に相場反転への期待を寄せる。だが、4月の会合がめざすのはこれ以上増産しない生産量の凍結。サウジのヌアイミ石油鉱物資源相は2月の講演で「非効率で非経済的な生産者が退場すべきだ」と減産の可能性を切り捨てた。

 既視感のある風景だ。サウジは1985年の石油輸出国機構(OPEC)石油相会合で需給の調整役を放棄し、価格維持からシェア奪回に方針を大転換した。70年代の相場高騰でノルウェーなどの新勢力が台頭し、減産はOPECのシェア縮小を招くからだ。

 86年に一時10ドルを下回った原油相場は、90年にイラクがクウェートに侵攻した際の一時的な急騰を除き、90年代末まで低迷を続けた。

 相場が急落した場面での生産削減は、財政赤字が膨らむ産油国にとって危険な賭けだ。仮に減産が奏功し、原油相場を押し上げることに成功しても現状ではシェールオイルを勢い付かせる。

 結局は世界経済が力強く成長し、石油需要が拡大するのを待つしかない。14年後半の相場急落から一貫して減産を否定するヌアイミ氏の発言の背景には過去の教訓がある。

 企業に価格ヘッジ手法を助言するマーケット・リスク・アドバイザリー(東京・新宿)の新村直弘代表取締役は「原油の需給が均衡し始めるのは17年以降で、本格的な相場上昇はインドが人口ボーナス期に入る20年代に入ってから」と予測する。

 その間は、相場急落が「負け組」を淘汰する市場メカニズムが働く。粘り腰を見せたシェール企業も追い詰められている。資源企業が拡大する「ストリーミング」と呼ばれる取引は、将来の生産分をお金に換える売り上げの先食いだ。ベネズエラ、アゼルバイジャンなど耐久力の弱い資源国は危機的な状況にある。

 昨年9月にはスイスの資源大手、グレンコアの株価急落が世界の株価を揺さぶった。資源大手や資源国の危機が金融市場に波及する事態に警戒は怠れない。危機は往々にして市場の気の緩みを突く。

 過去10年で資源権益の獲得に動いた日本企業にも逆風は強い。ただ、そこには新たな好機もある。資源市場の熱狂が続いた5年前までは考えられなかった優良権益が市場に転がり出てくるからだ。

 住友金属鉱山は2月、米鉱山大手フリーポート・マクモランから米モレンシー銅鉱山の権益13%(年間生産量で約6万2千トン)を10億ドルで追加取得すると発表した。会見に集まった記者の多くは不思議に思ったはずだ。なぜ、こんな環境で千億円を超す資源投資に動くのかと。

 その答えも30年前にある。同社がモレンシー鉱山の権益を最初に取得したのは86年2月。住友商事と共同で15%の権益を7500万ドルで手に入れた。

 当時の非鉄金属市場はどん底だった。85年には国際すず理事会による相場買い支え資金が枯渇し、ロンドン金属取引所(LME)が取引停止に追い込まれる「すず危機」が起きた。住友鉱の中里佳明社長は「米有力誌が『鉱山の死』を特集した」と悲観論が充満した時代を振り返る。

 同社が86年に権益を買い取った時のLME銅相場は1トン1500ドル以下だ。銅相場は11年に1万ドル台の史上最高値を記録し、現在は5000ドル前後にある。市場に向き合う経験が長い人ほど相場の先行きは誰も分からないことを身にしみて知っている。

 市場は熱狂と悲観を繰り返す。それに惑わされず、長期的な視点で将来に備えた投資が必要になる。資源を持たない日本はなおさらだ。

 30年前に権益取得を決めた先輩に感謝したい――中里社長に大型投資の決断させたのも市場の教訓に違いない。



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