保守層の壁崩す人手不足 2018/06/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「保守層の壁崩す人手不足」です。





政府が外国人の単純労働者の受け入れにカジを切った。2019年4月に、建設や介護など5分野で最長5年の就労を認める在留資格を新設する。安倍政権はこれまで外国人の単純労働を原則認めず、かたくなに「岩盤」規制を守ってきた。なぜ穴を開けたのか。首相官邸は政権支持層の変化を感じ取ったようだ。

(画像:経済財政諮問会議であいさつする安倍首相)

安倍晋三首相が単純労働の新資格の設置を表明したのは5日の経済財政諮問会議。出席した榊原定征前経団連会長は「経済界として歓迎し感謝する」と首相に伝えた。

首相は「ベトナムの国家主席が群馬県で働くベトナム人に話を聞くと、日本人と同じ給与をもらっていたと驚いていた。『日本は素晴らしい』と言っていた」と応じた。

規制改革は、首相の経済政策「アベノミクス」の目玉だ。大規模な金融緩和とは違い、潜在成長力の引き上げにもつながる重要な政策だが弾不足も指摘されていた。にもかかわらず、首相は12年の第2次政権発足来「移民政策はとらない」と言い続け、外国人の単純労働者受け入れは岩盤規制にしてきた。

足りない介護士

背景には首相の支持基盤である保守層の声がある。治安悪化や日本人の雇用確保を理由に、保守層には外国人労働者の増加に慎重論が多いといわれてきた。

働き手が最も不足している単純労働も、保守層の反発を考えると、外国人で補う判断は難しい。これまでは、技術の習得を名目にした技能実習生や留学生に、実質的な単純労働をしてもらういびつな制度だった。

ところが昨年秋、政権が動き始める。「介護施設をオープンしても介護士不足で使えない。どうにかしてください」。官邸で内政を取り仕切る菅義偉官房長官に民間からこんな声が寄せられた。菅氏が事務方に調べさせると、当時開設した全国の介護施設の約2割は職員が定員割れ。職員不足なら十分なサービスはできない。介護を希望しながら施設に入れない人も多い実態が分かった。

厚生労働省に調査させると「25年度末には介護分野だけで55万人の人材不足になる」と試算を出してきた。さらに他業界にも調査を広げると、建設、農業、宿泊、造船を加えた5分野では、将来的に労働力不足が解消するメドが立たないことが判明した。菅氏は一連の調査を手に「総理、やりましょう」と首相に直接、掛け合った。

「仕方ないよね」

首相の変化を周囲が感じたのは今年に入ってからだ。2月、内閣官房幹部らが経済財政諮問会議に関して首相執務室で相談した時、首相は単純労働者について「仕方ないよねえ」と漏らした。

居合わせた官僚は「これは変わる」と感じた。「一定の専門性や技能を持つ人材」などの条件を付けて事実上の単純労働者の受け入れを認める検討が始まった。2月23日には早速、内閣官房を中心に会議ができ、6月までの短期間で結論を出す体制を整えた。

与党・自民党も足並みをそろえた。党には日本フードサービス協会や日本旅館協会など業界団体から外国人の受け入れ拡大の陳情が集まっていた。外国人問題に取り組む鈴木馨祐衆院議員は「かつて地方で意見を聞くと7割が受け入れ反対。いまは都市も地方も賛成が多い。人手不足が進みすぎて企業活動が立ちゆかなくなっている」と話す。こうした声は官邸にも届いていた。

自民党の保守支持層には農業や建設、中小企業が多い。いずれも人手不足が深刻だ。首相はアベノミクスの成果として、有効求人倍率が全都道府県で1倍を超えたと説くが、裏返せばこうした支持層は全国的に人手不足だ。人手不足対策は評価を得る――。保守層を支持基盤とする政権もそんな判断が働いた。

12日の自民党の政調全体会議。政府は治安悪化を懸念する保守系議員に配慮し「在留管理体制を強化する」などの文言を加えた案を示した。「最低限の日常会話ができる人を受け入れてほしい」。出席議員から相次いだのは慎重論ではなかった。どんな外国人を入れるのかという受け入れを前提とした話だった。

菅氏は周囲に「コンビニも外国人なしでは成り立たない。外国人が国を選ぶ時代だ」と話す。

いまの政権が支持を集める最大の要因はアベノミクスだ。9月の自民党総裁選が近づき、新たな成長策が必要だった。岩盤規制の本丸にようやく挑む。

(重田俊介)



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