企業の現預金、世界で膨張 10年で8割増の1350兆円 2017/7/2 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「企業の現預金、世界で膨張 10年で8割増の1350兆円 」です。





 世界の上場企業の手元に膨大なキャッシュが積み上がっている。総額で12兆ドル(1350兆円)に達し、有利子負債を超える手元資金を抱える「実質無借金」の企業は半数を超えた。リーマン・ショックなどの荒波に翻弄されながらも、IT(情報技術)分野を中心とした技術革新をテコに企業は利益を稼ぎ続けてきた。問題は経済の成長率が鈍化する中、巨大な手元資金を活用する有望な投資先がなかなか見当たらないことだ。

 「緊迫感を持って変革を追求すべきだ」。米ファンドのサード・ポイントは6月25日、スイス食品会社のネスレに経営改善を迫った。ネスレの手元資金は245億スイスフラン(3兆円弱)。モノ言う株主として知られるサード・ポイントは手元資金に安穏として改革を怠る経営陣に我慢できなかった。2日後、ネスレは2020年までに最大で手元資金の8割にあたる200億スイスフランの自社株を買うと発表した。

■「日本化」が進行

 世界の企業の手元資金が膨らみ続けている。日本経済新聞社がQUICK・ファクトセットのデータから集計したところ、現預金に保有債券や貸付金などを足した広義の手元資金は12兆ドルと10年前から8割増えた。人類が有史以来採掘した金(7.5兆ドル)を買い占めても使い切れない。

 有利子負債は7割増の19兆ドルだ。負債を超えるピッチで現金が積み上がり、53%の企業が実質無借金になった。

 地域別では米国が2兆8千億ドル、欧州が2兆1千億ドル、日本が1兆9千億ドル、中国が1兆7千億ドル。余剰資金をひたすら積み上げる経営姿勢は日本企業の専売特許だったが、ここにきて世界企業の「日本化」が進んでいるのだ。

 企業に現金が積み上がるのは、産業構造の変化の影響も大きい。インターネットやスマートフォンの技術革新で成長するIT企業は大型設備を必要とせず、使い道が研究開発やM&A(合併・買収)、自社株買いなどに限られる。

 代表格が米アップルだ。直近の手元資金は2568億ドル(約28兆円)と「iPhone」を初めて発売した10年前から17倍に膨らんだ。時価総額が約19兆円のトヨタ自動車を楽に買収できる規模だ。

 手元資金が増えると財務は安定するが、経営の効率性が低下する。このためアップルは12年以降2千億ドルを超える株主還元を実施し、5月にはティム・クック最高経営責任者が「19年までに(還元額を)3千億ドルに引き上げる」と発表した。人工知能(AI)関連など50社近くを買収して有利子負債を985億ドルに増やしたが、資金の膨張は止まらず実質無借金のままだ。

 有望な投資先を見いだせず、企業の資金は押し出されるように金融市場に還流している。米国株の最大の買い手は自社株買いを実施する企業自身。日本でも自社株買いの増加で自社が筆頭株主である企業が全体の1割に達する。

 米企業も金融危機が起きた08年以降は資金不足から資金余剰に転換。T&Dアセットマネジメントの神谷尚志氏は「家計から資金を調達し、投資をして経済全体に資金を循環させるのが企業の本来の役目」と話すが、今は企業にも家計にもお金が余っている。

■金利を押し下げ

 こうした余剰資金を吸い上げて使っているのが政府だ。金融危機後に政府は財政支出を拡大し債務を膨らませた。

 日米中の政府債務は計36兆ドルと10年前から9割増えた。返済能力に疑問符がつき長期金利が跳ね上がってもおかしくないが、実際は歴史的な低水準で推移。膨れる政府債務を企業や家計の余剰資金が支え、金利を押し下げている。

 企業の余剰資金を巡り、債務圧縮を急ぐ各国政府間の駆け引きも激しくなっている。

 多国籍企業の多くは税率の低いアイルランドやオランダに拠点を置き、利益をプールしている。トランプ米大統領が掲げる法人減税や本国投資法(レパトリ減税)は企業の手元資金を米国に集めて投資するよう促すねらいだ。米グーグルは英国やイタリアの税務当局と追加納税で合意したものの、スペインやフランスなどとは今なお係争が続く。

 ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「政府債務が膨らみ続けるといつかは増税などで国民生活に影響が出る。企業が余剰資金を長期的な視点で投資し、経済を押し上げる環境をつくる必要がある」と指摘している。

(富田美緒)



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